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【医療者向け】帝王切開麻酔マニュアル

このマニュアルは、埼玉医科大学総合医療センター産科麻酔科で研修されている先生に共有されているものを、要約したものです。細かいエビデンスなどについては、随時追加していきますので、定期的にチェックしていただければ幸いです。

なお、本マニュアルは麻酔科専門医の監督下に行われる帝王切開麻酔を想定しています。麻酔担当医が執刀医を兼ねる状況では、危険となる可能性もあるので、ご留意ください。

脊髄くも膜下麻酔

1. 最初の準備

SOAP:Suction(吸引)、Oxygen(酸素≒麻酔器)、Airway(気道)、Pharmacy(薬剤)の順番で行う。
特に吸引の準備は忘れがちになるので、一番最初にセットアップする。
脊髄幹麻酔で行う場合でも、麻酔器が使用できる状態にしておく。
突然、気道管理が必要になった際に慌てないように、デバイスは準備する。

2. 薬剤の準備

誤薬を予防するため、薬剤量だけでなく、常に同じシリンジを使うように。
❶ 脊髄くも膜下に投与するフェンタニル 10μg、モルヒネ 0.15mg を準備する。
 2.5mLシリンジにフェンタニル原液(①)
 10mLシリンジにモルヒネ1A(10mg/1mL)+生食9mL(②)
 ①0.2mL+②0.15mLを1mLツベルクリンシリンジに準備する。
❷ メトクロプラミド 10mg(2.5mLシリンジを使用)
❸ ノルアドレナリン1A(1mg)を生食200mLに混注し、ノルアドレナリン5μg/mLを準備。
 ノルアドレナリン持続静注(50mLシリンジを使用)をシリンジポンプにセットする。
❹ オキシトシン3A/15mLを20mLシリンジに準備し、延長チューブを繋げる(誤投与防止のため子宮切開までシリンジポンプにはセットしない)。
 詳細はオキシトシンプロトコール参照(後述)。
❺ 緊急薬剤
 ・エフェドリン1A(40mg)を生食9mLに混注(4 mg/mL)
  低血圧+徐脈の時に使用する。
 ・ニトログリセリン1mL(50µg)を生食9mLに混注(50 µg/mL)
  早産や骨盤位の帝王切開で使用することがある。
 ・全身麻酔導入薬(手術室内に準備)
❻ 手術室で末梢静脈路を確保する場合、局所麻酔用の1%キシロカインを1mLツベルクリンシリンジで用意しておく(❶で準備したものと間違わないように、1mLをシリンジに準備するように!!)。
❼ 術後悪心嘔吐(PONV)対策を確認。
 ・デキサメサゾン 6.6mg
 ・オンダンセトロン 4mg

3. 脊髄くも膜下麻酔の実際

・メトクロプラミド10mg静注。
・抗生剤投与に続いて,ビカネイト®500mL、またはボルベン®500mL急速輸液。
・右側臥位で,L2/3 or L3/4(第1選択)から,くも膜下穿刺(脊椎超音波で穿刺レベルを確認)。
・27Gのペンシルポイント針を原則として用いる。
・局所麻酔薬:高比重ブピバカイン 2.4mL(12mg)。
 手術時間延長が予想される場合、3.0mL(15mg)まで増量してもよい。
・くも膜下オピオイド:フェンタニル0.2mL(10μg),モルヒネ10倍希釈0.15mL(0.15mg)を添加。
・麻酔後直ちに仰臥位とし,子宮左方移動を行い,ノルアドレナリン持続静注(30 mL/hr = 2.5 µg/min)を開始する。血圧に応じて,ノルアドレナリンを増減する(Max 60 mL/hr)。
・麻酔開始から児の娩出まで血圧を1分毎に測定。
・T4までの冷覚消失を目指す(コールドテストは保冷剤を用いる)。
・低血圧と徐脈(HR < 60 bpm)が併存する場合,エフェドリン 8-12mg静注。
・子宮切開から児娩出まで3分以上かかると,胎児アシデミアの原因になりうる。
・児娩出後は子宮左方移動を解除する。
・子宮収縮薬投与:オキシトシン持続静注が第一選択。
 児頭が娩出されたら,投与開始。急速投与すると,血圧低下やST変化を認めるので注意。
・メチルエルゴメトリンは,子宮収縮不良あるいは産科医から指示があった場合に投与する。
 高血圧,冠動脈疾患,喘息では投与しない。原則は筋注(左大腿四頭筋が第一選択)。
急速静注してはいけない。輸液に混注するか,緩徐静注(生食9mLと混ぜ10分かけて投与)する。
・帰室時には,オキシトシン持続静注を終了し,メイン輸液にオキシトシン5単位を混注して帰室する。

コールドテストとは?
脊髄幹麻酔の麻酔範囲を評価する際に使用される、コールドテスト。
これは冷覚消失で評価しますか?(「冷たくなったら教えてください」)
それとも冷覚低下で評価しますか?(「おでこと同じくらい冷たかったら教えてください」)
 脊髄くも膜下麻酔では、冷覚消失と冷覚低下は2分節ほどしか違わないため、臨床的に大きな問題にはなりません。しかし、硬膜外麻酔では4分節以上異なることがあります。また、冷覚低下では、検者間格差が生じやすいです。同じ施設で複数回帝王切開を受けることは稀ではありません。その際に、麻酔の評価を統一していると、前回の投与量を参考にしやすいです。そのため、埼玉医科大学総合医療センター産科麻酔科では、コールドテストは冷覚消失で評価すると決めています。
 なお、帝王切開術中に痛みがないとされる麻酔範囲は、light touch T6(筆、綿などで評価)です(Russel IF. IJOA 2004; 13: 146-52.)。しかしながら、臨床的にlight touch T6消失はなかなか得られません。コールドテストは、比較的簡便に行え、妊婦に不快な思いをさせないこともあり、麻酔の広がりを評価するスタンダードと考えて良いでしょう。

