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童貞勇者と処女僧侶の旅立ち ~ドラ○エ3風味~

ここは駄文置き場です。
その昔書いて公開しなかったもの、公開したけど反応皆無だったものを供養のために載せます。

以下が駄文1号です。2つくらい前のPCで書いて、そのまま眠っていました。

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「勇者さま、お足元にお気をつけください。この先は跳ね橋になります」

城門にさしかかると、傍らの少女が手を引いてくれた。

「あっ、はい」

青色をした、いかにも女僧侶といったローブに身を包んでいる少女。

誰の目にも可愛らしい顔で柔らかく微笑まれ、しかも手を握ってくる。

僕は、慣れない状況に、ぎこちなくついていく。

「おつかれさまです」

城門を守る兵士らしき人たちに挨拶をする少女。

僕もいちおう会釈をする。

ともかく驚くことの連続で、時間の感覚に自信がないが、僕は数時間くらいまえまでぜんぜん違う場所にいた。

☆☆☆☆

日本の東京で、学校の帰り道に本屋に立ち寄って、気になった雑誌を少しばかり立ち読みしていたのだ。

なのに、立ちくらみのようなものを覚え、自分の視界がボヤけたとおもったら――。

次の瞬間には暗い石壁の部屋でに転がっていた。

足元にはボンヤリ光を放つ魔法陣があり、僕はその中央にいた。

戸惑う僕を、その場にいた人たちが連れて行く。

連れて行かれた先は謁見の間とでもいうべき広間で、そこには絵に描いたような『王様』の姿をした人がいた。

その王様に「勇者となって魔王を倒す旅に出ろ」と横暴な命令をされた。

状況がつかめないし何度も抵抗したが、その度に眠らされたり、眠らされるうちに気持ちよくなったりするうちに、了承させられてしまった。

了承した僕の前に、金色の長い髪をゆらしながら、ひとりの少女が歩み出た。

サポート僧侶のラウラと名乗った少女は、僕の案内と旅の仲間をつとめるという。

少女の説明によれば、ここはいわゆる異世界で、魔王の脅威にさらされている。

王城では何人も勇者候補を召喚しては、討伐の旅への出発を求めてきたという。

僕はその勇者候補として選ばれ、召喚されたというわけだ。

納得できたわけではないが、異世界なことはどうにもたしかなようだし、となると、ここからどうすればいいかまるで分からない。

なので僕はラウラさんに手を引かれ、なし崩しに冒険の旅へ出ることとなってしまった。

☆☆☆☆

「ほら、勇者さま、目の前をごらんください」

ここ数時間を思い返していた最中だったが、ラウラさんの声によって意識が引き戻された。

そこには城下町がひろがっていた。

ゲームのRPGに出てくる町のなかにそのまま入り込んだような気分だ。

おもわず、あたりをキョロキョロ見回してしまう。

「こちらが『アリアッハ~ン』の城下町になります」

「あ、ありあっは~ん……?」

その名前はちょっとまずいのではないだろうか。あまりにも有名な元ネタまんまだ。

というよりも、この異世界で、なぜあの国民的RPGの最初の町の名前が?

「あの……えっと……ラウラさん」

「いやですわ、勇者さま。私のことはラウラとお呼びください」

「その……ラウラ。ここは『アリアッハ~ン』って名前なの?」

「はい、現在はそのように呼ばれています」

「『現在は』ってことは、もともとは違うんだ?」

「えぇ。10年くらい前でしょうか。お城に召喚された勇者さま候補の方が持っていた伝説の書物『こうりゃくぼん』に、『アリア○ン』という名が記されていました。なんでも『アリ○ハン』は勇者生誕の地だそうでして、何人召喚してもいっこうに魔王を倒せる人材がやってこないことに業を煮やした王様が『もうできることはなんでもやってやる!』とおっしゃり、あやかることにしたのです」

