論文"Declaration of Victory: The Meaning and Achievements of the Stanford University Baseball Team's 1913 Tour"の草稿のご紹介(12)

昨年12月、ロバート・フィッツ、ビル・ナウリン、ジェームズ・フォーの各氏の編纂した書籍"Nichibei Yakyu: US Tours of Japan"の第1巻がアメリカ野球学会(SABR)から刊行され、私も論文"Declaration of Victory: The Meaning and Achievements of the Stanford University Baseball Team's 1913 Tour"を寄稿しました。

今回は、論文の日本語版草稿のご紹介の最終回となります。


例えば、スタンフォード大学一行は、各校との試合の合間に東京を中心として各地を訪問し、6月5日には歌舞伎座で『仮名手本忠臣蔵』を鑑賞し、野球好きとしても知られた六代目尾上菊五郎を表敬訪問している。

また、6月6日には帝国劇場の招待により、慶應義塾の選手たちとともにモーツァルトの歌劇『魔笛』やプッチーニの歌劇『トスカ』、さらに七代目松本幸四郎が主演した近松門左衛門の原作による歌舞伎『輝虎配膳』を鑑賞している。

この日は、『トスカ』の開幕に先立ち主演の川上貞奴が両大学の選手に記念品として扇子を贈り、スタンフォード大学側が返礼として花束を贈呈している。これらの出来事は、球場の外での日米親善といえるだろう。

そして、6月2日に交詢社においてスタンフォード大学と慶應義塾の選手が参加して行われた懇親会では、米国側を代表して監督のウィルコックス(Wilcox)が「われわれは、今回の訪日により日本の風俗習慣文物を実際に知り得たことを喜ぶとともに、両大学の選手による懇親会が行われたことは、今日と将来の日米両国の友好親善に資するものである」[34]とあいさつしたことは、日米関係という視点から眺める際、スタンフォード大学の来日が野球の試合を超えた、日米両国の若い代表者の交歓の場でもあったことを示している。

以上より、1913年のスタンフォード大学の日本遠征は、野球の試合だけにとどまらない、日米両国の友好と親善を促進するための重要な機会となったのである。


[34] 「須大学野球団の動静」『野球界』第3巻第8号、1913年、93-94頁。

<Executive Summary>
Draft of Artcile: Declaration of Victory: The Meaning and Achievements of the Stanford University Baseball Team's 1913 Tour (XII) (Yusuke Suzumura)

My article "Declaration of Victory: The Meaning and Achievements of the Stanford University Baseball Team's 1913 Tour" is run on Nichibe Yakyu edited by Robert K. Fitts, Bill Nowlin, and James Forr published in December 2022. On this occasion, I introduce the Japanese draft to the readers of the weblog.

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