麻酔評価のタイミング
脊髄くも膜下麻酔だけで管理をする場合、麻酔域の広がりが十分でないと、術中に麻酔が切れてきてしまいます。麻酔範囲が十分に広がっていなければ、積極的に頭低位とします。科学的根拠のない、個人のやり方ですが、
・麻酔後3分でT10冷覚消失
・麻酔後6分でT6冷覚消失
・麻酔後9分でT4冷覚消失
を目安に評価しています。
 もし、麻酔後3分でT10の冷覚消失が得られなかった場合、すぐに頭低位にします。逆に、T4の冷覚消失が得られれば、背部挙上を行います(頭高位だと下肢に血流が流れてしまい低血圧になってしまいます)。
 背部挙上では、呼吸が楽になるだけでなく、母子対面の際に、赤ちゃんの顔が見やすくなります。こういった細かい気遣いは、妊婦さんの出産体験をより良いものにすることができます。

4. 術後鎮痛とPONV予防

・麻酔法によらず、皮膚縫合時にアセトアミノフェン1000mg静注し、終了後にジクロフェナク50mgを挿肛する。
・アスピリン喘息ではNSAIDsは避けるが、喘息既往のみではNSAIDsの禁忌ではない。
・禁忌がない限り、胎児娩出後にデキサメサゾン6.6mg、オンダンセトロン4mgを静注する。
・限られた症例(前置癒着胎盤、全身麻酔+下位胸椎硬膜外麻酔)において、術後硬膜外鎮痛を行う。0.2%ロピバカイン単独(らくらくフューザー® 4mL/h、脊髄幹モルヒネ併用あり)、分娩棟手術室では0.1%レボブピバカイン+フェンタニル4µg/mL(CADD 4mL/h、脊髄幹モルヒネ併用なし)を行う。

5. 合併症とその対策

  • 全脊麻:気道確保し全身麻酔に切り換える。

  • 不十分なブロック:放散痛を訴えない状況での再穿刺は神経損傷のリスクを高めかねないことを念頭に置き、個々の状況で判断。

  • 術中の痛み:麻酔範囲が十分ならオピオイドやケタミンなどの鎮痛薬静注、腹腔内リドカイン散布。麻酔範囲が不十分なら全身麻酔へ切り替え(次項参照)。

  • PDPH(髄膜穿刺後頭痛):産後うつと関連するため、硬膜外自己血パッチを含めた疼痛管理を積極的に行う(Orbach-Zinger S, et al. EJA 2021; 38: 130-7.)。

6. 鎮静・全身麻酔への切り替え

術中の痛みは、帝王切開を受ける妊婦にとって、最も気になる点であり、麻酔科医は精神的不安を十分に理解する必要がある。脊髄くも膜下麻酔による予定帝王切開で、妊婦が何らかの痛みを訴える頻度は12%(Keltz A, et al. EJP 2022; 26: 219-26.)。つまり、10人に1人は何らかの鎮痛薬が必要となる。妊婦自身が多少痛くても「このくらいだったら、我慢しなければいけない」と思っているかもしれない。そのため、麻酔担当医は妊婦との信頼関係を構築し「気になることは、なんでも言っていいですよ」という雰囲気を作ることに努める。

麻酔科医としては、脊髄幹麻酔が奏功せず、鎮痛薬や鎮静薬、全身麻酔への切り替えを、恥ずかしいと捉えてしまうかもしれない。しかし、妊婦さんにとっては、つらい体験をなくして欲しい、そのためには必要時に必要な対処をして欲しいと願っているので、妊婦とコミュニケーションを取りながら、不快な体験を減らすよう最善を尽くす。全身麻酔への切り替えは、麻酔科医として恥ずべきことではない。むしろ、痛みを訴える妊婦に我慢を強いる診療こそ、避けるべきである。

以下の薬の使い方は、胎児娩出後に必要になった場合を想定している。もし、胎児娩出前に必要となった場合、その旨を新生児蘇生担当者に伝える。

  • フェンタニル:25-50µgずつ静注する。当院では、くも膜下フェンタニル10µgを投与しているため、90µg余っているので、40(0.8mL)-25(0.5mL)-25µg、もしくは40-50(1mL)µgと投与する。痛みが取れないからと言って、フェンタニルをどんどん投与することはしてはいけない。フェンタニル 90µgで疼痛コントロールができない場合は、別の鎮痛薬の使用を考慮する。

  • モルヒネ:フェンタニルが奏功しない場合、モルヒネ1.75-2.75mgを静注する(くも膜下投与用モルヒネ 1mg/mLを使用する)。すでにフェンタニルが投与されている場合、呼吸抑制が起こる可能性があるので、呼吸モニタリングを注意しながら行う。モルヒネは1-2mgずつ、5分ごとに投与すれば、呼吸抑制をきたすことはほとんどない。鎮静や多幸感もあるため、その副作用を期待して、フェンタニルより先行して投与しても良い。

