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医師働き方改革は、絵に描いた餅なのか?

いよいよ医師働き方改革が法的に始まるまで10日を切りました。みなさんの施設では、どのような取り組みをされていらっしゃいましたか?

NHK特集で宿日直許可のあり方そのものが問われていますが、正直なところ最低限のルールに沿っているだけの働き方改革では、どんどん人員が流出してしまいます。逆に言うと、最低限のルール以上に、しっかりと働く医師のことを考えて愚直に取り組んでいる施設にとっては、好循環になる兆しが見えてきています。

伝え聞いた話では、東大脳神経外科はかなり前向きに医師働き方改革に取り組んでいるようです。当直明けはフリーで帰宅できたり、土日は当直医&オンコールドだけで対応したり、しっかりとオンオフが切り替えられて、今までの脳神経外科医のイメージが払拭されました。そのためか、若手の脳神経外科医がどんどん入局しているようです。こんな働き方であれば、私も最初の志のまま脳神経外科医を目指していたかもしれません...

一方、帳尻を合わせて、本来の労働時間を短く誤魔化そうとしている施設もあります。実情に合っていない宿日直許可の取得、17時以降は『自己研鑽』として勤務を強要、当直明けも通常勤務にさせるためのA水準での申請、これらはすべて、若い医師を搾取する旧体制と何ら変わりはありません。挙げ句の果てには、すべての勤務を労働時間としてカウントしてしまうと、地域医療が崩壊するという脅し文句を現場に投げかけている経営陣を見ると、「そんな世代の人たちには医師働き方改革は任せられないな〜」と思ってしまいます。

宿日直許可に関しては、2年ほど前に投稿したものが残っていたので参考にしていただきたいのですが、基本的に寝当直でないのであれば、本来は宿日直許可をすべきではないし、許可も下すべきではありません。しかしながら、労基が見る労務データを取る際に、できるだけ働いていないように報告させ、経営する側にとって都合を良くさせるようなズルが横行しています。真に施設で働く医師、そして地域の患者さんの将来を想うのであれば、「信頼」こそは病院経営を盤石とさせるものであるのではないでしょうか?

医師働き方改革は、どのくらい先が見れるかによって、今やるべきことが決まります。また、組織の規模によって、インパクトも大きく異なります。私が働いているような関連出向先のない弱小の大学病院医局では、働き方を良くして、人を集めて、長く働き続けられる環境をつくることが重要です。もちろん、アカデミックな活動として学生教育や研究・論文もあります。これらを継続的に行なっていくには、バランスをとりながら医局の中で互いに尊重し合える相互依存の関係を保つことがポイントです。一言で言えば「中庸」。個々のメンバーでは、自分が興味のあることをしっかりやっていく。集団としては、一定の学術活動を行なっていく。そのためには、医局の文化を保ちつつ、常に新しいことに挑み続けなければいけません。

医師働き方改革は、医師としてのOSのアップデート

これは以前から私が言い続けていることです。医師働き方改革という新しいルールが導入され、我々の業界は大きな転換点を迎えています。2004年の初期臨床研修制度&国立大学独立行政法人化、2018年の日本専門医機構発足、いずれも医療業界に大きな変化をもたらし、医局の在り方が新しい時代に沿ってきました。

昨年5月に報道された甲南医療センターの後期レジデントの過労死も含め、これまで多くの医師が長時間労働によって命を落としてきました。そういったご遺族の想いは「もうこれ以上、若い医師の命を奪わないで欲しい」という言葉に集約されています。私も成人のこどもを抱える親として、自分が辛かった体験を若い世代にはできるだけしてほしくないと思っています。

2017年から3年半過ごしたカナダでの臨床では、日本とは大きく異なった「働き方」を体験しました。身を粉にして長時間働き、家族と向き合う時間を削る生活ではなく、メリハリをつけることで、楽しく働き、しっかりと休む、そんな生活の中で、それまでにない充実感のある生活を送ることができました。「日本でも、これが実現できたら、サイコーだなぁ」と思って、この医師働き方改革に取り組んできました。

ようやく当院の麻酔科では+9名、合計52名体制で、4月を迎えることができます。これは決して一人の力だけではなく、医局のメンバーひとりひとりが、お互いを尊重し、より多くの仲間と居心地よく働き続けられる環境を作ってきた賜物だと思います。

4月から始まる医師働き方改革は、これまで不文律だった医師の働き方に一石を投じました。4月までに整えた体制で安穏と過ごすのか、それとも4月以降も積極的に取り組み、さらに改善していくのかが、大きな分岐点なのかもしれません。あなたの施設は、どちらのタイプになりますか?

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