やっぱりか! でもなんでちょっと変わってしまったのだろうか。

「でも、ラウラ。その攻略本に書かれていた名前は『ア○アハン』だったんだよね? だったらなぜ『アリアッハ~ン』なんて小変更があったの?」

「なんでも、どうせ『できることはなんでもやってやる!』モードに入ってるならいっそ、『ちょっとエッチなひと工夫を加えてやろうじゃないか』と時の大臣のほうから提案がありまして。「国全体にヤケクソ気味な雰囲気が蔓延していたこともあいまって、王様のほうも『チョーウケル! それでいこうぜ!』と採用してしまったのです」

「……大臣も余計な提案をしてくれたものだね」

「ところがですね。この『アリアッハ~ン』への変更により、旅行雑誌の選ぶ『世界が滅ぶまでに旅してみたいちょっとエッチな地名ベスト10」にランク入り! 結果として、観光客数が20%もアップし、街の景気も潤ったのです!」

そんな誇らしげに言われても!

それにしても、魔王によって世界が危機に陥ってるというのに、よくも旅行なんてしてるもんだ。

これもヤケクソのなぜるわざなのだろうか。

「でもまぁ、それなら、今の名前でいいってことなんだ」

僕の言葉に、ラウラは少し遠い目をしてこたえる。

「いえ……やはり生まれ育ち慣れ親しんだ名ではありませんから」

「そうなんだ……」

まともな感性にちょっとホッとする。

「今はまだ魔王を倒していませんからね。『こうりゃくぼん』に記された名にあやかっていますが、きっと、世界が平和になったあかつきには……勇者さまが、私の親しんだ元の名前に戻してくれたらいいな」