  • ケタミン:体性痛に関しては、オピオイドよりも鎮痛効果が高いだけでなく、鎮静作用もあるため、使いやすい。初回投与は10-20mg、必要に応じて5-10mg追加投与する。オピオイドを併用して20mg、併用しないで50mgを越える場合は、全身麻酔への切り替えを考慮する。

  • プロポフォール:鎮痛効果はないため、痛みではなく不安が強い場合に使用する。導入量0.5 mg/kg、維持量5-8 mg/kg/hとするか、TCIで1.2-1.5 µg/mLとする。体重に関わらず、40mg静注し、20mgずつ妊婦の状態に合わせて追加する方法もある。オピオイドを投与していると、呼吸抑制が出やすくなるので、注意する。鎮静薬を投与する前には、口頭で鎮静薬を使用する旨を伝える

  • ミダゾラム:健忘作用があるため、帝王切開においては勧められない。プロポフォールと比較したRCTでは、10.4%の妊婦において胎児娩出時の記憶がなかった(プロポフォール群では全例想起できた。Danielak-Nowak M, et al. Anaesthesiol Intensive Ther 2016; 48: 13-8.)。北米では、ミダゾラムの使用により出産時の記憶がないことで訴訟になることもあるので、このようなリスクがあることを認識した上で考慮する。

  • ジアゼパム: ミダゾラムと異なり、逆行性健忘がないため、古典的なベンゾジアゼピンではあるが、帝王切開においては使用される(Barr AM, et al. Anaesthesia1977; 32: 873-8.)。2.5-5mgを静注する。血管痛がある点、希釈で沈殿する点に注意する(ジアゼパムはほとんど水に溶けず、プロピレングリコールや無水エタノールによって溶解されているため)。ジアゼパムそものもの血中半減期が20〜70時間と長い上、活性型代謝物(N-デスメチル体)も30~200時間と長いことから、反復投与は避ける。

  • 腹腔内リドカイン散布:20万倍アドレナリン添加2%リドカイン20mLを術者に渡し、10mLずつ左右の腹腔内に注入してもらい、5分程度待つと、腹膜刺激症状が抑えられる。術後鎮痛目的でのRCTがあり、実際の臨床現場においても効果がある(Patel R, et al. Anesth Analg 2017; 124: 554-9.)。

  • 亜酸化窒素:ケタミン同様、NMDA受容体拮抗作用があるため、鎮痛効果は高い。亜酸化窒素 4L/min+酸素 2L/minで開始し、ある程度鎮痛効果が得られれば50%(亜酸化窒素 3L/min+酸素 3L/min)で維持する。悪心を伴うこともあるので、誤嚥に注意する。マスクをしっかりとフィットさせないと、自分を含めて手術室内のスタッフが亜酸化窒素に曝露されてしまう(女性不妊や生理不順のリスク)。

  • 揮発性吸入麻酔薬(セボフルラン):もし麻酔科医が、揮発性吸入麻酔薬を使用したいと思ったら、それは全身麻酔へ切り替えるタイミングである。亜酸化窒素とセボフルラン(いわゆるGOS麻酔)で全身麻酔を避けることもできるが、誤嚥のリスク、気道確保のリスク、職業曝露のリスクなどを総合的に考え、素直にデバイスを用いて気道確保(気管挿管または声門上器具)をした方がよい。

気管挿管か?声門上器具か?
妊婦は誤嚥のハイリスク。これは、Menderson症候群により多くの母体死亡が発生した歴史的背景から、麻酔科医として忘れてはいけません。しかしながら、最近のエビデンスでは、陣痛のない妊婦における胃内容停滞時間は非妊娠時と変わらない(Van de Putte P, et al. BJA 2019; 122: 79-85.)、声門上器具で安全に全身麻酔下帝王切開ができた(White LD, et al. Anesth Analg 2020; 131: 1092-101.)、など、必ずしも「妊婦の気道確保=気管挿管」というわけではありません。
 例えば、陣痛のない妊婦で然るべき絶飲食時間が守られているのであれば、声門上器具を使うことは問題ないと、私は考えています。逆に、フルストマック妊婦で深い鎮静が必要になりそうな場合は、早い段階で気管挿管を考慮します。
 こういった臨床判断をするためにも、産科麻酔を専門とする麻酔科医は、常に気道管理スキルや胃内容超音波の技術を磨く必要があります。

「手術が長引きそうだからCSEA」でホントにいいの?
帝王切開のCSEA(Combined Spinal Epidural Anesthesia: 脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔)には2種類あります。脊髄くも膜下穿刺と硬膜外カテーテル留置を同じ椎間で行う一椎間法と、それぞれを別々の椎間から行う二椎間法です。一般的に二椎間法CSEAでは、術後鎮痛目的で硬膜外カテーテルを使うため、下位胸椎レベルに挿入することが多いです。そのため、手術中に2%リドカイン5mL程度のトップアップでも、術中鎮痛として有効です。
 一方、一椎間法では、硬膜外カテーテルが腰椎レベルに入っているため、帝王切開の手術操作となる腹膜や創部へ鎮痛効果を期待するには、少なくとも2%リドカイン10〜15mLくらいが必要です。
 しかも、脊髄くも膜下麻酔から硬膜外麻酔へシームレスに移行するのは、事前に硬膜外カテーテルからトップアップしていないと難しいです。なので、ちゃんとCSEAを麻酔のバックアップとして使うのであれば、脊髄くも膜下麻酔開始から30〜50分経過したら、麻酔効果の減衰に関わらず、2%リドカインを5~10mL追加し、硬膜外腔を局所麻酔薬で満たしておきます。

