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知的で素敵な存在への小さな一歩

今年の4月のことだった。母が亡くなって3週間ほどたった頃で、1ヶ月半の介護生活と母の喪失から、私は少しずつ立ち直ろうとしていた。

どういうわけか、その日私は東京を高いところから見下ろしたかった。夕方に表参道で友達と待ち合わせをし、少し買い物をした後、私はその友達に六本木ヒルズの展望台に行くことを提案した。私の状況を知っている友人は、何かを汲み取ってくれたのだろう、私の提案にすんなりと賛成してくれた。

夕飯にカレーを食べ、少々割高な入場料を払って六本木ヒルズの展望台へと向かった。ただ、その日は展望スペースで美術展が開催されており、その「割高な入場料」で東京の眺望とその美術展の両方が堪能できたので、結果的に“お釣りがきた”ように感じられた。

気分をよくした私たちは、帰り際に出口までの導線上にあるミュージアムショップに立ち寄った。なんだかよくわからない商品やオブジェにあれこれいちゃもんをつけながら、私たちはケラケラと笑った。


そのミュージアムショップの出口付近にそれはあった。

「六本木」と白抜きで大きく書かれた手ぬぐいで、文字の周りは何らかの模様で埋め尽くされていた。どうも六本木ヒルズのお土産のようだった。

よく見てみると、その細かい模様は全て小さな生き物たちのイラストだった。

その全ての生き物が、かわいかった。

本当に、全て。

東京の景色も、美術展も、わけのわからぬオブジェも、その日目にした何もかもが、その生き物たちに敵わなかった。

衝撃だった。

友人を前に、私は狂ったように「かわいい」を連呼していた。


イラストはボールペン画クリエイターの佐藤明日香さんによるものだった。早速彼女のInstagramをフォローした。

「かわいい」を連呼しておきながら、私はその時に手ぬぐいを購入しなかった。印刷されたものではなく、彼女のボールペンの筆致が見えるものが欲しい、と感じたのだ。六本木ヒルズのお土産に採用されるくらいなのだから、きっと人気作家なのだろう、近いうちに個展なんかが開催されるはずで、そこで実物と値段を見てから購入を検討しよう…私はそのように考えた。

はたして、私の読みは当たった。6月17日から7月2日の間、茅場町にある「ex-chamber museum」というギャラリーにてグループ展が開催されることがアナウンスされた。

あちこち出張が入っている関係で、私が赴けるのは6月22日か23日だけ。ここは絶対に逃すまい…私はスケジュール上にこの2日間のどちらかにギャラリーにいく決意表明をしっかりとした。


今日22日はどんよりとした梅雨らしい日だった。日本橋駅のB10出口を抜けると、外はしっとりと雨が降っていた。

傘を差しながら、「もう全部売り切れているんじゃないか…」という不安と共に私はギャラリーまでの10分間を歩いた。

到着すると、先客がギャラリーの方とあれこれ話していた。絵を買ったことのない私は、こういうところでの“行儀作法”がよくわからず、とりあえず一通り展示されている絵を眺めた後、部屋のすみっこの方で静かに待っていることにした。

原画を観て感じた彼女の魅力は、「違和感と新鮮な『かわいい』の反復横跳び」であると思った。細密な模様に何かが描かれているように感じて近づいて見てみると、そこにはかわいい生き物がはっきりと見て取れる。しかし一歩下がるとその時見ていたかわいい生き物は全体の中に埋没してしまう。そこでまた新たな「かわいい」を求めて近づくと、今度は先ほど見ていたのとは違うかわいい生き物に出会う…これを延々と繰り返すことになる。

繰り返される「かわいい」の中に、ひとつとして同じ「かわいい」がないのだ。

なんということだろうか。改めて衝撃を受けた。


先客が帰り、ギャラリーの方が私に要件を伺ってくれた。

「佐藤明日香さんの絵を購入したいのですが、まだ残っていますか…?」

行儀作法のわからぬ私は、とりあえずそう切り出すしかなかった。もしかしたらギャラリーでは「本日はお日柄もよく」とか「いやー、素晴らしい作品ですね!」とか、何らかの常套句があるのかもしれないとは思いつつも、単刀直入に要件を伝えることしかできなかった。私のバカ。バカバカ。

そんな浅学な私に寛大であったギャラリーの方は、大きな作品はもう売約済みで、比較的小さな作品があと数点残っていることを教えてくれた。

よかった。とりあえずその中から気に入ったものがあれば購入しよう、なかったら、また次回に…と考えていたら、どれもいい。どれも、とっても、いいのだ。


結果的に私は彼女の一枚の絵を購入することになる。その絵についてはまた後日、絵が手元に届いてから書こうと思う。

そして、ギャラリーの方の話もこれまた非常に面白かったのだが、それはまたの機会に書く…かもしれない。


このようにして私は、生まれて初めて絵を購入した。

なんだかとても嬉しかった。


Dis-moi ce que tu manges : je te dirai ce que tu es.

"Physiologie du Goût" Jean Anthelme Brillat-Savarin

「君がどんなものを食べているか言ってみたまえ、私は君がどんな人か言い当てよう」

フランスの美食家ブリア=サヴァランはこのように言ってのけた。

食べ物は間違いなくその人を構成する重要な要素だ。きっとサヴァランほどの人物であれば食べ物だけでその人となりを言い当てることができるのだろう。

ただ当然ながら、口にするものだけでなく、見るもの、買うもの、読むもの、聴くもの、嗅ぐもの…そういったものが知性となり、その人を形作っていくはず。

私はそうやって、私が目や口や耳や鼻から摂取する色々なものを大切にしながら、私自身も知的で素敵な存在でありたいと思う。


今日このように素晴らしい絵を購入したことは、そういった知的で素敵な存在となることへの、小さな一歩だったように、私は感じている。

絵の到着が楽しみだ。


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