ドキリとするような笑顔で、活躍を期待されてしまった。

「……ちなみに、元の町の名はなんていうの?」

「素敵な名前ですよ。その名も『ラダ○ーム』といいます!」

どのみちアウトだった。

ラウラに案内され、町の中を進んでいく。

なんでも勇者は召喚後、最初に装備を整えるらしい。

今の僕が着ている服は学生服に、しま○らで買ったシャツだ。

とてもじゃないが、冒険に出る勇者には見えないだろう。

にしても……。

「お、サポート僧侶じゃないか。ということは、今度の勇者さまはそのあんちゃんかい」

「あら、ラウラちゃん! いい勇者連れてるじゃないか!」

「勇者ー! もっと胸はって歩きなー!」

この町の人たちの声はなんだろうか。さっきからずっとだ。

「どうなさいましたか、勇者さま?」

先導していたラウラが歩みを落とし、僕の顔をのぞきこんでくる。

「いや、なんだかずいぶん目立ってるね……」

学生服という、この世界では異質な出で立ちのせいか、僕が召喚された勇者だということは町の人にはすぐにわかるらしい。

さっきからやたらとはやし立ててくる。

「そりゃあそうですよ。アリアッハ~ンの城下町では、新人勇者さまの品定めが定番の娯楽ですからね」

さすがヤケクソに定評のある人たちだ。

かといって、品定めの対象にされるのはなかなか恥ずかしいものがある。

歩きながらも、自然と身が縮こまってしまう。

「ごめんなさいね、勇者さま。これもみんなの期待のあらわれだと思って、許してくださるとありがたいです」

ラウラが申し訳なさそうに謝ってくる。

おまけに両手で包み込むように僕の手を握ってくる。

「うらやましいぜーこのー!」

「俺もラウラちゃんの柔っこい手で握られてーぜ!」

「もうチューしろー!」

恥ずかしがる僕を慰めるラウラもすぐにはやし立てられてしまう。

ほんとうに遠慮なんかあったもんじゃない。

「ラウラちゃんがサポート僧侶なんてうらやましいぞー! そのぶん平和にしろー!」

「今度こそ魔王を倒して世界を救ってくれー!」

酒場から顔を出した酔っ払いふたり組みから、平和を期待する声がとんでくる。

……こんな太陽の出ている時間から赤ら顔で酔っ払っている人のどこに救いが必要なんだろうか。じゅうぶん平和そうだが……。

「冴えない顔してるわねぇ。こりゃ今回も外れかしら」

「あのなよっとした頼りないカラダ! もうちょっとガタイのいい勇者はいないもんかねぇ」

女性陣から、明らかな悪口も聞こえてくる。

なよっとしてるのは自分でも分かってる。インドア趣味だし、体育も苦手だ。

かといって指摘されると悲しい気持ちになる。まだ冒険の旅に出ていないのに、もうずいぶんなダメージだ。

「勇者というよりは、村人Cといった地味っぷりね」

「なにあの変な服。あれでかっこいいつもりかしら」

変な服はかんべんしてくれ! これは学校指定の制服なんだ!

僕はこの場をさっさと通り過ぎたくなり、自然と早歩きになる。

あやうくラウラを追い越しそうになってしまった。

……にしても。

「おおっと勇者さんよ! ラウラちゃんがサポート僧侶たぁ、あんたも果報者だね!」

僕に対する罵詈雑言に混じって、ラウラといっしょなことをうらやむ声がおおいことに気づく。

なるほど。それはわからなくもない話だ。

そりゃこんな可愛くて甲斐甲斐しい女の子を隣に連れているんだから、男だったらうらやましいと思うのもやむなしだろう。

ここはラウラの生まれ育った地らしいし、ラウラに気のある男の人も多いのかもしれない。

遠慮のない悪口も飛んでくるなか、ちょっと優越感を感じる。

「妙に『うらやましい』って声が多いね」

少しだけ明るい気持ちを取り戻した僕は、その話をしてみた。

「それは……ですね」

ラウラはこころなしか顔をうつむかせ、言いよどむ。

歩みもとまった。

どうしたんだろう。なにか触れてはいけないことに触れてしまったのだろうか。

と思っていたら、顔を上げてキョロキョロとあたりを見回し始めた。

「勇者さま、ちょっとこちらへ」

「え、え?」

いきなり手を引っ張られて、今歩いていた大通りをはずれていく。

連れ込まれたのは細い道。というか、建物と建物の隙間だった。

当然だが人通りはなく、大通りの人声が遠くに聞こえている。

「勇者さま、その……」

「エッチの経験はおありですか?」

ちょっと待ってくれ、いきなりなんてことを聞くんだ。

「無いけど……」

いや、だいじょうぶ。僕のクラスメイトにもまだな男子はそこそこいるし、まだ経験がなくても恥ずかしがる必要はないはずだ、そうだ、そうなんだ。

「そうですか」

ラウラが、顔を伏せたまま、いきなりローブについていたジッパーをおろした。

「えっ、なにやってるの!?」

ふくらはぎあたりまで、白い肌が露出する。

っていうか、なんでジッパーなんてついてるんだ!?

「私たちサポート僧侶は、『性的接待』という役割も持っています。勇者さまたちの欲望を満たしてさしあげる係りです」

「担当する勇者さまが望めば、どんなエッチなことも思いのままさせてあしあげるんです」

な、なんてすごい役割を持っているんだ!

「このローブが脱がせやすいデザインになっているのも、そのためなんですよ」

「だから町の男性たちも『うらやましい』とおっしゃっていたのでしょうね」

そ、そうか。それは誰もがうらやましがるはずだ。

「さぁ、勇者さま。いつでもどこでも今すぐにでも、おっしゃってくだされば私を抱けますよ」

思わぬ形で初体験をするチャンスがやってきた。しかもこんな綺麗な子で!

