指名打者制度の導入は「せ・パ両リーグの格差問題の解決」に寄与するか

今年11月に行われたプロ野球日本シリーズで福岡ソフトバンクホークスが4連覇を達成したことを受け、パシフィック・リーグとセントラル・リーグの間の戦力格差などに関する議論が盛んになされています。

確かに、ホークスが日本シリーズで2年連続の4連勝を記録したことや、2005年から2019年までの15年間の交流戦で優勝した回数について、パ・リーグが12回、セ・リーグが3回となっていることは、両リーグの間に何らかの差があることを示しているかのようです。

そして、形式的に見れば、両リーグの最大の相違が指名打者制度の有無であるため、一部で試行的にセ・リーグでも指名打者制度の導入が提案されています[1]。

もちろん、こうした提案は一考に値するものですし、様々な取り組みがなされることは、球界の活性化という観点からも望ましいものです。

その一方で、もし現在両リーグの間に戦力上の格差があるとすれば、そのような差が指名打者制度によってのみもたらされたものであるのか、あるいは他の要因に由来するのかを検討する必要があることは論を俟ちません。

むしろ、球団ごとの選手の育成にかける費用の相違や指導方法のいかんなどは戦力そのもののあり様を考える際には不可欠な観点となるでしょう。

また、制度面では、公式戦の終了からクライマックスシリーズ、クライマックスシリーズから日本シリーズの開始までの期間がリーグによって異なることが選手に対して心理的、肉体的にどのような影響を与えるのか、あるいは監督の選手の起用法をどの程度左右するかといった視点からの検討も重要です。

何より、パ・リーグが指名打者制度を導入した1975年以降、10年代ごとの日本シリーズの成績の推移を確認すると、1980年代から2000年代までは両リーグとも5勝ずつと互角であったものの、2010年代はパ・リーグが9勝、セ・リーグが1勝と、リーグ間の優勝回数に算術的な差が認められるようになったのは近年のことであることが分かります(表1)。

表1 日本シリーズのリーグごとの勝利数の推移(1970年代から2020年代)

20201222日本シリーズのリーグごとの勝利数の推移01


その意味で、「セ・パ両リーグの戦力格差」という問題は、一見すると簡単なようで実は必ずしも解決策を示すのが容易ではない話題かも知れません。

[1]異例ずくめ 球団経営苦心. 朝日新聞, 2020年12月17日朝刊19面.

<Executive Summary>
Is It an Easy Question?: Examining a "Difference in Fighting Power Issue" between the Central League and the Pacific League (Yusuke Suzumura)

It is said that there is a "difference in fighting power issue" between the both leagues of the Japanese Professional Baseball, the Central League and the Pacific League. However we have to examine the proposition, since it might be not only a problem of fighting power but also somewhat structural one.


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