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中禅寺湖一周ラン(下) 「いろはにほへとあいうえお」編

(前回はこちら

中禅寺湖一周トレイルランニング、前回は最大の難関である「③ 阿世潟」から「④ 千手ヶ浜」について書いた。

前回同様、地名については下の地図を参考にしながら読んでいただきたい。

中禅寺湖案内

「④ 千手ヶ浜」から「⑤ 菖蒲ヶ浜」

千手ヶ浜に到着した。浜辺には中年カップルが一組がいた。人を見たのがひどく久しぶりのことに思えた。

舗装された車道も久しぶりに見たような気がする。ほんの数時間しか自然の中にいなかったのにこんなふうに思えるということは、私がいかに都会の生活に浸り切っているかがよくわかる。

10年前に中禅寺湖の南側の道を走った時、この千手ヶ浜でバスに乗ったのを覚えている。その記憶のせいで私は、千手ヶ浜まで到着すれば、あとは舗装された車道の脇を走るだけだとばかり思っていた。

確かに車道はある。が、中禅寺湖沿いではない。山を登って戦場ヶ原の方まで行き、竜頭の滝あたりで湖沿いに戻ってくるルートとなる。どのくらいの距離になるのかは正直よくわからない。そして中禅寺湖一周という当初の目的からは幾分離れてしまう。

ふと湖に目をやると、湖沿いの歩道がある。「菖蒲ヶ浜」という場所まで3.8kmと出ている。初っ端からかなりの登りだ。

平地の3.8kmは歩いても1時間程度だが、山道だと当然それではすまない。もし阿世潟から千手ヶ浜よりも険しい道だとしたら…

千手ヶ浜にある地図によると、菖蒲ヶ浜までは1時間半強で行けるとのこと。ということはそこまでハードな道ではなさそうだ。ただ、菖蒲ヶ浜までいった後、ゴールの中禅寺金谷ホテルまでどれくらいの道が待ち受けているのかがよくわからない。

時刻は夕方4時になるところ。心なしか日が傾いてきた。暗くなる前にゴールに着くには、うかうかしていられない。

千手ヶ浜に到着した段階で安心して気が抜けていた。そこに疲労が乗っかっていたこともあり、正直私はひどく落胆した。

が、そんなことは言っていられない。おちおちしていたら道すがら出会った黒い羽の鳥や小鹿のように、この山の中で屍になってしまうかもしれない。ここまできたらもう引き返せないのだ。私は菖蒲ヶ浜へと急いだ。

それまでの道に比べると路面自体は岩や木の根っこもない、比較的走りやすい山道だった。ただ、アップダウンが今まで以上に大きくそして急だった。とにかく登りがしんどかった。

私は、10年前はなかったであろうお腹の辺りの肉をつまみながら、早晩にこれを削ってまたスリムな身体を取り戻すことを心に誓った。そしてこの頃には、私はトレイルランニングの魅力に取り憑かれていた。身体の中が空っぽになるような感覚、ほんの少しだけ死に近づく恐怖、そして美しい自然…さて、次はどこを走ろう。

菖蒲ヶ浜に到着するまでに2組を追い越した。追い越すたびに元気になった。長い道のりを走ってきたが、一番身体が軽く感じられた。

正確な時間はわからないが感覚的には30分ほどで菖蒲ヶ浜に到着。そしてそこからは車道になっていた。よかった、ここから先はもう大丈夫。

「⑤ 菖蒲ヶ浜」から「⑥ 竜頭の滝」

ここからは中禅寺湖沿いの道が一旦途切れる。少し北に登り、その後南へと緩やかに降り、また中禅寺湖沿いに戻ってくるようなルートとなる。

北に登ったところに竜頭の滝がある。奥日光三名瀑のひとつである。せっかくだからと思い立ち寄ることにした。

竜頭の滝に到着したのが16時35分。千手ヶ浜で想像していたほど大変な行程ではなかった。少し肩透かしにあった気分だった。

小学校の修学旅行で竜頭の滝を見た時の感想は「しょぼい」だった。その直前に竜頭の滝よりも何倍も大きな華厳の滝を見たからかもしれない。

あれから25年ほどが経った今、改めて見てみるとその魅力に気付かされた。中心にある大きな岩の両脇を囲うように流れる二筋の水は、それぞれに表情があった。ふたつの異なる水の流れを見ることができるというのはなかなか素敵だった。

自動販売機でコーラを買って、ベンチに腰掛けてゆっくりと飲んだ。途中で感じた疲労感はあまりなく、とても爽やかな気持ちだった。人がたくさんいたこともよかったのかもしれない。

さぁ、ゴールまであと少し。

「⑥ 竜頭の滝」から「① 中禅寺金谷ホテル」

ホテルまでの2キロちょっとは、舗装された車道脇を走った。全体的には緩やかに降っていたのでかなり楽に走れた。

走りながら私は、小学校の修学旅行で日光に来たときに歌った歌を思い出していた。歌詞の中に日光の観光名所が散りばめられていたはずだが、きちんと思い出せなかった。ただ、サビだけはしっかり覚えていた。こうだった。

いろはにほへと
あいうえお
ABCD
思い出の旅

日光の歌?

同じ場所に何度も来ることは少ないのだが、日光は今回で4回目だった。最初は修学旅行、次は10年前の中禅寺湖南路トレイルランニング、3回目は3年ほど前の当時付き合っていた彼女とのドライブだった。それぞれに思い出がある。

いわゆる観光地だが、紅葉の時期を避ければ大混雑にはならず、さらにいろは坂を登って中禅寺湖まで来てしまえばさらに人は少なくなる。四季折々の表情があり、自然も美しい。

今回の中禅寺湖トレイルランニングでまた日光が好きになってしまった。5回目はいつになるだろうか。また中禅寺湖を一周するのだろうか。

そんなことを考えていたら、ゴールのホテルに到着した。夕方5時を少し過ぎた頃だった。

チェックインしてすぐに温泉に入る。疲労が流れ落ちる。夜はフレンチ。1日頑張った身体を労るためにフルコースにする。染み渡る。


この記事を書いているのは月曜日の朝。外は雨だが、充実の週末を過ごせたおかげで、とても清々しい気分だ。


いろはにほへとあいうえお…

独特のリズムが、どこかから聞こえてくる。

(終わり)


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