「そ、そそそ、それは……」

しかし、ここは誰もいないとはいえ、町中だ。さすがにためらってしまう。

正直言って、まだこちらになんの心の準備もできていないし、いきなり過ぎて、ちょっと脳がパニック気味だ。

「…………い、いやいやいやいや! とりあえず今はいいよ!! 装備を整えに行く途中だしさ!! ジッパーを上げて!」

なんとか、この場をおさめる言葉をしぼり出した。

「そうですか。わかりました」

激しく扇情的だったラウラが、元の姿に戻った。

それにしても驚いた。目の前のラウラがこんな艶かしい一面を持ってるなんて。

やっぱり、いきなりこんな大胆でエロいことをしてみせるということは、男の人とそういうことをした経験も多いのだろうか……。

……なぜだろう。一瞬、胸の奥がチクッとした。

路地から大通りに戻ると、当人が姿を消していたというのに、僕の品定め大会は続いていたようだ。

「彼はなんというか、勇者というよりは農園なんかを営んでそうじゃないか?」

「たしかに。熟れたトマトをひとつひとつ丁寧に収穫してそうな顔つきだ」

「そうねぇ、勇者なんかやらせておくのはもったいない。農家の手伝いをやらせるべきだわ」

「新鮮な野菜を頼むぞ、元勇者!」

僕ははやくも勇者を廃業させられていた。

☆☆☆☆

「うわぁ……」

思わず感嘆の声が漏れてしまう。

店内は、RPGで見かけるような装備品であふれていた。

剣、鎧、盾、兜といった定番だけでもたくさんの種類が並んでいて、それぞれが金属の鈍い光を放っている。

普通に生きていたらまずお目にかかれないような重厚な本物の武器防具に圧倒された。

「まずはこのお店で装備を整えるのがしきたりとなっていますわ。そのための予算は、王様からあずかっています」

「ほんとに? 買ってもらえるの?」

「えぇ。勇者さまが元いた世界の格好で旅に出るわけにはいきませんから」

テンションがあがってくる。

仮にも男にうまれて、この武器と防具に興奮しないものはいないだろう。

「じゃあ、ちょっと選ぶね!」

僕は壁にかけられた剣の群れに近づく。

しかし、どうやって選べばいいんだろうか。剣といっても、それぞれ刃の長さや幅が違うようだが……。

剣道の経験は体育の授業だけだし、自分にどんな種類の剣があってるのか、皆目見当もつかない。

まぁ……見た目で惹かれるのを選んでみようかな。

いかにも名匠が鍛えたような、いい感じのかっこいいやつを。

「ちょっとちょっと、勇者のニイチャン。こっち。こっちきな」

『エクスカリバー』といったおもむきの剣に手をのばそうとしたちょうどそのとき、店主から声がかかった。

手招きにしたがって、剣からは一度離れる。

「なんでぇ、ラウラちゃん。勇者のニイチャンになんの説明もしてなかったのかい。サポート僧侶研修のときはちゃんと事前説明できてたのによ」

「えへ。本番は研修とぜんぜん違って、つい」

ラウラはちいさく舌を出した。

「ごめんなさい、勇者さま。買う物はもう決まってるんです」

あ、そうなんだ。もしかして、エクスカリバれないのかな。

「勇者をお城に召喚するようになってン十年。王様から出る予算も一律なんで、旅立ち前の身支度セットをその範囲内で用意させてもらってんのよ」

なるほど。何人も勇者を召喚してるとなれば、そういうセットがあってもおかしくないか。

自分で選ぼうとした矢先だったのでちょっと残念だったが、知識がない僕が選ぶよりは適切な選択になるだろう。

「じゃあ、そのセットでお願いします」

「あいよ、毎度あり」

『どうのつるぎをてにいれた』
『たびびとのふくをてにいれた』

って、ちょっと待てっ!!

