「企業人としての成功物語」を超える奥行と広がりを持つ中山譲治さんによる「私の履歴書」

今日、第一三共の社長などを歴任した中山譲治さんが担当した日本経済新聞の連載「私の履歴書」が終了しました。

元外相の中山太郎を父に、元厚相の中山マサを祖母に持つ中山さんが、中山太郎が総務長官と外相を務めた際に秘書官として政治にかかわりつつ、政治家にならず産業界で活躍した様子は、今回の連載の興味深い点でした。

すなわち、中山さんは世界でなく産業界を選んだ理由を、次のように述べています[1]。

外務省では国を背負っているという強い意識をもった多数の官僚が働いていて刺激を受けた。それを束ねてリーダーシップを発揮し、国のために成果をあげるには政治家としてよほど高い見識と経験・人脈が必要だ。自分はそのような政治家にはなれない、産業界で自分なりの仕事をすべきだと改めて決心した。

ここには、政治家の果たすべき役割と理想の姿に対する鋭い洞察があり、政治家がほとんど家業というべき身近な存在であったからこそ、かえって自らのあり方との対比によって産業界での活躍の道が選ばれたことを物語ります。

また、ノースウエスタン大学を卒業した後に入社したサントリーで、営業部や財務部を経て全く経験のない医薬事業部に異動し、医薬事業部が第一製薬に売却されたことで自らも移籍し、その後の医薬業界での活躍に繋がった逸話なども、様々な要素が重なり合うことで意外な展開が待つという、人の歩みの興味深さを伝えるものでした。

あるいは、第一三共の社長時代に、インドの子会社であるランバクシー・ラボラトリーズの不正問題とその後の売却とに取り組んだ逸話は、問題の当事者の一方による回想のため注意が必要ながら、いかにして困難な課題に取り組むべきかという、参考にすべき手本を提供します。

何より、連載の最後に記された一文が示すように、中山さん人間を信頼し、未来への明るい展望を抱き続ける姿は、例えば憲法問題で百人規模の国会議員を束ね、一時はその調整能力の高さから首相候補に擬された中山太郎を彷彿とさせるものでした[2]。

DNAには人体の機能を担うたんぱく質を作るための情報が書かれている。細胞分裂のたびにすべての情報がコピーされ、遺伝していくことになっている。しかし、人間のDNAのうち、たんぱく質の情報をもつのは2%だけで、残りが何をしているのかよくわかっていない。人間の98%は未知ということだ。
だが、98%に意味がないわけがない。逆に言えば、そこに人間のすばらしい未来が残っているのだと思う。今後も若い研究者たちが、病める人を救うために挑戦を続けていくことを願う。

このように、今回の連載は、中山譲治さんの足跡が様々な角度から記された興味深いもので、「企業人としての成功物語」を超える奥行と広がりを持っていたと言えるでしょう。

[1]中山譲治, 秘書官. 日本経済新聞, 2023年6月11日朝刊28面.
[2]中山譲治, DNA. 日本経済新聞, 2023年6月30日朝刊38面.

<Executive Summary>
Joji Nakayama and Half of His Life Seen from My Résumé (Yusuke Suzumura)

Mr. Joji Nakayama, the former president of the Daiichi-Sankyo, writes My Résumé on the Nihon Keizai Shimbun from 1st to 30th June 2023.

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