適応別麻酔管理

A. 既往帝王切開

予定手術における帝王切開では、最も多い帝王切開の適応である。帝王切開既往の妊婦が経腟分娩を行なった場合、子宮破裂のリスクは0.7%である。帝王切開時の子宮切開創が、子宮下部縦切開(古典的子宮切開)や逆T字切開の場合、子宮下部横切開に比べて、子宮破裂のリスクが高い。米国と英国のガイドラインでは、新生児アウトカムが良好な点から、選択的反復予定帝王切開を妊娠39週以降に予定することを推奨しているが、選択的帝王切開の予定時期について、いまだ最終的な結論は得られていない。

手術の麻酔に関して、際立って注意すべき点は少ない。帝王切開の既往数が増えると、腹膜下組織の癒着による手術時間の延長や、癒着胎盤による出血量増加が危惧される。腹部超音波によるsliding signは、腹膜と子宮の癒着予測に有効である(Drukker L, et al. Obstet Gynecol 2018; 131: 529-33.)。高度癒着が予想される場合は、脊髄くも膜下麻酔単独ではなく、硬膜外麻酔かCSEAを考慮する。子宮筋層菲薄化により、子宮切開創の縫合に時間を要することもある。

B. 骨盤位・横位

胎位異常(骨盤位、横位、足位)は、初産婦における予定帝王切開の適応として多い。骨盤位は正期産では3%程度であるが、妊娠週数が早いほど、骨盤位の頻度は高くなる。骨盤位経膣分娩は、後続児頭娩出困難により、新生児合併症(分娩外傷、新生児仮死、低Apgarスコア、脳室内出血など)と関連する。

骨盤位は、帝王切開でも後続児頭娩出困難があり、速やかな児娩出のために緊急子宮弛緩を要する。ニトログリセリン100〜200µgの静注は、約30〜45秒後に子宮が弛緩し、1分間持続する。その際、反射性頻脈や母体低血圧が起こりやすいので、同量のフェニレフリン、またはノルアドレナリン10〜20µgを同時に投与する。

骨盤位の陣発、緊急度は?
予定帝王切開の患者さんが、予定日前に陣痛が発来し、緊急帝王切開となることは日常茶飯事。しかし、一般的に骨盤位だけでは、児頭が骨盤に圧迫されることがないので、飛び込むような緊急度にはなりません。でも、破水していると、臍帯脱出が起こりやすいため、緊急度が非常に高くなります。

もし、骨盤位の陣発で緊急帝王切開と申込があったら「破水してますか?」と一言訊くだけで、産婦人科医から『この麻酔科医、ちゃんと知っている』と評価が高まります(たぶん)。

C. 分娩停止

経膣分娩を試みるも、分娩進行が緩慢で、時間をかけても経膣分娩に至る可能性が低い場合を分娩停止という。初産婦の帝王切開適応、および緊急帝王切開適応として最も多い原因である。緊急手術ではあるものの、胎児心拍数異常がない限り、緊急度は高くない。帝王切開前に破水している場合、術中出血量を過小評価しやすいので注意する

妊婦は陣痛により、姿勢が取りづらく、穿刺困難となりうる。分娩第1期の分娩停止では、陣痛間欠期が十分に長く、座位による穿刺はほとんど問題ない。しかし、分娩第2期の場合、陣痛間欠期が短く側臥位での穿刺を余儀なくされることが少なくない。陣痛中に穿刺すると突発的な体動が起こりやすく,穿刺に伴う合併症を起こす可能性があるので。陣痛間欠期の穿刺を心がける。陣痛中は脊髄くも膜下腔圧が上昇するが、脊髄くも膜下麻酔の広がりに大きな影響は与えない(Sivakumaran C, et al. A&A 1982; 61: 127-9.)。また、分娩中の妊婦では,子宮収縮に伴う循環血液量の増加 (autotransfusion)が起こる為、脊髄くも膜下麻酔後母体低血圧の頻度が少ない(Clark RB, et al. Anesthesiology 1976; 45: 670–3.)。

分娩第2期の分娩停止で児頭が陥入している場合、児を娩出する前に、経腟的に児頭を用手的に押し上げる必要があり、砕石位での帝王切開となる。低身長の患者では、患者が手術台の麻酔科医側から離れてしまい、気道確保が難しくなる。分娩停止では、オキシトシンの感受性が低下するため、高用量オキシトシンが必要となり、副作用発現頻度が上昇する。

D. 前置胎盤

胎盤と内子宮口の距離が2cm以内のものを辺縁前置胎盤、胎盤が内子宮口を部分的に覆うものを部分前置胎盤、完全に内子宮口を胎盤が覆うものを前置胎盤という。妊娠経過中に性器出血が多い為、術前ヘモグロビン濃度の確認は特に重要である。予定帝王切開であれば2〜4単位の濃厚赤血球を準備する。

子宮切開を行う子宮下節は子宮収縮に伴う生理的結紮が起こりづらいため、胎盤剥離面からの出血が持続しやすい。止血に難渋して手術時間が延長する可能性もあり、硬膜外麻酔やCSEAも検討する。産科出血では、羊水を含めた2,000mL程度の出血でも7.3%で播種性血管内凝固症候群に至るので、硬膜外カテーテルを抜去する前には、凝固機能が基準範囲内であることを確認する。

