ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ニューイヤーコンサート2021が示した大きな意義

昨日は、日本時間の19時15分から21時30分までウィーン楽友協会黄金の間において、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサート2021が開催されました。

今回は1971年の初共演から50年目を迎えるリッカルド・ムーティの指揮により、アンコール2曲を含む18曲が演奏されました。

1993年にニューイヤーコンサートへの初登場の様子を衛星同時中継で視聴した際には、自信の強さが前面に出ていたムーティも、今ではすっかり円熟味を増しており、余裕に満ちた雰囲気をまとう様子には、隔世の感を禁じ得ないところでした。

ウィーンでは今年2月28日まで新型コロナウイルス感染症対策として都市機能の制限が行われていることもあり、今回のニューイヤーコンサートは史上初の無観客での実施となりました。

外形的には来場者の華やかな装いを見られないという点が残念ながら、黄金の間そのもののきらびやかさが例年以上に印象的でした。また、無観客という会場の特徴を考慮してか、今回のムーティの音楽作りはいつもにも増してまろやかで、それだけに時折現れる劇的な表現の効果が高まりました。

その一方で、NHK教育テレビによる実況中継では、今回も「ヨハン・シュトラウス(父)」と「ヨハン・シュトラウス」の表記を用い、より一般的で、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団も用いている「ヨハン・シュトラウス1世」と「ヨハン・シュトラウス2世」を利用していない点については、依然として改善の余地があります。

何より、NHKが番組ごとに「ヨハン・シュトラウス1世」、「ヨハンン・シュトラウス(1世)」、「ヨハン・シュトラウス(父)」と一人の人物に対して異なる表記を併用しているということは、視聴者、聴取者の便益を考えれば、具体的な対応が求められるところです。

ところで、正規の演目の最後であるヨハン・シュトラウス2世のポルカ・シュネル『恋と踊りに夢中』が終わった後に、25以上の国や地域から7000人が参加し、会場の20台の拡声器から流れる「オンライン拍手」は、演奏会場と視聴者とを繋ぐ、大変に興味深い試みでした。

さらに、シュトラウス2世によるワルツ『美しく青きドナウ』の開始に先立つ指揮者の演説の中で、各国の元首に対して文化はわれわれの将来の社会を支えるものであり、困難な状況の中でも支援を続けることの重要性を指摘したムーティは、90か国以上で視聴されるニューイヤーコンサートが単に新年最初の演奏会というだけでなく、社会的にも一定の影響力を持つ催事であることを改めてわれわれに伝えるものであったと言えるでしょう。

そして、恒例のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏者との新年の挨拶の後にイタリア語で"Grazie"と述べたのは、いかにもムーティらしいだけでなく、演奏者との信頼関係の深さを示すものであるとともに、ムーティが演説において指摘したように、今回のニューイヤーコンサートは歴史的な演奏会となりました。

中止という選択肢を排除する中で、いかにしてより良い形式で開催するかを最後まで調整し、実現に尽力した関係者の取り組みに、改めて謝意を表する次第です。

<Executive Summary>
The Vienna Philharmonic Orchestra's New Year Concert 2021 Shows Its Important Role toward the World (Yusuke Suzumura)

The Vienna Philharmonic Orchestra held the New Year Concert 2021 with Riccardo Muti on 1st January 2021. They showed their important role toward the world to promote and advance cultural activities under the era of an outbreak of the COVID-19.


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