バイロイト音楽祭2023

去る2023年12月25日(月)から31日(日)まで、NHK FMで『バイロイト音楽祭2023』が放送されました。

今回の公演で取り上げらた7作品の放送の順番は以下の7作品でした。

2023年12月25日(月)/楽劇『ラインの黄金』
2023年12月26日(火)/楽劇『ワルキューレ』
2023年12月27日(水)/楽劇『ジークフリート』
2023年12月28日(木)/楽劇『神々のたそがれ』
2023年12月29日(金)/歌劇『タンホイザー』
2023年12月30日(土)/歌劇『さまよえるオランダ人』
2023年12月31日(日)/舞台神聖祝典劇『パルシファル』

『ニーベルングの指環』4部作を指揮したのはピエタり・インキネン、『タンホイザー』がナタリー・シュトゥッツマン、『さまよえるオランダ人』がオクサーナ・リーニフ、『パルシファル』がパブロ・エラス=カサドでした。

昨年のバイロイト音楽祭はインキネンの軽快な音楽作りがひときわ印象的でした。

『ラインの黄金』はインキネンの目指した軽やかさの中に劇的な要素を圧縮した音楽作りが演奏者に完全に共有されていたとは言い難く、しばしば指揮者が演奏者を置いてゆくかのような場面も見られました。それでも、第1幕冒頭の音の重ね方に揺るぎない信念を感じさせるものでした。

一方、『ワルキューレ』は、疾走しつつも振り落とされることのない演奏者の姿から、インキネンの音楽作りがよく了解された様子が窺われました。また、ゲオルク・ツェッペンフェルトのフンディングの重量感のある歌唱は大変印象深く、幕が下り始めると間を置かずに拍手と歓声が起きたことも当然という仕上がりでした。

『ジークフリート』は全編を通して濃密な仕上がりとなり、特に第二幕の躍動感溢れる様子が聞き手の注意を惹きつけて離しませんでした。これに加えて、細かな動きが求められる箇所でも速度を緩めることのないインキネンの指揮は、演奏者の水準の高さをよく示したと言えるでしょう。

『神々のたそがれ』は完成度の高い公演で、特に第三幕冒頭のラインの乙女たちによる歌唱は、第二幕の重苦しさからの解放と、その後の劇的な展開を重ね合わせると、ひときわ澄み渡って聞こえました。

続く『タンホイザー』は、クラウス・フロリアン・フォークトのタンホイザーの清々しさとともに、ナタリー・シュトゥッツマンの勘所を押さえた音楽作りも印象深く、劇的な躍動感に満ちた公演となりました。

歌劇『さまよえるオランダ人』は、オランダ人役のミヒャエル・フォレがバイロイト祝祭歌劇場の時間を止めるような素晴らしい歌唱で聞き手の注意を一身に集めた、聞き応えのある公演となりました。また、オクサーナ・リーニフの指揮も序曲の冒頭から抑制された様子の中に芯の熱い音楽を作り上げ、作品の魅力をさらに高めました。

そして、『バイロイト音楽祭2023』の放送の掉尾を飾ったのは『パルシファル』で、グルネマンツを演じたゲオルク・ツェッペンフェルトの安定した歌唱が作品全体をよく引き締めていました。

毎年これを聞くと年末になったことが実感されるバイロイト音楽祭の実況録音の放送は、今回もいずれも聞きごたえのある内容となり、今から12月の放送が待望されるところです。

<Executive Summary>
NHK FM's Programme "The Bayreuth Festival 2023" (Yusuke Suzumura)

The NHK FM broadcast a featured programme "The Bayreuth Festival 2023" on 25th through 31st December 2023. In this time seven works including The Ring of the Nibelung were performed.

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