何かをインスピレーションソースとして表現する人にとっては、ちょっとドキッとする言葉ではないだろうか。

インスピレーションソースが枯渇しかかっている時、人は得てして旅に出る。それはもちろん、旅が湧き水のようにそれを埋めてくれることを期待してのことだ。

旅に出ると、そこには当然の如く新しい出会いがある。それらは新鮮で、まるでインスピレーションソースが湧き出ているような錯覚に陥る。

それが「錯覚」である理由は、引用中の穂村さんの言葉の通り、「感動のハードルが下がっている」からであるし、またその新しく出会ったものに対しての解像度がそもそもさほど高くないからであるとも私は考えている。

これは旅以外のものにも当てはめることができるだろう。作り手本人がたいして詳しくもない、比較的派手さのあるテーマというのは往々にしてこの類のものに該当すると思料する。

私は常々、あらゆるモノに対して相反するともいえる2つのスタンスをとっている。それらは「世の中にいろいろなモノがあるものはいいことだ」と「この世の中において『いいモノ』は少ない」である。

だから私は、「いいモノではない」と批判の目を向けるものに関しても、「枯れ木も山の賑い」という意味合いも込めて、そういうものが存在している分には「まぁ、あれこれあるということ自体は悪いことではないよね」とは考えている。

ただやはり、作り手としてモノに接する際は、主に後者のスタンスをとることになる。そうすると、旅や無駄に奇抜なインスピレーションソースを採用している香水ブランドを見るにつけ、なんだかなぁ、と思う。

その「なんだかなぁ」の源泉は、やはり「感動のハードルの低さ」と「インスピレーションソースに対する解像度の低さ」が透けて見えることなのだ。こと香水の世界は、どういうわけかその手のものが多いように感じている。

なぜだろう。プロダクトとしての差別化の難しさがその原因なのだろうか。私にはよくわからない。

çanomaの香水が私の個人的な感動を出発点としているのは、私の中に「感動に対する納得感」があることを重要視しているからだ。

それなしにどのようにモノを作るのか、私は疑問に思うし、そのようにして作られたモノには、なんだか愛がないように感じてしまう。

そこに、愛はあるんか…？

きっと作り手は、「感動のハードル」を高くすることで、逆にインスピレーションソースとなる感動を得られる機会が少なくなるため、どこかでハードルを下げたい誘惑に駆られる。しかしそれをしてしまうと、途端にアウトプットのクオリティが下がってしまうため、あえてそれをせず、結果的に日々苦しむことになる。

これこそが、作り手としてあるべき姿なのだと思う。安易に感動せず、琴線に触れるものと出会うまでじっと待つ。それは時として非常に苦しいが、それを超えた先に、「いいモノ」ができると、私は信じている。

ということで、私は日々、こんな感じでまぁまぁ苦しんでいる。そしてこれからも、まぁまぁ苦しんでいこうと思う。

くるしーーー！

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