「こ、これで本当にあってるんですか?」

「おうよ。予算の範囲で考えられる最強装備ってやつよ」

これがか!? 王様に予算をもらったにしてはショボすぎると思うんだが。

「ねぇ、ラウラ。王様にもらった予算って、いくらなの?」

「はい……それが、その……200Gです」

200G……。

この世界の通貨のことをよく知らない僕でも、かなり少ないことが窺い知れた。

ラウラが恥ずかしそうに言うわけだ。

こんなことでいいのだろうか。仮にも魔王を倒して世界を平和にする使命を帯びているというのに。

「なぁ、勇者のニイチャンよ。ショックを受けてるとこ悪ぃんだけどな。アリアッハ~ンの税金だって色んな使いみちがあるわけよ」

「たしかに勇者さま用の予算も大切なのですが、ひとびとは勇者のみに生きるに非ずなのです。道路工事や公共の建物の補修、衛生管理や市場管理にもお金は必要ですし、モンスターが町に入ってこれないよう市壁は特に修復費がかかります」

なるほど。

まぁ、王様としては魔王がいくら脅威で倒したくても、みんなの日々の生活もないがしろにするわけにはいかないんだろう。

アリアッハ~ンの暮らしをよくするためのお金も必要だというのはわかる話だ。

「まだまだあるぞ。王様の趣味であるゲートボールの用具費、ゲートボールワールドカップの開催費」

「あとふた月もすれば『第57回チキチキ王様の誕生日祝っちゃうぞ大会』ですしね。『王様の誕生日前日祭』『残り1ヶ月を切りましたよパーティー』もそれはそれは盛大ですし」

ちょっと待て! 王様の個人的趣味が全開になってないか!

しかも誕生日当日を祝うだけならまだしも、なんで1ヶ月も前にも祝ってるんだ。

「それに7日にひとりは新しい勇者さまが召喚されますので……個人に割り当てられる額はどうしても小さくなってしまいまして……」

週1で僕のような人間が増えていくのか。

たしかにそのペースで伝説の武器を与えたりはできないだろうけど。

「ま、勇者なら自分で稼ぐこったな。モンスターを倒せば経験値といっしょに金も手に入るしよ」

「はぁ……」

できれば戦いに慣れていない最初だからこそ強い武器が欲しかったのだが。

「んな、暗ぇ顔すんなって。どうのつるぎやたびびとのふくも、いちおうはちゃんとした武具。そうバカにしたもんじゃねぇぜ」

「そ、そうですよ、勇者さま! とりあえずは身につけてみましょう」

「よし、さっそく装備だな」

店主が用意したたびびとの服を受け取る。

「あっ……」

いざ触れてみると、なかなか丈夫な生地でできていて、たしかにこれを着ていれば怪我はしにくい気がした。

まずは学生服を脱ごうと、ボタンに手をかける。

「はわわっ、ごめんなさいっ、勇者さま!」

ラウラが慌てて後ろを向いた。

「おうおう、ラウラちゃん。耳まで真っ赤にしちまって。ウブだねぇ~」

あれ、もしかして僕が着替えようとしているところを見て照れてるのか?

