戸籍に記載する読み仮名の基準の設定はいかなる意味を持つか

昨日、法制審議会戸籍法部会が開かれ、戸籍の氏名に読み仮名を付す戸籍法改正の要綱案をまとめるとともに、社会で一般的に認識されている読み方や字義を漢字の読み仮名として認める基準を定められました[1]。

戸籍を持っている人は2024年度になる見通しの改正法施行から1年以内に本籍地や住民票がある地方自治体の役所で読み仮名を申請するとともに、期間内に申請しなかった場合は自治体が職権で住民票に記した読みなどを基に戸籍に読み仮名をつけることになります[1]。

今回の要綱案は、現在は戸籍に氏名の漢字の読み仮名が記載されていないため、行政のデジタル化を進める際、データベースに登録する作業の妨げになっていることを背景として策定されました。

それとともに、命名の際に学校教育で教えられる教科書的な読み仮名とは異なる読み方が用いられることが増えたため、そうした読み方を一定の範囲内に収めるということも要綱案の趣旨の一つとなります。

要綱案を昨年5月17日(水)の中間報告で示された以下の3つの案[2]と比べるとどのようになるでしょうか。

(1)規定を設けず公序良俗や権利に反しない限り認める
(2)漢字の慣用的な読み方か字義との関連性があれば認める
(3)字義との関連に加え、パスポートに記載済みなど既に社会的に通用していれば認める

現在の対応を踏襲する案1、最も厳密な措置となる案2、両者の中間に位置するのが案3です。

今後の対応は法務省が通達で示すものの、中間報告における案3を踏まえた内容になることが推察されます。

ただし、すでに本欄が指摘するように、規制案の(2)や(3)は、漢字そのものの多義性や『和名類聚抄』のような古典に象徴的に示されている和訓の多様さを考えるだけでも、実効性に乏しく、実践的ではありません[3]。

さらに、現在は社会通念上許容されない読み仮名であっても時代の推移に伴い理解が変化するというのは、しばしば起きるものです。

例えば、昭和20年代に生まれた女児に「子」を付けないと身内からとかくの指摘を受けたものの、昭和30年代になると「子」の有無が大きな問題にならなくなった、といった話は、わずか10年の間でも状況が変わることを教えます。

あるいは、漢字に独自の読み方を与える「キラキラネーム」は決して20世紀末からの現象ではなく、嵯峨源氏の一字名を見るだけでも時代ごとに特徴的な読み方という意味での「キラキラネーム」があることに明らかです。

そのため、画一的な規制は漢字と読み仮名の持つ多様な関係を損なうことになりかねないばかりか、自治体ごとに通達の解釈が異なれば、裁量行政の余地が広がりかねません。

それだけに、当局には短期的な視点から物事を捉えるのではなく、問題を巨視的に捉え、可能な限り制約を少なくした法改正に取り組むことが求められます。

[1]全国民の戸籍に読み仮名記載. 日本経済新聞, 2023年2月3日朝刊2面.
[2]戸籍氏名に読み仮名. 日本経済新聞, 2022年5月18日朝刊34面.
[3]鈴村裕輔, 「戸籍氏名への読み仮名導入」は裁量行政の余地を排し簡素な仕組みにせよ. 2022年5月18日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/837ff820c2bf84f7f556e9ad58cc5a26?frame_id=435622 (2023年2月3日閲覧).

<Executive Summary>
Introducing New Framework of the Acceptable Range of Unusual Names Should Not Exclude a Margin of a Naming (Yusuke Suzumura)

A subcommittee of an Advisory Body to Japan's Justice Minister reported the paper to introduce ne framework of the acceptable range of unusual names on 2nd February 2023. On this occasion, we examine the desirable and practical proposal to introduce a new framework without a discretionary administration.

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