吉村洋文氏の首相公選制への理解はいかなる意味を持つか

7月16日(日)、日本経済新聞に日本維新の会共同代表の吉村洋文氏の談話が掲載されました[1]。

国会議員の3割削減や大阪万博の推進など、党の主張を改めて訴えている点は、日本維新の会の共同代表として当然の姿と言えるでしょう。

また、日本維新の会がかねてから提唱している首相公選制にも言及し、もし首相公選制が導入されれば現在は目指していない首相の座に食指が動く可能性を示唆する点は、むしろ人柄の率直さを現しているかのようです。

しかし、首相公選制に対する理解という点では、吉村氏は十分な知見を有していないように思われます。

すなわち、吉村氏は日本経済新聞と以下のようなやり取りを行っています。

 ――国を改革するなら首相を目指せばいい。
 「いや、目指しません。なんでなりたいのかな、と逆に思う。知事や市長は選挙で直接選ばれるから、腹をくくれば公約を実行できる。首相は国会議員に選ばれるから、派閥などに配慮しないといけない。僕自身は向いているとは思わない。性格上、まとめられない」
 「首相が国会議員の顔色をうかがう仕組みで、リーダーシップを発揮できるのだろうか。スピードと決定力が圧倒的に欠ける。国民が直接選ぶ首相公選制になれば、ちょっと気が変わるかもしれない」

ここで、吉村氏は「知事や市長は選挙で直接選ばれるから腹をくくれば公約を実行できるが、首相は国会議員にえらばれるから国会議員の顔色をうかがい、リーダーシップを発揮できない」という趣旨の意見を述べています。

確かに、制度の点からみれば、国会議員の中から内閣総理大臣が選出される現在の仕組みは迂遠のように思われるかもしれませんし、自治体の首長のように公選制を導入すれば政治の在り方が変わる可能性も考えられます。

ただし、すでに本欄が指摘するように、ニクソン政権で副大統領を務めたスピロ・アグニューは贈収賄疑惑を受けて1973年に辞職し、後任にはジェラルド・フォードが任命されたものの、1974年のウォーターゲート事件でニクソンが大統領を辞職したため、選挙によって有権者の選択を経ていなかったフォードが大統領に就任するという事態が生じたことは、大統領を公選するはずの米国政界における、異例ではあっても起こるべくして起きた出来事でした[2]。

一方、日本で現在行われている議院内閣制であれば、既に有権者の投票によって選ばれた国会議員が首相となるのですから、選挙を経ない人物が首相になるということはありません。

吉村氏は「首相が国会議員の顔色をうかがう仕組みで、リーダーシップを発揮できるのだろうか」と述べて首相の選出方法と指導力との間に直接的な関係があるかのような理解を示しているものの、実際には両者の間には必然的な結び付きはありません。

むしろ、公選制の結果その地位にある地方自治体の首長の現状を見るなら、有権者によって直接選ばれた者が必ずしもリーダーシップを発揮しているとは言えないことは明らかです。

実際には、吉村氏も「腹をくくる」ことを求めているように、どのような制度であってもリーダシップを発揮できる人物はいるのであり、リーダーシップを発揮できない理由を制度に求める態度は、首相公選制の実現のためにあえて人々の注意を事実と異なる方向に逸らそうとするかのようでもあります。

もちろん、改憲を宿願としているとされる過去の首相たちが、改憲を求めるのではなく、改憲への意欲を示し続けることで求心力を維持しようとしたように、吉村氏も首相公選を唱えることで支持者の結束を図ろうとしているのかもしれません。

果たして吉村氏がどこまで首相公選制を本気で支持しているのか、今後の展開が一層注目されます。

[1]国会議員は3割減らせる. 日本経済新聞, 2023年7月16日朝刊2面.
[2]鈴村裕輔, 日本維新の会とみんなの党による「首相公選制の導入」という軽率な意見. 2013年4月5日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/ad41c37ff46f9db750d286484c25328e?frame_id=435622 (2023年7月18日閲覧).

<Executive Summary>
What Is an Important Viewpoint of Osaka Governor Hirofumi Yoshimura'S Comment? (Yusuke Suzumura)

The Nihon Keizai Shimbun run an interview of Osaka Governor Hirfumi Yoshimura, the Deputy Leader of the Japan Innovation Party, on 16th July 2023. On this occasion, we examine Governor Yoshimura's comment focusing of public election fo Prime Minister.

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