けど、さっきいきなり体を許そうとしたから、男性経験が豊富そうに思えたのだが。

「まさかだけど、男の人の着替えって見たことない?」

「ないですっ! 父の着替え以外は見たことありませんっ!」

「昔っから奥手だもんなぁ、ラウラちゃん」

「い、言わないでくださいよぉ~」

ますます耳の赤みが増すラウラ。

もしかして、経験が豊富だと思ったのは僕の早とちりだったのだろうか。

そうとしか考えられないリアクションだが。

金色の髪のむこうに、さわったら熱そうな耳と頬をながめつつ、着替えた。

さて、装備もいちおう整った。

「ありがとうございます、これ、お金が貯まるまでは大切にします」

礼を言って店を去ろうとする僕を、店主が手だけで招き寄せた。

「ちょっとラウラちゃんは外で待っててくんな。すぐ済むからよ」

「はい」

ラウラだけ一足先に扉の外に出る。

「勇者のニイチャンよ。おめぇ、エッチの経験はあんのか?」

またその話か! それはさっきラウラに聞かれたばかりだ。

「……ないです」

いちおう正直に答える。

「じゃあ、これ。男のエチケットだからよ、持ってきな」

店主の大きな手で、小さな包みを渡された。

なにを受け取ったのかよく見てみる。

「って、コンドームじゃないですか!?」

「お、知ってるか。こいつは異世界からもたらされた避妊具でよ」

「ま、なんつーかな。サポート僧侶とはいえ、ラウラちゃんは生娘だからよ。初めての時は男のおめぇさんがリードしてやって欲しいのよ」

やっぱり経験がないのだろうか。

思い切って聞いてみるか。

「あの……さっきラウラに、その……いきなり体を見せられて。彼女はなんというか……そういう行為の経験が豊富なのかと思ったのですが……」

「うわはははははははっ! そんなまさか。ラウラちゃんくらい奥手な娘も珍しいくらいだぜ」

「まぁ、ちと先走るクセが時々出るからな、あの娘は。初めての勇者引率で内心緊張してたんだろうぜ」

「そうだったんですか……」

なんだかホッとした。と同時に、緊張させてしまったなら申し訳ないとも思う。

「いやな、俺が性的接待に口出しするのもなんなんだがよ。あの娘の心の奥にある不安を見据えて……まぁ、優しくしてやってくれや」

「……分かりました」

僕はコンドームと店主の言葉を受け取って店を後にした。

☆☆☆☆

武器屋をあとにした僕たちは、仲間になってくれる冒険者を選ぶということで、酒場へとやってきた。

「ここはルイージの酒場です。旅人たちが仲間をもとめてあつまる、出会いと別れの酒場ですわ」

ルイージの酒場って!!

アレとは違ってるからセーフなのか? それともアッチと被ってるからアウトなのか!?

いずれにせよ、これも『こうりゃくぼん』からの命名と考えて間違いないだろう。

「さぁ、勇者さま。こちらですわ」

僕らは店の奥に向かって進む。

カウンターがあって、その中に女性の姿が見えた。

大人っぽくて綺麗な女性だ。

「あらいらっしゃい、ラウラちゃん。そっちの男はもしかして?」

「はいっ、私の勇者さまです!」

「あらそう。おめでとう、ついにサポート僧侶デビューね」

女性がラウラの頭をよしよしとなでる。

そして僕のほうに向き直って、言った。

「初めまして、勇者さま。あたしはルイーダ。この酒場の女主人をやっているわ」

やっぱりアウトが出てきたじゃないか!

とはいえ、他人さまの名前につっこむのも失礼な話なので、触れないでおこう。

「えっと、ここで冒険の仲間を選べってことらしいけど」

「そのとおりよ。パーティーの上限は4名。残り2名仲間にできるわね」

上限なんて決まっているのか。大軍で行ったほうがいい気もするが。

でも、僕以外の勇者も召喚されてるっぽいから、独り占めもよくないか。

「とりあえず、最初に聞いておくけれど、勇者さま。あんた、エッチの経験は?」

またかよ! 今日1日で3度目の質問だぞ!

「勇者さまは清いカラダでいらっしゃいます」

しかも勝手に未経験なことをバラされてしまった。さっきからプライバシーもなにもあったもんじゃない。

「なるほど。いかにもオンナ知らなさそうだものね」

余計なお世話だ。

「その話が今なんの関係が!? 仲間選びでしょ!」

「それが、その……」

ラウラが少し言いにくそうに切り出す。

「この酒場に登録されてる冒険者たちも、その……勇者さまのエッチのお相手もつとめることになってまして……」

「ある程度レベルの高い熟練冒険者たちともなると、すっかりトウが立ってきちゃってね……」

「『えーマジ童貞!? 童貞が許されるのは異世界召喚前までだよねー』」

ル「って、遠慮なく言いたい放題言っちゃうのよ」

「ですので、エッチの経験がない勇者さまたちのために、事前に確認をして、レベルは低いけれど、慎みある乙女の中から選んでいただくことになってまして」

そういうことなのか。それはありがたい。

「処女から選ぶのは決まりとして、どの職業の娘にするのかしら?」

どうしよう……。どんな基準で選択すればいいのかよく分からない。

「もし迷われてるのでしたら、こちらを使って決めてはいかがでしょう?」

ラウラに一枚の紙を手渡された。

受け取って見てみると、そこには複数の四角があり、四角の中には設問が書かれ、別の四角にむかって『YES/NO』のふたつの矢印が伸びている。

って、YES/NOチャートじゃないか!

