衆院3補選の結果の持つ意味は何か

本日、衆議院東京都第15区、島根県第1区、長崎県第3区の3選挙区で補欠選挙の投開票が行われ、全選挙区で立憲民主党の候補者が当選する一方、自民党は唯一候補者を擁立した島根県第1区で落選するなど、全敗しました[1]。

今回の補欠選挙について、東京都第15区は柿沢未途氏が江東区長選を巡る公職選挙法違反の罪に問われ、長崎県第3区は谷川弥一氏が政治資金パーティー収入を巡る政治資金規正法違反で立件されてそれぞれ辞職したことに伴い実施されました。そのため、両氏が所属していた自民党は独自の候補の擁立を見送りました。

一方、島根県第1区は自民党所属の細田博之前衆議院議長の逝去を受けた補選のため、自民党は錦織功政氏を擁立して選挙戦に臨みました。

1996年に小選挙区制による総選挙が行われて以来、自民党は島根県第1区で議席を維持してきました。また、島根県は竹下登元首相を輩出するなど、いわゆる「保守王国」として知られた地域でもあります。

それだけに、錦織氏が落選し、立憲民主党が擁立した元職の亀井亜紀子氏が当選したことは、小選挙区制導入以来議席を確保してきた選挙区での敗北という以上に、本来は補欠選挙の実施の理由と関係のない政治資金問題や政治改革問題の影響が選挙の結果に少なからず影響を与えたことを推察させます。

あるいは、選挙の情勢報道の序盤から亀井氏の優勢が伝えられ、最後まで錦織氏が劣勢を挽回できなかったことは、かつて竹下氏がその著書『政治とは何か』(講談社、2001年)の中で「情勢報道が良いので選挙活動の手を緩めると最後で落ちてしまい、逆に劣勢ということで危機感を持つと挽回することもままある」という趣旨の指摘を行っていたことを考え併せれば、自民党の組織力や集票能力が「保守王国」であっても必ずしも機能していなかったことを示唆します。

その意味で、今年9月に党総裁としての任期を迎える岸田文雄首相にとって、党内で来秋までに必ず行われる総選挙を戦い抜けるのかという疑念が生じるとき、有力な対立候補がいないために相対的に安泰な総裁としての地位が揺らぎかねません。

また、第一義的に国政選挙を統括する選挙対策委員長である小渕優子氏については、その手腕に対する評価は厳しいものになるでしょうし、党務を差配する茂木敏充幹事長も応分の責任を負うことになりかねないところです。

これに対し、野党第一党である立憲民主党と野党第二党の日本維新の会については、前者が3選挙区を制し、後者が東京15区と長崎3区で候補者を擁立したもののいずれも敗北しました。

2021年の総選挙や2022年の参院選で党勢の衰退が指摘された立憲民主党は野党第一党の面目を保つとともに、日本維新の会は地盤である大阪府ないし関西圏以外の地域への知名度の浸透が不十分であることが改めて示された形となりました。

特に直接の対決となった長崎3区で日本維新の会が立憲民主党に敗れたことは、今後の党勢の伸張の速度が低下することに繋がるでしょう。

このように考えれば、今回の3選挙区での補欠選挙は「3戦全勝」という結果以上に立憲民主党にとって重要な意味を持つとともに、自民党は「全敗」という事実が今後の党運営に落とす影は、決して小さくないと言えるのです。

[1]衆院3補選、自民全敗 立民が全選挙区で当選確実. 日本経済新聞, 2024年4月28日, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA281450Y4A420C2000000/?n_cid=BMSR3P001_202404282007 (2024年4月28日閲覧).

<Executive Summary>
What Is the Meaning of the Results of Three By-Elections? (Yusuke Suzumura)

Three By-Elections of the House of Representatives of Tokyo (the 15th District), Shimane (the 1st District), and Nagasaki (the 3rd District) were conducted on 28th April 2024 and the Constitutional Democratic Party of Japan won all districts. On this occasion, we examine the meaning and influence of the results for future political scene.

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