まだあった、新しい思考技術『THINK BIGGER 「最高の発想」を生む方法』
アイデアの生み出し方を体系的に再現性高く解説した本は、本当に数少ない。
僕が知る限り、ジェームス W.ヤングの『アイデアのつくり方』くらいじゃないかと。
しかし、最近、アイデアの発想法について、ある本が話題になっています。
『THINK BIGGER 「最高の発想」を生む方法:コロンビア大学ビジネススクール特別講義』です。
Xでも反響があったので、ガッツリ書評として言語化していきます。
『THINK BIGGER』ってどんな本?
本書はあのベストセラー本『選択の科学』の著者であるシーナ・アイエンガー氏の本です。
シーナ氏はコロンビア大学ビジネススクールで教鞭をとっている「全盲の教授」として有名な方です。
全盲なれど、彼女の「心の眼」はまさに慧眼であり、様々な「当たり前」に待ったをかけてくれます。
例えば、「選択肢は多いほうがよい」という"当たり前"がありました。
この当たり前に対し、彼女は、かの有名な「ジャムの実験」によって真正面から問題提起しています。
ジャム実験とは「ジャムを6種類ならべた店と、24種類ならべた店を比べると、6種類ならべた店のほうが売上が10倍も多かった」という結果を示したものです。
要は「選択肢が多すぎると選べない」という選択のパラドックスを示したわけです。
「選択肢が多すぎると、かえって困ってしまう」
指摘されるまで気づかないけれど、言われてみれば「たしかに」と思えてしまう。
このような発想を次々と生み出している著者は、自分とは天と地ほど離れたレベルの頭脳を持っているのだろう。
そう思っていました。本書を読むまでは。
著者がふだん、どうやって考え、アイデアを得ているか。
その方法論を、学術的な観点と著者自身の経験談を掛け合わせて体系化した本。
それが、今回紹介する『THINK BIGGER』です。
この本のすごさは、そこじゃねーだろ
本書のすごさを語るためにも、まず愚痴から入らせてください。
この書評を書く前に、いくつか本書について語った記事やツイートを見てみたんですよ。
ただ、「そこじゃねーだろ、この本のすごさは」と思える感想が散見されました。
試しに「THINK BIGGER 書評」とか「THINK BIGGER 要約」とかで調べてみてください。
ほとんどの記事が、本書から学んだこととして
「イノベーションとは、古いアイデア同士の組み合わせから生まれる」
「既存の物事同士の、新しい組み合わせこそが大事だ」
…なんてことを書いている。
いやいや、そんなこと、本書が出るよりもだいぶ前に指摘されているし。
1940年に出版された『アイデアのつくり方』にも書いてあるし、それよりもっと前にシュンペーター氏が「新結合(=組み合わせたことのないもの同士を組み合わせること)」を提唱しているじゃないの。
それなのに、『Think BIGGER』の第1章だけを読んで、
「彼らのような天才たちは、新しいアイデアを突如ひらめいたわけではない。すでにある技術を学び、有用な組み合わせを見つけたのである」とか
「古いアイデアの組み合わせが大事なのか。目からうろこだ!」みたいな感想を述べているレビューが散見されるのは残念に思います。
本書の斬新さは、そこじゃねーよ。
「有用な組み合わせをどうやって生み出すか」を体系化したのが、本書のすごさでは
「古いアイデアの有用な組み合わせが大事である」
そんなことは、もう100年以上前から指摘されています。
本書のすごさは、「有用な組みあわせをどうやって生み出すか」を体系化している点にあります。
具体的には、次の6ステップで解説してくれています。
課題を選ぶ
課題を分解する
望みを比較する
箱の中と外を探す
選択マップ
第三の眼
中でも「古いアイデアの有用な組みあわせ」を生めるかどうかは「課題の分解」にかかっています。
例えば、1840年代の深刻な課題の1つに「アイスクリームを庶民にも手が届くようにするには?」がありました。
当時は冷凍庫もないため、氷を作るのはもちろん、作った氷を保冷するのも難しい。
クリームを作るのも、現在のアイスクリームのようにクリーミーな舌触りに仕上げるのも至難の業だったそうです。
非常に手に入りづらく、一部の富裕層の贅沢品であったアイスクリームを、庶民にも手が届くようにするには、どうすればよいか?
この課題に挑戦したのが、ナンシー・ジョンソン氏です。
ジョンソンは、「アイスクリームを庶民にも手が届くようにするには?」という課題を、次のサブ課題に分解します。
アイスクリームに使う氷の量を減らすには?
アイスクリームを素早く冷やし、長く保冷するには?
クリームをかき混ぜる作業を省力化するには?
アイスクリームをより滑らかなでクリーミーに仕上げるには?
ポイントは、コンサルチックな「MECE(もれなくダブりなく)」などにこだわらず、
A)本丸の課題に関連しそうなサブ課題を思いつくだけ書き出す(20個とか)
B)Aで書き出した中から「これらを解ければ、本丸の課題の7割は解けたことになりそう」だと感覚的に思えるものを5個前後選ぶ
…この手順を踏むことです。
そして、分解したサブ課題を1つずつ解決していきます。
■「アイスクリームに使う氷の量を減らすには?」という課題
→安価な木桶と、氷が解けるのを防ぐ岩塩を使って解決
■「アイスクリームを素早く冷やし、長く保冷するには?」という課題
→当時の居酒屋でビールを冷やすのに使われた「ピューター製のマグ」を、木桶の中央に設置して保冷に成功
■「クリームをかき混ぜる作業を省力化するには?」という課題
→スパイスやコーヒーを砕くのに使われていた「手回しクランク(1世紀の技術)」を代用して解決
■「アイスクリームをよりクリーミーに仕上げるには?」という課題
→木製の穴あきヘラを使って、空気を入れながら混ぜることでクリーミーさを担保
木桶・マグ・手回しクランク・穴あきヘラ
・・・いずれの解決策も、1840年代当初は目新しくないものでした。
しかし、これらの「古いアイデアの有用な組みあわせ」によって、アイスクリームが安価で発売されるようになりました。
アイデアの有用な組みあわせを見つけるコツは、「課題の分解」にあったわけです。
ではどうすれば、有用な組みあわせにたどり着けるように、課題を分解できるのか?
そのヒントが体系的にまとまっているのが、本書の本当のすごさです。
ぜひ、手に取ってみてください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?