どうもコンドームといい、現実世界の文化や技術が流れ込んでいるようだ。

しかしまぁ、他に決める方法もないし。

「じゃあ、これを使って職業を選択してみるよ」

さっそくやってみる。

えっと、なになに……

『Q・・・子供の頃から親戚のおじさんに「キミって戦士が欲しそうな顔してるね」と言われることが多い』

…………。

そんなことあるわけないだろう。多いもなにも1回もない。現実世界から来た人の9割以上がここで『NO』を選択するだろ。

NOの矢印を進み、次の問いを読む。

『Q・・・その親戚のおじさんが魔法使いだ』

これまた『NO』に決まっている問いだ。召喚されてきた勇者のほとんどが同じ方向に進んじゃうんじゃないのか、これ。

『Q・・・その親戚のおじさんはイイ歳してエッチの経験がなさそうだ』

魔法使いってそっちの意味かよっ! たしかに親戚で唯一の独身だけど、俊夫おじさん!

その後もいくつかの問いに答えて進み、『A』と書かれた四角に辿り着いた。

『タイプAのあなた・・・ずばりあなたは普通タイプ! 普通も普通、なんの面白みもない人生です。そんなあなたは普通の仲間こそお似合いでしょう』

「普通タイプという結果が出たみたいですが……」

「顔を見たときからそんなことだろうと思ってたわ。もう待機させてあるから、連れていってちょうだい」

相変わらず失礼だが、もう何でも言ってくれという気分だ。

普通タイプ向けということで、戦士と魔法使いをあてがわれた。

たしかに勇者、僧侶、戦士、魔法使いという構成は普通だ。

そして、旅立ちの準備が整った僕らは、いよいよ市門へやってきた。

守りを固める兵士の人に事情を説明し、通行が許可された。

「あっ……あの……」

んっ……?

いざ外に出る段になってラウラの様子がおかしい。

あのっ! 勇者さま、ちょっとだけよろしいですか?

どうしたんだろうか。何か言いたげだ。

とりあえず戦士と魔法使いには先に城門を潜ってもらい、僕はラウラに向き直る。

「どうしたの?」

すると、ラウラはガバッとおもいっきり頭をさげた。

「ありがとうございますっ、勇者さまっ」

「いやっ、ちょっと、頭をあげてよ! ……いきなりどうしたの?」

「ひとこと、お礼を言いたかったんです。旅立ちを決意してくれたお礼を」

ラウラはまだ頭をさげたまま語りだした。

「私は子供のころから、サポート僧侶になって魔王を倒しにいくのが夢でした。それを叶えてくれた勇者さまには、感謝の言葉もありません。お礼といってはなんですが……今晩からでもエッチなことしてくださってだいじょうぶですから。その……いくらでも私を自由にしてください……」

