論文"Declaration of Victory: The Meaning and Achievements of the Stanford University Baseball Team's 1913 Tour"の草稿のご紹介(3)

昨年12月、ロバート・フィッツ、ビル・ナウリン、ジェームズ・フォーの各氏の編纂した書籍"Nichibei Yakyu: US Tours of Japan"の第1巻がアメリカ野球学会(SABR)から刊行され、私も論文"Declaration of Victory: The Meaning and Achievements of the Stanford University Baseball Team's 1913 Tour"を寄稿しました。

今回は、論文の日本語版草稿のご紹介の第3回目となります。


17日間の航海中、スタンフォード大学の選手たちは日本丸の中でどのように過ごしたのだろうか。5月27日の午前8時頃に横浜港に上陸した一行は、日本の報道陣の求めに応じ、記者会見を開いた。その中で、航海中の過ごし方に触れ、日本丸で行った練習について、次のように述べた[11]。

航海が穏やかであったおかげで練習は毎日やれたが、4ダース携帯してきたボールのうち15個を海に落としてしまった。しかし、連日の練習のためか誰もが体重を増やし、中には12kgも太った者がいる。

一方、東京朝日新聞の記事は「疲労の様子は全くなく、船中の15日間は非常に快適であったので、どの選手も750g位ずつ体重が増えたという」[12]となっている。読売新聞の記事と比べると、体重が大幅に増えた者はいないように思われる。いずれの記述が正確なのかは判断が分かれるところであろう。しかし、航海中に選手の体重が増加したことは事実であると分かる。

たとえ大型客船であっても海上で平衡を保つことは難しい。そのため、もしキャッチボールを行っている最中に横波を受けるなどして船体が揺れれば、選手がボールを捕れず、ボールが海中に落ちることは比較的頻繁に起きたであろう。48個のボールを携帯し、そのうち15個を海に落としたということは、損失率が30%を超えており、ボールを失った割合が高いように思われるかもしれない。しかし、航海中にキャッチボールを行うという特殊な状況を考えれば、このような数値となるとしても不思議ではない。

これに対し、航海中に練習を行っていたにもかかわらず、選手たちの体重が増加していたことは、海上という特殊な環境のために十分な練習時間を確保できなかったか、もしくは練習時間は十分確保されていたものの地上に比べて練習量が不十分であったことを推察させる。

何故なら、現在のようにスポーツ科学やスポーツ栄養学が発達していない1910年代であっても、特にシーズン中の極端な体重の増減はスポーツ選手にとって禁忌であったからである。

[11]「必勝を揚言す」『読売新聞』、1913年5月28日3面。
[12]「ス大選手来る」『東京朝日新聞』、1913年5月28日5面。


<Executive Summary>
Draft of Artcile: Declaration of Victory: The Meaning and Achievements of the Stanford University Baseball Team's 1913 Tour (III) (Yusuke Suzumura)

My article "Declaration of Victory: The Meaning and Achievements of the Stanford University Baseball Team's 1913 Tour" is run on Nichibe Yakyu edited by Robert K. Fitts, Bill Nowlin, and James Forr published in December 2022. On this occasion, I introduce the Japanese draft to the readers of the weblog.

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