岸田政権による「一時的な所得減税」は一時的な措置か

本日、岸田文雄首相は新たな経済対策が決定を受けて記者会見を開き、企業の賃上げの支援や所得税の減税などの対策を通じ、来年夏には国民所得の伸び率が物価上昇率を上回る状態を確実に実現したいと発言しました[1]。

これに加えて、所得税の減税を含む今回の経済対策が、財政再建という政府に貸されたより大きな目的に反するのではないかという趣旨の批判を念頭に置き、岸田首相は「経済が成長してこそ税収も増え、財政健全化につながる。国民には、まず経済活性化という順番を理解してもらいたい」[1]とも指摘しています。

確かに、10月26日(木)の政府与党政策懇談会において、岸田首相は所得税減税を一時的な措置であると強調し[2]、所得税元是に関する政府案は「一時的な措置」であることを明記しています[3]。

一連の経緯からは、今回の措置があくまで期限付きの、一時的な対応であることを推察させます。

しかし、与党の一部からはすでに複数年にわたる減税の実施が要望されていますし[4]、実際に期限付きとされたはずの小渕恵三政権による所得税の最高税率を引き下げと税額を一律20%差し引く定率減税は、1999年の実施から安倍晋三政権が2007年に廃止するまで8年を擁しています。

このような過去の出来事を参照するなら、ひとたび減税を行えば、たとえどれほど「一時的な措置」と強調しても、早期に打ち切ることが容易ではないことが分かります。

これに加えて、岸田首相が来年夏には国民所得の伸び率が物価上昇率を上回る状態を確実に実現したいと指摘したことも見逃せません。

現在、自民党内に対立する候補者がいないため一見すると総理総裁の座は安泰に思われるかもしれないものの、各種世論調査で政権への支持率が低下するなど、岸田首相を取り巻く状況は必ずしも楽観視できるものではありません。

しかも、来年9月には自民党総裁としての任期が満了するため、このまま政権への支持率の低下が続けば、党内で「岸田おろし」を巡る動きが本格化しかねません。

そのため、来夏までに国民所得の伸び率が物価上昇率を上回る状況を確実にすると期限を区切ることで国民の歓心を買い、政権への支持率を高め、自民党総裁選挙に勝利し、政権の長期化と来るべき総選挙での勝利を確実にしたいという岸田首相の思惑が推察されます。

果たして、今回の経済対策の中心の一つである所得税の減税が期限付きの措置として予定通り終わるのか、それとも過去の事例のように打ち切りまで時間を要するのか、今後の推移が注目されます。

[1]岸田首相会見「来年夏には所得の伸びが物価上昇上回る状態に」. NHK NEWS, 2023年11月2日, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231102/k10014245491000.html (2023年11月2日閲覧).
[2]期限付き減税 失敗の過去. 日本経済新聞, 2023年10月27日朝刊3面.
[3]所得減税は「一時的措置」. 日本経済新聞, 2023年10月31日夕刊1面.
[4]所得減税、与党に複数年論. 日本経済新聞, 2023年11月2日朝刊4面.

<Executive Summary>
Is It a Temporal Policy?--The Issue of the Kishida Cabinet's Reduction Policy of the Income Tax and Its Date of Expiry (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Fumio Kishida announces that the Kishida Cabinet decides the new economic policy and one of important measures is the Income Tax Reduction as a temporal policy. On this occasion, we examine its date of expiry and wheter it is the true temporal measure or not.

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