Jesus' Blood Never Failed Me Yet by Gavin Bryars with Tom Waits

数日前にブラッドストーンについて書いたときに取り上げた「イエスの血は決して私を見捨てたことはない」、最後にはったリンクは1975年の約25分のレコードバージョンだったけれど、わたしが初めに聴いたのは1993年にリメイクされた約74分のCDバージョンのほうだった。
じつはこれ、先月も紹介したトム・ウェイツが参加している。ご賢察のとおり、わたしはトムがらみで聴いて知った。

トムが深夜ラジオを聴いていたとき、1975年のレコードバージョンが流れてきたらしい。キャスリーン夫人の誕生日の深夜3時だったとか。延々と繰り返される老人の素朴な歌声に釘付けになり、トムのお気に入りになった。後年、トムが英国ツアー中にギャヴィンに直接「レコードを無くしたから買いたいけど、廃盤になっていて手に入らない、譲ってくれないか」と連絡したという話がある。もちろんギャヴィンはマネジャーのもとに残っていた1枚を進呈。
それからおよそ10年後、現代オペラ「ブラックライダー」を観にニューヨークを訪れていたギャヴィンのほうからトムにリメイク盤への参加を持ちかけて実現したのが1993年のCDバージョン。倍以上の長さになったこのリメイクの後半部分、この世のものとは思えぬ(←褒め言葉)ドスの効いた嗄れ声のウェイツ節バックコーラスが印象的。

便利なもので今はフルレングスだけでなく、この後半部分のみでもネットで聴けるのだからありがたい。
無名の老人の口ずさんだフレーズの素朴さに寄り添うようなトムの太い声と弦楽合奏。
わたしはクリスチャンではないので厳密な意味でこのフレーズの重みを実感はできない。けれど、あちらこちらで物騒なことばかりで不穏な現代には、現状に感謝してすこしでも希望がもてる「見捨てられない」という視点は、異教徒てあっても大切にしたい感覚だと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?