前置胎盤では、既往帝王切開数に比例して、癒着胎盤の頻度が増える。しかし、子宮手術既往が全く無い場合でも、5%で胎盤組織が子宮筋層へ浸潤していることがある。2本目の静脈路確保や観血的動脈圧測定を全例に行う必要はないが、常に予期せぬ癒着胎盤に備える心構えをもっておく。胎盤剥離後、剥離面から溢れるように出血する危険性があるため、分娩後の術野確認を怠らない。

E. 癒着胎盤

癒着胎盤は、胎盤の浸潤度により、楔入胎盤(子宮筋層表面まで)、陥入胎盤(子宮筋層深部まで)、穿通胎盤(子宮漿膜に到達)に分類され、多くは前置胎盤に合併する。癒着胎盤は、産科出血のハイリスクであり、複数の静脈路および輸血の確保、観血的動脈圧測定を行い、麻酔管理する。深達度が高いほど、出血リスクは増加する。上下腹部正中切開と長時間手術のため、脊髄くも膜下麻酔のみで対応することは難しい。

前置癒着胎盤では、胎盤剥離面からの出血が止血困難となるため、胎盤を娩出させない管理が必要となる。妊娠子宮全摘術が選択されることが多い。妊孕性を保つ場合、胎盤を留置したまま閉創し、二次的治療(血管内治療、メトトレキサート)を行う。いずれの場合も、胎盤を自然剥離させないため、子宮収縮薬は投与しない

子宮体部癒着胎盤では、 生理的結紮のみで十分に止血できる。適切に子宮収縮薬を用いれば、管理に難渋することはない。

F. 妊娠高血圧症候群

妊娠高血圧症候群は、常に母体死亡の直接死因上位となる妊娠合併症である。2018年に従来の pregnancy induced hypertension (PIH)からhypertensive disorders of pregnancy (HDP)へ名称が変更され、その定義と分類が、国際的な基準と同等になった。

妊娠中に高血圧を認めた場合、週数によらず妊娠高血圧症候群と定義され、病型によって①妊娠高血圧腎症 preeclampsia (PE)、②妊娠高血圧 gestational hypertension (GH)、③加重型妊娠高血圧腎症 superimposed preeclampsia (SPE)、④高血圧合併妊娠 chronic hypertension (CH)に分類される。

妊娠高血圧症候群の臨床分類

① 妊娠高血圧腎症
妊娠20週以降にはじめての発症した高血圧に以下の病態を伴うもの。
1.  蛋白尿を伴い、分娩12週までに正常化する。
2.  基礎疾患のない肝機能障害、進行性の腎障害、脳卒中・神経障害、血液凝固障害を伴い、分娩12週までに正常化する。
3.  子宮胎盤機能不全(胎児発育不全、臍帯動脈血流波形異常、死産)を伴う。

② 妊娠高血圧
妊娠20週以降にはじめての発症した高血圧で、分娩12週までに正常化し、かつ妊娠高血圧腎症の定義に当てはまらないもの。

③ 加重型妊娠高血圧腎症
妊娠前または妊娠20週までに高血圧や腎疾患があり、妊娠20週以降に増悪するもの。
1. 高血圧が妊娠前または妊娠20週までに存在する場合
 ・妊娠20週以降に蛋白尿、基礎疾患のない肝障害、脳卒中・神経障害、血液凝固障害のいずれかを伴う。
 ・妊娠20週以降に子宮胎盤機能不全を伴う。
2. 高血圧と蛋白尿の両方が妊娠前または妊娠20週までにあり、妊娠20週以降に増悪する場合。
3. 蛋白尿のみを呈する腎疾患が妊娠前または妊娠20週までにあり、妊娠20週以降に高血圧が発症する場合。

④ 高血圧合併妊娠
高血圧が妊娠前または妊娠20週までに存在するが,加重型妊娠高血圧腎症を発症していないもの。

現在では、❶ 収縮期血圧160mmHg以上または拡張期血圧110mmHg以上、❷ 妊娠高血圧腎症・加重型妊娠高血圧腎症において、母体の臓器障害または子宮胎盤機能不全を認める場合が”重症”とされる。なお、”軽症”という用語は,妊娠高血圧症候群自体がハイリスクでないと誤認されるため用いない。発症時期が34週未満を早発型 early onset type (EO)、34週以降を遅発型 late onset type (LO)とされているが、日本では妊娠32週で区別する意見もあり、まだ定まってはいない。

妊娠高血圧症候群では重症化すると循環血液量が減少し、末梢血管抵抗が高くなる。麻酔により急激に末梢血管抵抗が減少すると、難治性母体低血圧となり、最悪の場合には心肺停止にいたる。そのため、重症妊娠高血圧腎症において、脊髄くも膜下麻酔は禁忌と考えられてきた。しかし、1990年代から、重症妊娠高血圧腎症であっても脊髄くも膜下麻酔は必ずしも禁忌ではないと考えられるようになってきている。これらの安全性は麻酔科医による貢献だけでなく、産科医が妊娠高血圧症候群の早期発見と早期治療に努めて、重症化する前に医学的介入を行い、循環血液量の是正や末梢血管抵抗の最適化を行なってきたためである。逆に言えば、重症化して治療介入されていない状態での帝王切開で脊髄くも膜下麻酔を行い場合は、治療困難な低血圧をきたすことがある(松田祐典, 他. 麻酔 2018; 67: 72-7.)。正常妊娠では血液希釈によりヘマトクリット値は35%前後であるが、妊娠高血圧症候群で循環血液量が減少している場合、ヘマトクリット値が40%近くまで上昇する。循環血液量減少と血液粘度上昇により妊娠高血圧症候群では深部静脈血栓を合併しやすいので、分娩後の抗凝固療法を考慮する。

