【追悼文】西山太吉さんについて思ういくつかのこと

去る2月24日(金)、元毎日新聞記者の西山太吉さんが逝去しました。享年91歳でした。

西山さんについては、沖縄返還協定が成立した直後の1972年3月末から4月初めにかけて、外務省の極秘電報を基に衆議院において野党議員が沖縄返還交渉を巡る日米間の密約を暴露し、当時の佐藤栄作内閣の責任を追及した、いわゆる外務省公電漏洩事件、あるいは西山事件の当事者として知られます。

この事件は、記者の取材行為はどこまで許容されるのか、外交交渉における密約と国民の知る権利とはいかなる関係にあるのか、あるいは国家にとっての秘密とは何かといった様々な問題を提起する出来事となりました。

特に機密情報の暴露と情報源の秘匿の問題は大きく、西山さんを被告とする裁判の中で、弁護側証人として証言した読売新聞の渡邉恒雄さんが外交機密であるといっても政府権力者が世論誘導やその他の思惑で新聞記者にリークすることもある、あるいは渡邉さんがかかわった日韓基本条約締結時の補償を巡るいわゆる大平・金合意メモに関連して「ニュースソースを秘匿するのは新聞記者の義務ですからお答えできません」と回答したこと[1]などは、報道を巡る根本的な問題を提起していると言えるでしょう。

ところで、佐藤政権を追求した野党議員は当時日本社会党に所属していた楢崎弥之助氏と横路孝弘氏でした。

当時の政界の状況を鑑みれば、長期政権となった佐藤政権下で存在感を発揮する機会を模索していた社会党が国民の関心を集めていた沖縄返還に関して日米間の密約を暴露し、注目を集めたという側面を持っていました。

そして、一方の主役となった横路氏は、北海道知事を経て国政に復帰すると、2009年から2012年には衆議院議長として三権の長の一角を占めるに至り、今年2月2日に82歳で逝去しました。

奇しくも外務省公電漏洩事件の主要な関係者2人が相次いで長逝したことは、われわれに様々な思いを抱かせます。

やがて、この事件も人々の記憶から忘れ去られるかも知れないものの、本件が明らかにした問題は、重要なものであり続けています。

その意味で、われわれは報道と政治、あるいは報道と権力の関係をどのように考えるか、今も大きな課題に向かい合っているのです。

改めて西山太吉さんのご冥福をお祈り申し上げます。

[1]御厨貴監修, 渡邉恒雄回顧録. 中央公論新社, 2007年, 301頁.

<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of Mr. Takichi Nishiyama (Yusuke Suzumura)

Mr. Takichi Nishiyama, a former staff writer of the Mainichi Shimbun, had passed away at the age of 91 on 24th February 2023. On this occasion, I remember some impressions of Mr. Nishiyama.

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