東横線渋谷駅の地下化11年目に際して考える長期の再開発計画が持つ計画と現実の乖離の問題

本日、2013年3月16日(土)に東急東横線渋谷駅が地下に移設され、東京地下鉄副都心線との相互直通運転を開始してから満11年が経ちました。

いわゆる渋谷再開発について、利用者が様々な不便を忍ぶことで成り立っている点については昨年の本欄で指摘した通りです[1]。

ところで、現在の渋谷駅が抱える問題の一つが、利用者の増加による移動の困難さです。

これは、通勤や通学で日常的に渋谷駅を使用する利用客だけでなく、とりわけ日本国外からの観光客の増加を受けた結果です。

すなわち、渋谷駅の再開発が始まる直前の2012年は年間で8,358,105人であった訪日客は2019年に過去最多の31,882,049人を記録しました[2]。

2020年から2022年にかけては新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う渡航制限などもあって海外からの観光客の訪日は減少したものの、コロナ禍が明けた2023年は25,066,100人を記録しています[3]。

こうした状況は、政府や自治体の訪日客誘致の政策が結実した結果であり、「観光立国」を目指す日本にとって好ましいものです。

一方、渋谷駅の再開発を計画した当初はこうした状況が念頭に置かれていなかったことは、例えば東急線渋谷駅から井の頭線渋谷駅へと移動する通路が時間帯を問わず混雑している様子からも容易に推察されます。

もとより、長年の悲願とされてきた訪日客が初めて1000万人を上回ったのは2013年のことであり、当時政府は2020年までに年間2000万人を目標としていました。

従って、渋谷駅の構造もこうした数値を基に設計されていると考えられます。

しかし、コロナ禍による一時的な停滞はあったにせよ、訪日客の数は当初の予想を上回る速度で増加しており、当初の構想がすでに実際の利用者数に対応しきれていないのが現状です。

しかも、今になって建築計画を大幅に変更して利用者の往来を容易にするために通路の拡幅を行うことは出来ませんし、工事がすべて終了した後に拡張工事を行うことも非現実的です。

ここに、長期間にわたる再開発に絶えず付きまとう事前の想定が将来の状況を正しく把握できないという問題の一端があります。

その意味で、渋谷駅の再開発はこうした問題を考える上で重要な事例になっていると言えるのです。

[1]鈴村裕輔, 東横線渋谷駅の地下化10年目に際して改めて事業者に「利用者の忍苦によって成り立つ再開発」への自覚を求める. 2023年3月16日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/2de5a1fbb16cc98942b19217e887331a?frame_id=435622 (2024年3月16日閲覧).
[2]年別 訪日外客数、出国日本人数の推移(1964年‐2022年)(PDF). 日本政府観光局, 公開日未詳, https://www.jnto.go.jp/statistics/data/visitors-statistics/ (2024年3月16日).
[3]訪日外客数(2023年12月および年間推計値). 日本政府観光局, 2024年1月17日, https://www.jnto.go.jp/news/press/20240117_monthly.html (2024年3月16日).

<Executive Summary>
"Shibuya Station Area Redevelopment Plan" Is the Remarkable Example of the Problem of Discrepancy between Reality and Plan (Yusuke Suzumura)

The 16th March 2024 is the 11th anniversary of the opening of new Shibuya Station of the Tokyu Toyoko Line. In the occasion we examine the problem of discrepancy between reality and plan.


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