妊娠高血圧腎症における麻酔管理の注意点

G. 妊娠高血圧症候群関連疾患

① 子癇 eclampsia
妊娠20週以降にはじめて発症した痙攣発作で、てんかんや二次性痙攣が否定されたもので、大脳皮質における可逆的な血管性浮腫と攣縮により誘発されると考えられている。硫酸マグネシウムにより痙攣発作が予防できるが、腎機能が低下している場合は高マグネシウム血症を来たしうるので注意が必要である。状態が安定していれば脊髄くも膜下麻酔下に帝王切開を行うことは可能であるが、血圧低下を輸液で是正すると肺水腫をきたしやすいので注意する。子癇発症後に脊髄幹麻酔を行う場合は、画像診断にて頭蓋内占拠性病変や脳出血を否定する必要がある。

② 可逆性後頭葉白質脳症 Posterior reversible encephalopathy syndrome (PRES)
後頭葉白質を中心に可逆性の皮質下血管性浮腫をきたす疾患群で、急激な異常高血圧により惹起される。しばしば子癇発作後の画像診断で発見され、血管内皮細胞の破壊と間質の浮腫が関与している、脳症、痙攣、頭痛、視覚障害、局所神経症、てんかん重積発作などを伴う。一般的にPRESでは頭蓋内出血を合併していることが多い為、脊髄幹麻酔が選択される場合は少ない。完全回復率は75〜90%で、神経学的後遺症が残る場合もある。

③ HELLP症候群
溶血(血清間接ビリルビン値 > 1.2 mg/dL、血清LDH > 600 IU/L、病的赤血球像)、肝機能障害(血清AST > 70 IU/L)、血小板減少(血小板数 < 100,000/µL)の3つを伴う症候群で、重症化すると肝被膜下血腫を伴う。妊娠急性脂肪肝 acute fatty liver of pregnancy (AFLP)との鑑別が必要になることもある。血小板減少により脊髄幹麻酔が選択されることは少ないが、肝機能障害と腎機能障害を併発しやすくオピオイド以外の鎮痛薬が選択しづらいため、術後疼痛管理に難渋することがある。くも膜下オピオイドまたは硬膜外オピオイドを併用した場合でも、自己調節経静脈鎮痛を考慮する。妊娠高血圧症候群における血小板数と血液凝固能をトロンボエラストグラムで比較すると、血小板数100,000/µL異常では血栓強度は保たれるが、75,000/µL以下では血栓強度が著しく脆弱化するので、脊髄幹麻酔の可否は慎重に判断する。

術後鎮痛でアセトアミノフェンもNSAIDsも使用しづらい病態のため、くも膜下モルヒネを使っている場合でも、モルヒネを使ったIV-PCA(持続投与なし)の使用や、局所浸潤麻酔(0.25%ブピバカイン20mL)を考慮する。持続投与のあるフェンタニルの場合、呼吸抑制リスクが高くなるので避ける。

④ 肺水腫
妊娠高血圧症候群では血管内皮細胞障害が起こり、医原性肺水腫をきたしやすい。そのため、一般の帝王切開と異なり、制限輸液による麻酔管理が重要である。膠質浸透圧は非妊娠時が25〜28mmHgで、妊娠によって22mmHgとなり、妊娠高血圧腎症ではさらに14mmHgまで低下する。人工膠質液は膠質浸透圧のさらなる低下を招かないため、肺水腫を予防するという目的では理論的に正しいものの、腎機能障害のハイリスクである妊娠高血圧症候群において、その有用性は科学的に証明されていない。我々が行った重症妊娠高血圧腎症の帝王切開時にヒドロキシエチルスターチを用いた後方視観察研究では、明らかな腎機能障害は認めなかった(Mazda Y, et al. J Anesth 2018; 32: 447-51.)。近年、肺超音波検査は胸部レントゲン撮影より肺水腫の診断精度が高いことが報告されており、POCUS(Point-Of-Care Ultrasound)が注目されている(Zieleskiewicz L, et al. Anesthesiology 2014; 120: 906-14.)。

⑤ 周産期心筋症 Peripartum Cardiomyopathy (PPCM)
妊娠高血圧症候群では心筋の収縮機能は保たれるが、リモデリングや全汎性拡張機能障害が観察され、一般的な帝王切開麻酔より厳格な輸液管理が要求される。さらに妊娠高血圧腎症は周産期心筋症との関連も示されており、分娩前後に心不全兆候を認めた場合、循環器内科と連携をとり、集学的治療を行う。

H. 胎盤早期剥離

胎児娩出よりも先に胎盤が剥離すると、母体から胎児への血液供給が著しく減少するため、緊急帝王切開の適用となる。胎盤剥離面積が少なければ母児への影響は少ないが、急激な経過を辿る場合、重篤な胎児機能不全と急速な凝固障害をきたすため、脊髄くも膜下麻酔が選択されることは少ない。

