「荒井秘書官の迅速な更迭」が示唆する岸田文雄首相の憂慮

去る2月4日(土)、岸田文雄首相は同性婚を巡り記者団に対して差別発言をしたとして、荒井勝喜秘書官を更迭しました[1]。

今回の措置は、2月3日(金)の夜に、記者団との間で報道を前提としない非公式のやりとりをする中での発言を受け、同日の深夜に公式な取材が行われた結果、荒井氏が発言を認めるとともに撤回したことを受けたものでした[2]。

岸田政権では、昨年3人の閣僚と1名の政務官が不適切な言動により解任されているものの、いずれも本人に弁明の機会が与えられるなど、問題とされる行為が起きてから一定の期間を置いた後の更迭となっています。

一方、今回は問題とされる発言の翌日の更迭となっており、岸田政権としては異例の措置となります。

これは、岸田首相が重要な連携先とする米欧諸国において、人権を軽視するとみなされる言動への批判が強く、早期の対応を行わなければ外交上の不利益が生じるという判断に基づく対応と言えます。

また、来年度予算の審議が行われる中で、秘書官の不適切な発言が国会運営の遅滞に繋がることを懸念したための対応でもありました。

何より、荒井氏は岸田首相の演説の原稿の執筆も担当していたこと[2]は、所信表明演説の中で「全ての人が生きがいを感じられる多様性のある社会」[3]を訴える首相の発言の正当性と妥当性を疑わせる事態に繋がりかねません。

このように考えれば、政権与党である公明党の山口那津男代表が性的少数者に対する社会の理解を促すためにも法整備が必要であると指摘したこと[4]も、一面では荒井氏の発言を否定し、他面では岸田首相の対応を評価する意味を持っており、政権の擁護のために

いわば現実的な視点からの更迭は、それだけ岸田首相にとって荒井氏の発言が憂慮すべきものであることを示すのです。

[1]首相、荒井秘書官を更迭. 日本経済新聞, 2023年2月5日朝刊1面.
[2]差別発言、政権に打撃. 日本経済新聞, 2023年2月5日朝刊5面.
[3]第二百十回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説. 首相官邸, 2022年10月3日, https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/1003shoshinhyomei.html (2023年2月6日閲覧).
[4]「LGBT法整備を」. 日本経済新聞, 2023年2月6日2面.

<Executive Summary>
Why Did Prime Minister Fumio Kishida Fire Executive Secretary Katsuyoshi Arai so Quickly? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Fumio Kishida fired his Executive Secretary Katsuyoshi Arai with his inadequate comments for the LGBT on 4th February 2023. On this occasion, we examine reasons of this quick activity by Prime Minister Kishida who has given an opportunity for cabinet members with inadequate activities.

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