「香港返還25周年」に考える習近平氏の発言の意味

昨日、香港が1997年7月1日に英国から中国に返還されてから25年が経ちました。

記念式典において習近平国家主席が演説し、「一国二制度の成功は世界に広く認識されている。変更する理由はなく、長い間維持されるべきだ」と述べるとともに、「政治体制は愛国者が掌握しなければならない」と指摘しました[1]。

2014年の反政府運動や2019年から2020年にかけての民主化要求運動の失敗を経て、昨年いわゆる香港国家安全維持法が施行され、新たに警察官僚出身の李家超氏が行政長官に就任するなど、香港における民主派勢力が大きな打撃を受けていることは周知のとおりです。

また、返還後も英国領時代と同様に民主的な統治機構を維持するという意味での「一国二制度」が、名存実亡の状態にあることもわれわれの知るところです。

従って、香港の返還がなされた当時に考えられていた「一国二制度」は今やその姿を失ったのでなければその意味が変わったと考えられます。

それとともに、習主席が演説の中で「資本主義に変更はない」[1]と指摘した点は注目に値します。

すなわち、総書記として中国共産党を、そして国家主席として中華人民共和国を代表する習氏の想定する「一国二制度」とは、統治機構ではなく経済体制にあることが推察されます。

こうした発言の背景には、1997年当時は中国が改革開放路線の推進による経済発展の途上にあり、香港の持つ国際経済の中での高い地位を自国のさらなる経済成長に繋げるために、香港特別行政区に高度な自治を認めることが国家の利益に資するという考えがあったと言えるでしょう。

一方、現在世界第2位の経済力を有するに至った中国にとっては、香港に政治面での「一国二制度」を許すことは体制の求心力と統治機能の維持という点で好ましくなく、その意味において当局者が香港に与えられた政治的ないし歴史的使命は終焉したとみなしたとしても不思議ではありません。

それだけに、現在の体制を支持する者は愛国者であり、香港は愛国者によって統治されるべきであって、反体制派は愛国者ではないために香港特別行政区の意思決定に参与できないという趣旨の発言には、習氏の自信の一端が現れているのです。

[1]香港「愛国者統治」を強調. 日本経済新聞, 2022年7月2日朝刊1面.

<Executive Summary>
What Is a Meaning of President Xi Jinping's Address for the 25th Anniversary of the Handover of Hong Kong? (Yusuke Suzumura)

The 1st July, 2022 is the 25th anniversary for the handover of Hong Kong from the United Kingdom to the People's Republic of China and the establishment of the Hong Kong Special Administrative Region. In this occasion we examine an address by President Xi Jinping of the PRC for the ceremony.

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