第211回国会における岸田文雄首相の施政方針演説の問題点は何か

昨日、第211回国会が開会したことを受け岸田文雄首相が衆参両院本会議において施政方針演説を行いました。

今回の施政方針演説では、少子化対策、防衛費増額問題、原子力発電所の次世代革新炉への切り替え、物価上昇を超える賃上げ、学び直しや職務給の確立などの推進が主たる政策として掲げられました[1]。

施政方針演説は、通常国会の冒頭で首相が国政の基本方針を示す演説です。

そのため、施政方針演説の中で取り上げられる話題が網羅的な内容となり、具体性を伴わないのは無理からぬところであって、個別の政策を通して基本方針を実現させることが不可欠なのは論を俟ちません。

一方で、施政方針演説であれ国会での答弁であれ、政治家に求められるのは言葉を飾るのではなく、なすべき政策の方針を過不足なく示すことも明らかです。

その意味で、例えば現在の政権にとって最も重要な課題である少子化対策について、岸田文雄首相は「年齢・性別を問わず、皆が参加する、従来とは次元の異なる少子化対策を実現したいと思います。」と述べるものの、「従来」とはいつを指すのか、「次元の異なる」とはいかなる意味におけるのかといった点を明示しておらず、国政の基本方針の説明としては適切さを欠いていると言えます。

あるいは、施政方針演説の冒頭で、日本では国会を英語で"parliament"ではなく"Diet"と表記する理由を取り上げたのは、英語に堪能な岸田首相ならではの独創的な話題ながら、"Diet"の語源を「「集まる日」という意味を持つラテン語」としたことも、不適切なものです。

何故なら、『ランダムハウス英和辞典』などの辞典に記されている語源は中世ラテン語の"diēta"(公的な集会)にあるとされており、「集まる日」はOxford English Dictionaryに"Diet"の語源として記された"A day fixed for a particular meeting or assembly; an appointed date or time."というスコットランド語の語源に関する記述に基づくと推察されるからです。

もとより岸田首相が施政方針演説を自ら手掛けるのではなく、代筆者が原稿を書いています。そのため、適切さを欠く語源を挙げたことは岸田首相ではなく代筆者の注意力の不足を推察させます。

それでも、不適切な記述は施政方針演説の信頼性を損ないかねません。

それだけに、岸田首相は施政方針演説という国民に対して直接語りかける重要な機会に、適切さに乏しい話題を扱うことは演説そのものの印象を散漫なものにします。

こうした点からも、今回の岸田文雄首相による施政方針演説は大小さまざまな問題を含むものであったと言えるでしょう。

[1]第二百十一回国会における岸田内閣総理大臣施政方針演説. 首相官邸, 2023年1月23日, https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/0123shiseihoshin.html (2023年1月24日閲覧).

<Executive Summary>
What Is a Meaning of Prime Minister Fumio Kishida's Policy Speech? (Yusuke Suzumura)

On 23rd January, Prime Minister Fumio Kishida made his Policy Speech at the both Diets. On this occasion, we examine a meaning of the speech.

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