【追悼文】すぎやまこういちさんについて思い出したいくつかのこと

去る9月30日(木)、作曲家のすぎやまこういちさんが逝去しました。享年90歳でした。

幼少の頃からすぎやまさんが交響管弦楽に親しみ、東京大学を卒業後は文化放送を経てフジテレビに入社し、音楽番組などの制作を担当した後に作曲家として独立し、流行歌から管弦楽曲まで幅広い作品を世に送り出したことは周知のとおりです。

また、1986年に発売されたファミリーコンピューター用のソフトウェア『ドランゴンクエスト』で音楽を担当したことはすぎやまさんにとって画期であり、その後連作の音楽を作曲し続けたことで一方ではテレビゲームの性能の向上による音楽の再現能力の高まりの恩恵を受けて多様な作品を作ることが可能となり、他方では一連の活動によってゲーム音楽の分野の第一人者としての地位を確立したのでした。

とりわけ、交響管弦楽への造詣の深さは、中世の欧州風という『ドラゴンクエスト』の設定と絶妙に融合し、ゲームの魅力を一層引き立てることに役立ちました。

『ドラゴンクエスト』は発売に先立ちテレビ用の広告が用意されており、1987年にファミリーコンピューターの本体を譲り受けるまで自宅で利用できなかった私は画面に映し出される霧に囲まれた山やゲームの一場面などを目にはするものの、発売から実際にすぎやまさんの音楽に接するまでには少々の時間を要しました。

それでも、発売から1年を経た後にわが家で『ドラゴンクエスト』を利用した際には、平易で親しみやすく、それでいて場面や状況に応じた旋律をすぐに覚えたものです。

そして、このような音楽を手掛けたのが、『亜麻色の乙女』や『帰ってきたウルトラマン』の主題歌で慣れ親しんだ「すぎやまこういち」と同じ人物であると知った際には、意外の感を覚えたものでした。

折しも、今年9月18日(土)にNHK FMで放送された『クラシックの迷宮』ではすぎやまさんの生誕90年を記念した特集「クラシック音楽作曲家“すぎやまこういち”を解剖する」を組み、司会の片山杜秀先生がその音楽上の特長を丹念に分析し、解説を加えられました。

交響管弦楽の作曲家としてのすぎやまさんの魅力を余すところなく伝えたのは片山先生の手腕のしからしむるところであるとともに、すぎやまさん自身に十分な幅と奥行きの深さがあればこそ、取り上げられた作品の一つひとつが十分な聞きごたえを持っていたと言えるでしょう。

政治的な話題についてはすぎやまさんの主張が様々に取り沙汰されるとはあったものの、19世紀までの作曲家にとって歌劇が総合的な芸術表現の重要な手段であり、20世紀に入り映画からテレビへと対象が広がる中で、新たにテレビゲームやコンピュータゲームにも活躍の場を加えたことは、すぎやまさんの大きな功績です。

改めてご冥福を追お祈り申し上げます。

<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of Mr. Koichi Sugiyama (Yusuke Suzumura)

Mr. Koichi Sugiyama, a composer, had passed away at the age of 90 on 30th September 2021. In this occasion I remember miscellaneous memories of Mr. Sugiyama.

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