武器屋へ向かう途中に言っていた性的接待だ。

あの艶かしい生足が脳裏に甦る。

にわかに心臓の鼓動が速くなってくる。

けれど……。

いくらサポート僧侶の役目のうちとはいえ、ほんとうにそんなことをしてしまっていいのだろうか。

出会ってまだ半日も経っていない僕なんかを初めての相手にしてしまって……。

きっと心のうちでは、恋をして好きになった人と結ばれたいんじゃないだろうか。

「ねぇ、ラウラはほんとうにそれでいいの? 不安じゃないの?」

「え……」

驚いたように顔をあげるラウラ。

その顔には不安が浮かんでいた。

「だって、僕はラウラの恋人でもない会ったばかりの人間だし、その……初めてを僕なんか相手に……」

あぁ……僕は今、ものすごくもったいないことを言っている。

こんな綺麗な子が、そういうことをさせてくれるっていうのに。

「そう、ですね……幼いころからサポート僧侶を目指して修行に励んできた私は、恋という感情がどんなものなのか、未だ知りません。……ですが、私も、正直に申し上げると……その……」

定められた職分に反することだからか、すこし苦しげに言った。

「やっぱり優しくして欲しいです」

やっぱり。

ラウラの心の中に普通の女の子らしい本音があってホッとした。

「もし、恋人同士が互いに優しくしたいと想いあうものなら、私も心の奥では恋を知りたいと願っているのかもしれませんね」

しかしそれでもラウラは本音と反する決意をのべた。

苦しそうな笑顔で。

「でも大丈夫ですよ。サポート僧侶として、心構えはできています。ずっと、性的接待があることも知ってましたから」

たしかに、ずっとサポート僧侶を目指してきたというラウラなら、ずっと以前から性的接待への覚悟もそれなりにしてきたのかもしれない。

だから今夜エッチしても、それも自分の役割だと割り切ろうとするのかもしれない。

しかし思えばここに召喚後、本来ならどこに行けばいいかなんて分からない僕に行動の指針をくれたのがこのラウラだ。

そんな人の本心をないがしろにはできないだろう。

「無理しないでよ」

「無理なんて、してないですよ……」

言葉が少しぎこちなく紡がれ、強がっているように見えた。

武器屋の店主の言葉を思い出す。心の奥でラウラがどう思っているのか。

やっぱり無理をしているんじゃないのだろうか。

「だったら!」

思わず大きい声を出してしまう。

ラウラの肩がビクッとふるえた。

しかし、かまわずに、胸のうちから出てくる言葉の勢いのままに続ける。

「だったら、僕がラウラを惚れさせてみせるよ! これからの旅のなかで。ちゃんと恋を知ってから、エッチをさせてもらう!」

……勢い任せで、とんでもないことを言ってしまった。

僕のキャラにあってないし、ほんとにもったいない。

ラウラはしばらく驚いた表情をしていた。

次第に、目の端に光るものが溢れ始める。

「ありがとうございます。とても優しいことを言ってくださって」

そして光が頬を伝った。

「ほんとうは、不安な気持ちがありました。次に召喚される勇者さまの担当として、サポート僧侶デビューすることが決まった日から、ずっと」

涙といっしょに、ラウラが抱えていたであろう不安がぽろぽろと出てきた。

「覚悟はしていましたが、男性との経験のない私には、どんなことをされてしまうのかと、そのことばかり思い悩んでいました」

ラウラが僕の手を、包み込むようにとる。

「だから、私の担当勇者さまが、勇者さまでよかった」

まだ頬を涙で濡らしながらも、笑顔のラウラがそこにいた。

……ほんと、もったいないことしたなぁ。

「おーい、まだかー」

市門の向こうから声がかかる。

ちょっと待たせ過ぎてしまったかもしれない。

「すみませーん、お待たせしてー!! いま行きますー!」

ラウラが僕の手を取る。

召喚されて、最初に城を出るときにも手を引いてくれた。

僕はこの世界のことを何も知らなかったから。

でも、ここから先は、ラウラにとっても未踏の世界なはずだ。

ならば冒険の中で僕はいつか、ラウラの手を引くこともあるのかもしれない。

そのとき、ふたりはどんな関係でいるのだろうか。

「では、勇者さまっ! 冒険の旅へとまいりましょう!」

僕たちはともに最初の一歩を踏み出した。

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以上です。

うーん、眠ったままでよかったんじゃないですかね、この駄文。

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