凝固障害がないことが確認できれば、脊髄幹麻酔を考慮する。胎盤早期剥離早期であれば凝固障害も軽症であるため、周産期センターへのアクセスが制限されている場合は、初期対応施設にて脊髄くも膜下麻酔下に帝王切開を行うことで児の予後を改善させる可能性が示唆されている。術中に臨床的出血傾向を認めたら、早めに十分なFFPを輸血することが肝要である。

I. 多胎妊娠

多胎妊娠では、妊娠に伴う生理学的・解剖学的変化、特に心血管系および呼吸器系の変化が顕著になる。一方、肝機能、腎機能、神経系への変化は単胎妊娠とあまり変わらない。双胎妊娠では単胎妊娠と比べて、循環血液量は750mL、心拍出量は20%、一回心拍出量は15%増加する。多胎妊娠では妊娠子宮が増大するため、弛緩出血のリスクが高く、子宮収縮薬投与による分娩後出血予防に努める。一方、母体低血圧の頻度や血圧維持に必要な昇圧薬投与量は単胎妊娠と変わらない。

双胎妊娠は、羊膜と胎盤の数により、2絨毛膜2羊膜双胎(DD twin 70%)、1絨毛膜2羊膜双胎(MD twin 29%)、1絨毛膜1羊膜双胎(MM twin 1%)に分類される。一般的に膜が少ないほど、妊娠中のリスクは高くなるが、膜性診断自体は帝王切開の麻酔管理上大きな問題とはならない。1絨毛膜性双胎(MD twinまたはMM twin)では、双胎間胎児輸血症候群 twin-to-twin syndrome (TTTS)が起こり、胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー手術のための胎児麻酔が必要となる。

1絨毛膜1羊膜性双胎では、胎児間に羊膜が存在せず、臍帯が生体膜により物理的に隔離されていないため臍帯相互巻絡が起こり、子宮内胎児死亡のリスクが高まるので、比較的早期(妊娠32〜34週)に予定帝王切開となる。

切迫早産の頻度は高く、子宮収縮抑制薬の副作用と相まって、肺水腫の危険性が高まる。通常よりも子宮が増大しているため、帝王切開時には区域麻酔による低血圧が重症化しやすいほか、弛緩出血のリスクも高い。オキシトシンの必要量は3.41〜4.38単位と高用量なので、必要十分量を投与する(Peska E, et al. A&A in press)。

J. 胎児仮死

胎児心拍異常は緊急度の高い帝王切開であり、切迫した状況において麻酔法を選択し、速やかに胎児を娩出させる必要がある。最初に緊急度を把握し、胎児心拍が改善していれば、母体に酸素投与を行いつつ胎児心音モニタリング下に脊髄くも膜下麻酔を行うことは可能であるが、麻酔失敗時に備えて全身麻酔の準備も忘れてはいけない。Rapid Sequence Spinal Anesthesia (RSSA)は超緊急帝王切開において、より迅速に脊髄くも膜下麻酔を行う方法として、関心が寄せられている。 実際にこの方法は迅速導入による全身麻酔よりも麻酔導入時間が短いという報告もあるが、この研究では胎児予後に差はなく、実際の有効性に関しては不明である。

全身麻酔を施行する場合は、十分な酸素化を目的として、100%酸素とセボフルラン1MACの投与が勧められる。母児の安全を確保しつつ迅速に麻酔を開始するためには、分娩中に児心音低下が最初に見られた時点で、麻酔科医が患者を把握しておくことが望ましい。

当院でのRapid Sequence Spinal Anesthesia (RSSA)
総合母子医療センターかつ母体救命事業を行っている埼玉医科大学総合医療センターでは、超緊急帝王切開が少なくありません。当科では、安全かつ迅速に脊髄くも膜下麻酔を行うため、マンパワーを駆使して、長年RSSAを行ってきました。緊急事態には突然遭遇しますので、日頃から脳内でシミュレーションし、いざという時に動けるようにしましょう。

1. 患者説明
 ・全身麻酔の準備をしつつ、妊婦に状況を説明する。
 ・麻酔に関する同意は口頭でよいが、その旨を診療録に記載する。
2. 静脈路確保
 ・麻酔実施者以外が静脈路を確保する。
 ・静脈路が確保されるまでくも膜下腔へ薬液は注入しない*。
3. 酸素投与
 ・くも膜下穿刺中も継続して、酸素投与を行う。
4. 最低限の清潔操作
 ・滅菌手袋のみ。
 ・皮膚消毒は1回のみ。
5. 薬液
 ・高比重ブピバカイン2.4mL(3.0mLまで増やしてもよい)
 ・可能な限りオピオイドを添加。
 ・しかし、オピオイド準備を理由に麻酔開始を遅らせない。
6. 皮膚局所浸潤麻酔
 ・原法では必須でないとあるが、可能な限り行う。
7. 穿刺回数の上限
 ・1回のみ。
 ・一番使い慣れている針を選択。
 ・慣れていれば、脊椎超音波も併用。
8. 手術開始基準
 ・T10までの冷覚消失。
 ・術野で痛覚遮断を確認。

麻酔科医2名もしくは、麻酔科医1名と麻酔サポートに専従できるメンバー(周麻酔期看護師、器械出しでも外回りでもない手術室看護師など)が必要。マンパワーが足りない場合は、最初から全身麻酔を選択してもよい。

