『クラシックの迷宮』の特集「三善晃の反戦三部作」が示す音楽と反戦の関係

今日のNHK FMの番組『クラシックの迷宮』では、8月15日の終戦記念日に近い放送ということで、三善晃のいわゆる「反戦三部作」を中心とする特集が組まれました。

取り上げられたのは、特攻隊員の遺書や反戦詩を織り込んだ『レクイエム』(1972年)、宗左近の詩集『縄文』に基づく『詩篇』(1979年)、そして児童合唱による「響紋」(1984年)のほか、ヴァイオリン・ソナタや祝典序曲、さらにはテレビアニメ『赤毛のアン』の挿入歌「あしたはどんな日」まで、多岐にわたります。

三善の太平洋戦争中の体験に基づく「反戦三部作」は、自らの個人的な経験を極限まで追求することで一面では激しく、他面では壮絶な音の重なり合いの中に現れる音楽の真空状態とも言うべき一瞬の静寂が聞くものの注意を集めて逸らしません。

今回の特集では、司会の片山杜秀先生は作品の解説を最小限にとどめ、実際の演奏を通して聴取者が三善の目指した、切り詰められた表現が持つ雄弁さを体感できるよう配慮していました。

「反戦三部作」については、自らの体験の反芻を重ねることで私的な状況が含む普遍的な要素を取り出そうとした宗左近の詩が、三善の音楽と時に切り結び、時に融合し、雄渾さと繊細さが絶えず表情を変えつつ現れる演奏をもたらしていました。

また、『響紋』も、確かな構成力に支えられた中盤までの展開と、終盤の旋律を超えた、臓腑から抉り出されるかのような音の断片が、ひときわ印象深いものとなっていました。

一方、「あしたはどんな日」は、「あしたはどんな日」という一文に続く「あしたになるまえに/のぞきたいの/のぞいてみたい」という岸田衿子の歌詞と、三善の抽象的な音楽とが『赤毛のアン』という作品を離れて、明日をも知れぬ戦時下の人々の心のあり様を析出するかのごとくであり、片山先生の選曲と配置の妙味を堪能できました。

反戦の音楽を聴衆が共有できるのは、多くの場合戦争の最中ではなく平和な時代であるという逆説的な構図も含め、今回の特集は戦争の記憶が風化する中でいかにして戦争について考えるかという一つの手がかりを示す、意義深い試みであったと言えるでしょう。

<Executive Summary>
"Labyrinth of Classical Music" Emphasises the Importance of Music to the Anti-War Awareness (Yusuke Suzumura)

A radio programme entitled "Labyrinth of Classical Music" (in Japanese Classic no Meikyu) broadcasted via NHK FM featured Professor Akira Miyoshi and his pieces focusing on "Anti-War Tryptique" on 19th August 2023. It might be a meaningful opportunity for us to understand Professor Miyoshi's efforts and achievements to express anti-war awareness through music.

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