クラシック音楽館』の特集「革命の作曲家 ベートーベン」で思った稲垣吾郎さんと高関健さんにまつわるいくつかのこと

去る10月18日(日)にNHK教育テレビで放送された『クラシック音楽館』の特集「革命の作曲家 ベートーベン」について、視聴に際しての寸評は昨日の本欄でご紹介した通りです[1]。

そこで、今回は当日の『クラシック音楽館』を視聴した際の所感をご案内いたします。

この日の放送で実感されたのは、解説役として登場した指揮者の高関健さんの分析と説明の明晰さと、司会の稲垣吾郎さんの感性のしなやかさでした。

例えば、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」の第1楽章の冒頭の「運命の動機」について、「ジャジャジャジャーンだけで作曲」という明快な標語を示し、その後に最初の4小節における8分休符の意味を丹念に説明する高関さんの姿は、初学者だけでなく曲を知悉する人にも有意義なものです。

また、高関健さんがベートーヴェンが活躍した18世紀末から19世紀前半にかけての社会状況とベートーヴェンの音楽を関連させて説明する様子も、音楽史の成果を踏まえた、興味深い指摘でした。一方、高関さんの解説を踏まえた、稲垣吾郎さんの「感情を音楽を表現する」という指摘も、稲垣さんの感性の鋭さを示してい他と言えるでしょう。

もとより、発言の詳細まで台本に書き記されており、稲垣さんは書かれた内容をあたかも内面から湧き出る言葉であるかのように台詞として発しているのかも知れません。

しかし、9月20日(日)の第1回目の特集の際から垣間見られた、説明を受けて得られる情報に対する稲垣さんの驚きや同意の様子は、台本を離れた、率直な感慨の発露であるのではないかと思われました。

それとともに、かつてNHK教育テレビで放送されていた『N響アワー』や、今もテレビ朝日で放送されている『題名のない音楽会』のように、作曲家や音楽家、あるいは音楽学者などが司会を務め、専門家を招いて話を聞くといった形式が多い中で、歌手であり交響管弦楽の愛好家ではあっても斯界の専門家ではない稲垣吾郎さんが音楽家と対談するという番組の形式は、ある意味で既存の枠組みを超えようとする意欲的な試みでもありました。

前回に比べ、今回はより番組の構成に慣れたことが推察される稲垣吾郎さんだけに、次回の放送でもより進歩した姿勢で番組に取り組まれることでしょう。

[1]鈴村裕輔, 『クラシック音楽館』の特集「革命の作曲家 ベートーベン」が再び視聴者に提供した重要な機会. 2020年10月19日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/de6d40142b976ee2bf21eedb9f070bc4?frame_id=435622 (2020年10月20日閲覧).

<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of Mr. Goro Inagaki and Mr. Ken Takaseki through "Classical Music Hall" (Yusuke Suzumura)

A TV programme Classical Music Hall broadcasted by NHK Educational was hosted by Mr. Goro Inagaki who interviewed with Mr. Ken Takaseki on 18th October 2020. In this occasion I remember miscellaneous impressions of Mr. Inagaki and Mr. Takaseki.

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