舞台化が期待される『軽業師タチアナと大帝の娘』

去る8月29日(月)から9月16日(金)まで、NHK FMの『青春アドベンチャー』では『軽業師タチアナと大帝の娘』を15回にわたり放送しました。原作は並木陽でした。

本作の概要は、18世紀前半のロシア帝国におけるアンナ・レオポルドヴナとエリザベータの権力争いという史実を背景に、芸能者スコモローフの末裔である軽業師タチアナがふとした出来事から宮廷の騒動の渦中に巻き込まれつつ、最後は自らの道を見出すというものです。

主演のタチアナを朝夏まなと、タチアナが一身を捧げる覚悟で近侍するエリザベータが野々すみ花、一時は国政を掌握し自らの理想の実現を目指すものの最後はエリザベータに敗れるアンナ・レオポルドヴナを愛月ひかると、宝塚歌劇団のトップスターやトップ娘役が重要な役どころを務めたことは、物語を華やかに彩るとともに、演技の質を細部に至るまで高めることに大きく寄与しました。

これは、所属する組や時期が異なっても宝塚音楽学校での共通の教育を受けたという経験が、あたかも同じ劇団で活動する俳優同士の演技のように共鳴した結果であると言えるでしょう。

また、ピョートル大帝の娘であり、本作の題名の一部ともなっている「大帝の娘」であるエリザベータが自ら「ピョートル大帝の娘」と名乗るのが、宮廷に侵入しアンナ・レオポルドヴナとその一派を逮捕しようとする近衛連隊を鼓舞する第14回の中盤という点は、聴取者の注意を逸らさないばかりか、物語の構成の点でも15回という長編にふさわしい起伏をもたらすものでした。

あるいは、序盤や中盤で退場したかに思われる人物がその後もタチアナの行動に影響を与え、あるいは終盤になって再登場する様子は吉川英治の小説のように巧みな展開で、脚本の確かさを示していました。

一時は自分自身のあり方を見失ったタチアナではあったものの、東の地の様々な姿を思い描くユーリ(大河原爽介)とのやり取りの中で精霊とともに生きる本来の姿を取り戻して物語の幕が下りるのは大変後味がよいものでした。

今回はラジオドラマであったものの、いずれ朝夏、野々、愛月の三人が同じ役を担当して舞台化されることが期待される、『軽業師タチアナと大帝の娘』でした。

<Executive Summary>
Radio Drama Review: Equilibrist Tatiana and a Daughter of the Great Emperor (Yusuke Suzumura)

A radio drama named "Equilibrist Tatiana and a Daughter of the Great Emperor" written by Yo Namiki was broadcasted via the NHK FM on 29th August to 16th September 2022.

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