岸田文雄首相は人事を有効に活かすことが出来たか

本日、内閣改造と自民党役員人事が行われ、第2次岸田文雄改造内閣が発足しました。

今回は閣僚と党役員に女性の起用が進んだことが注目されています。これは、女性の積極的な登用により進歩的な人事であることを強調しようとする岸田文雄首相とその周辺の思惑の表れです。

実際、2001年の小泉純一郎内閣、2014年の第2次安倍晋三改造内閣に並び過去最多の5人の女性閣僚が起用されたことは、「男女共同参画」や「上場企業の女性役員の比率の向上」を提唱する政府としては当然の措置と言えます。

とりわけ、加藤鮎子氏が国務相としてこども政策担当を兼ねたことは、かつて宏池会を率いた加藤紘一氏を父に持つという政治的な経歴とともに、今年8月に開催されたG20の女性活躍担当相会合において、男性が担当相であったのは日本だけというある意味で衝撃的な光景を踏まえた、意欲的な人事となります。

また、党四役の一つである選挙対策委員長に小渕優子氏が就任したことは、 組織運動本部長としての取り組みが評価された結果であるとともに、2014年に会計問題で経済産業相を辞任した過去が、政治的に完全に精算されたことを意味します。

一方、人事は政治的な基盤の強化とともに権力闘争の場でもあることを考えれば、興味深い事例が散見されます。

例えば、公明党が事実上の指定席となっている国土交通相の座を維持したことは、「公明党がうまみのある国交相を独占するのはけしからん」といった自民党内部にくすぶる声に勝利したことを意味します。それとともに、斉藤鉄夫氏が留任したことは、公明党の議員を順送りで国交相に充てるものではないという自民党に対する意思表示となります。

選挙協力や閣僚人事を巡り関係の揺らぎが認められる自公両党だけに、今回は双方がそれぞれ実を取る形で妥協したと言えるでしょう。

あるいは、河野太郎氏は、奔放な言動と実際の成果とを見比べれば国務相からの退任もあり得たものの、閣内に留まりました。

これは、党務に専念し、いわゆる「汗をかく」ということを得意とせず、かといって閑職に充てればかえって国民の注目を集めるという河野氏の過去の状況を踏まえ、閣内に止めることで来秋の総裁選への用意をしにくくするという、岸田首相側の思惑の表れとなります。

さらに、高市早苗国務相や茂木敏允幹事長、あるいは萩生田光一政務調査会長の留任も、河野氏の場合と同様に総裁選への対策に他なりません。

その意味で、直前までウクライナへの訪問など外務相として積極的に活動していた林芳正氏が閣外に去ったことは一見すると意外ながらも、新たな区割りで迎える衆院選に備え、選挙区での支持固めをより一層進める環境を整備しようという、派閥を同じくする岸田首相の配慮の結果と考えられます。

この点については、政権から離れたことで岸田首相の後継者として研鑽を積む機会を得たことをも意味しますから、今後林氏が岸田派内でどのような動きを示すかも注目されます。

この様に、今回の人事は大きな驚きはないものの見るべき点が随所にあり、「人事が好き」とされる岸田首相らしさが現れていると言えるでしょう。

それだけに、新任の閣僚や党役員に隠された問題がなければ、今回の人事は岸田首相にとって長期政権のための重要な一歩となるのです。

<Executive Summary>
What Is the Meaning of the Reshuffle of the Kishida Cabinet and the Replacement of the LDP's Executives? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Fumio Kishida reshuffled the cabinet and replaced Executives of the Liberal Democratic Party on 13th September 2023. On this occasion, we examine the meaning of this reshuffling and replacement.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?