産科急性疼痛管理

埼玉医科大学総合医療センターでは、Acute Pain Service in Obstetrics (APSO)と称して、帝王切開術後を中心に、産科麻酔科が鎮痛および副作用に対する管理を行っている。

1. 帝王切開術後鎮痛

① 術中管理:くも膜下モルヒネ150μg、デキサメサゾン6.6mg、アセリオ®1g静注、ジクロフェナク50mg坐薬
② カロナール®500mg内服 1日4回 4-6時間ごと(朝 1g、昼 500mg、夕 1g、眠前 500mg)
③ セレコキシブ200mg内服 1日2回 12時間ごと(朝 200mg、夕 200mg)
④ 経口摂取が難しい場合は、アセトアミノフェン1g静注、フルルビプロフェ⑤ 疼痛時:トラマドール25-50mg、4時間以上あけてン50mg静注で代用可。
⑥ ブプレノルフィン静注は0.3mg/10mLに希釈、5分ごとに投与。NRSに応じて1-2mLずつ静注。

2. 詳細指示

・帰室後4時間以内に定時内服開始
・帰室後4時間以内に鎮痛が必要→トラマドール内服
・カロナール®とセレコキシブを定時内服
・内服できない場合は、アセリオ®・フルルビプロフェン定時点滴
・アセリオ®投与量:分娩時体重50kg未満ならば、1回600mg

疼痛スコア評価
 「自制内」では疼痛を評価しない。
  覚醒時は、少なくとも4-8時間ごとに評価する。
  睡眠時は評価不要(入眠中と記載)

・目標疼痛スコアは安静時3以下、体動時5以下
 ① 疼痛スコア5以上→頓用鎮痛薬を促す
   トラマドール内服、またはレペタン静注
 ② トラマドール内服は1錠から
 ③ 最初の1錠内服後15分経っても痛い場合、追加で1錠内服可
 ④ 投与2回目以降は痛みに応じて1-2錠内服

・嘔気時:① メトクロプラミド10mg、② オンダンセトロン4mg
・掻痒時:① アタラックス®50mg、② ペンタゾシン30mg

・帰室後4時間経過しても下肢が動かない場合、産科麻酔科へ連絡

全身麻酔でなければ、帰室直後から水分摂取可
 全身麻酔の場合、意識が清明になってから水分摂取可
 初回飲水時間は経時記録に記載

・麻酔法によらず、帰室したらヘッドアップ20度以上、希望すれば坐位も可
 急な大意変換時の血圧低下に注意。

初回歩行の条件
 ① 片足ずつ足を延ばしたまま挙上できる。
 ② 筋力低下がない。
 両方が可能であれば,初回歩行可能
 初回歩行時間は経時記録に記載

3. IV-PCA

モルヒネ 0.5mg/mL
持続投与:なし、1回投与量:1mg(2mL)、ロックアウト:6分、最大投与量1時間あたり10mg

IV-PCAを使っていて痛みが強い場合は、適切なローディングが行われているかどうかを確認。

緊急徐痛法(例)
NRS 7 モルヒネ2-4mg静注、5分後にNRSが下がっていなければ同量。
NRS 5 モルヒネ1-2mg静注、5分後にNRSが下がっていなければ同量。
NRS 3 IV-PCAの使用を促す。

疼痛管理のデエスカレーション
1日に必要なモルヒネ量を計算し、その半分を経口トラマドールで換算して定時内服。
例:24時間に使用したIVモルヒネPCA10mg→経口モルヒネ(OME)20mg
→半量だとOME 10mg = トラマドール100 mg/日 = 定時内服25mgを 6時間ごと+疼痛時頓用

なんでモルヒネでIV-PCAなの?
日本ではIV-PCAと言えば、フェンタニルですが、世界的にはモルヒネやハイドロモルフォンなどの長時間作用型オピオイドが主流です。フェンタニルのような短時間作用型オピオイドでは、有効血中濃度を保つために、持続投与が不可欠です。そのため、呼吸抑制が起こりやすいデメリットがあります。

実際に、短時間作用型オピオイド(フェンタニルなど)のみを投与された患者の54%が1回以上のオピオイド誘発性呼吸抑制が発生したのに対し、長時間作用型オピオイド(作用持続時間3時間以上)のみの患者では45%でした。

フェンタニルは乳汁移行しても、新生児の腸管から吸収されないため、安全という考えもあります。しかし、母乳に含まれるフェンタニルが吸啜によって頬粘膜から吸収される可能性は否定できません。

埼玉医科大学総合医療センター産科麻酔科では、2014年以降、帝王切開術後鎮痛でモルヒネによるIV-PCAを中心に使用してきましたが、これまでモルヒネが原因と考えられる新生児の呼吸抑制は経験していません。一方、フェンタニルの持続投与が行われていた症例で、点滴の流速が意図せず早まってしまい、呼吸数が低下した症例を経験しました。それぞれ一長一短ではありますが、PCAの基本原理(持続なし、長時間作用型でボタンを押す回数を少なくする)を加味すると、モルヒネの方が安全と考えています。

余談にはなりますが、フェンタニルの呼吸抑制効果は、モルヒネよりも強いです(Hill R, et al. Br J Pharmacol 2020; 177: 254-66.)。 フェンタニルは短時間作用型であるが故、呼吸抑制が発生してもすぐに回復します。モルヒネは一旦呼吸抑制が発生すると呼吸がなかなか再開しないデメリットはありますが、そもそも呼吸抑制自体が起こりづらいという点が優れています。


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