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池袋のミネラルショーに行ってきた。

いろいろなことをやっているように見えるかもしれないけれど、わたしの本業は宝石の鑑別だ。この仕事をはじめてから、機会あるごとに足を運んでいるのが、化石や鉱物の展示会、いわゆるミネラルショー。なかでも、毎年12月におこなわれる、国内最大規模の「東京ミネラルショー」(通称「池袋ショー」)には、過去7年、ほぼ毎年かかさず赴いている。

2ヶ月ちかく前に、門柱のネームプレートに使った化石について書いたけど、あのアンモナイト入り頁岩を買ったのも、この池袋ショー。

今年のミネラルショーのスケジュールは、春先からの緊急事態宣言の影響で、かなりイレギュラーになった。それでも、今年の後半には、大小あわせて、とても頻繁にミネラルショーが行われている。比較的近場で開催されたいくつかには、わたしも足を運んだ。それぞれにしっかりと感染症対策がとられていて、主催の方々はもちろん、出展者の方々の苦労には頭がさがるばかり。そして、感染症が一向に収束しないなかで、最大規模の池袋ショーが開催されたのは、奇跡的だ。春先以降の多くのミネラルショーでの試行錯誤の賜物だと思う。

過去の池袋ショーでは、子供たちを連れてジオードクラッキングに挑戦した年もあった。晶洞とも呼ばれるジオードは、空間に大きな鉱物の結晶ができたもの。どんな鉱物があるのかは割ってみないとわからない。これを実際に割るイベントがジオードクラッキング。この池袋ショー恒例の人気イベントだ。下の写真は、ジオードを割る5年前の次男。

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今回も、次男坊が久しぶりにジオードクラッキングをやりたいと言っていた。しかしながら、感染症対策のため、購入者は割る石を選べず、抽選での購入とのこと。それを知った次男坊はトーンダウン。結局、断念した。

今年の池袋ショーは、海外からの出展者の多くが来られないうえに、チケットは時間を限った総入れ替え制になった。新型コロナの感染者数は急増中。正直、どうしようか迷ったのだけど、新入社員の同僚が一緒に予約しておいてくれたので、足を運んだ。

そんな状況だったので、とくに今回は、標本購入よりも、コロナ禍での流通事情などの情報収集が目的になっていた。そうは言っても、これは国内最大規模のミネラルショー。ほんのわずかだけれど、戦利品があった。すでにオイルパステルでスケッチしたものがあるので、以下にそれらを紹介する。まずは、米国アリゾナ州産のターコイズ(トルコ石)。すでに閉山したスリーピング・ビューティー鉱山の高品質なもの。

そして、ブラッドストーン。緻密な石英の結晶が集まったカルセドニー(玉髄)の一種で、酸化鉄の赤い斑点が血を連想させるのが、その名の由来。アンティークジュエリーや、もっと古い考古遺物で使われているのを目にすることがある。実はわたしは、自分でブラッドストーンの標本を持っていなかった。そういうわけで、上のターコイズを買ったブースで、古いものを譲ってもらった。

あと、別のブースでクローム・トルマリンの破片も購入した。トルマリンは鉱物のグループ名で、30種類を超える鉱物が知られているのだけど、これはドラバイトという種類のトルマリン。濃い緑色はクロムとバナジウムによる。このクローム・トルマリンは、ウサンバラ効果という変わった現象が確認できるので、大きな話題になったことがある。透過光の通る距離によって吸収する光の波長が変わるというもの。早い話が、分厚くなったり重ねたりすると違った色に見える。下のツイートは、帰宅後に確認してみた結果。

このウサンバラ効果という呼び名は、クローム・トルマリンの採れる、タンザニアの地名に由来する。実は、わたしは数年前に、タンザニア以外の国で新たに見つかった緑〜茶色のドラバイトを入手している。それを詳しく調べて、ウサンバラ効果と同様の、厚みによって可視光線の吸収波長が異なる現象が確認できていた。しかしながら、その程度は非常に小さく、ウサンバラ効果のメカニズムの解明にいたるには程遠い。わたしは、トルマリンの主成分の組成と微量元素の入り方に注目しているのだけど、今回入手した破片は使えるだろうか。薄い破片の面と結晶軸との関係が不明なので、必要におうじて加工できるように、いっしょに塊も購入しておいた次第。

今年の池袋ショーでは、久しぶりに元同僚に会うことができた。積もる話ができたのも、とてもよかった。その元同僚とランチに入った韓国料理店は、内装が本格的に韓国だった。料理も本格的で、野菜たっぷりの、焼いていないビビンバがとても美味しかった。彼女とは、同じテーブルながらも、透明スクリーン越しの会話だった。ちょっと話しづらかったけれど、コンピュータやタブレットのスクリーン越しよりは、まだマシだ。わたしはそのあと自宅でオンラインの会議の予定があったので、楽しいランチを切り上げざるを得なかったのが、ちょっと残念。

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総入れ替え制のミネラルショー、スクリーン越しの会食、その後のオンライン会議。あとで振り返ると、前年までには想像もしなかったことばかり。こうした「新しい生活様式」には、慣れるしかないのだけど、きっと1年後には、もっと自然に「新しい池袋ショー」に馴染めているのだろうと思う。もしかしたら、もっと何か、海外からのオンライン出展とか、さらに新しい何かが加わっているかもしれない。

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