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小説連載

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オリジナル曲を元に書かれた小説を掲載。
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【短編小説】天の川 〜連理の竪琴は愛を奏でる〜 第七話 #最終話

【短編小説】天の川 〜連理の竪琴は愛を奏でる〜 第七話 #最終話

一年後、七月七日。ベガミュージアムでは開業二十周年を祝うイベントが開催された。記念日にふさわしく、空はどこまでも晴れ渡っている。七夕当日ということもあり、「連理の竪琴」をこの機会に一目見ようと訪れる客の数はとても多い。今年から副館長に就任した美織は、来賓の対応に追われていた。また、一年前に連理の竪琴を守った功績により昇進した諏訪は竪琴をはじめとする展示品の警備でベガミュージアムに訪れていた。厳重な

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【短編小説】天の川 〜連理の竪琴は愛を奏でる〜  第六話

【短編小説】天の川 〜連理の竪琴は愛を奏でる〜  第六話

「諏訪君、どうしてここに?」
 焦った美織は諏訪に質問する。
「七月八日の夜、といわれれば普通今夜十九時あたりを想像するだろうな。だが、今夜はこの近くの神社で七夕祭りがあるだろう。それにともなって、警察は交通整理や、酔っ払いが起こす面倒事の処理に追われていた。そこで、オレは気づいた。犯行に及ぶなら、明日よりも祭りで警備が手薄になっている今日の方が、成功率する確率は高いだろうと。だからこそ、七月八日

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【短編小説】天の川 〜連理の竪琴は愛を奏でる〜  第五話

【短編小説】天の川 〜連理の竪琴は愛を奏でる〜  第五話

 有都は美織の手を握ったまま美織の目をまっすぐに見つめ続ける。静かな展示室に絡繰時計の音だけが響いていた。美織はしばらくの間、目を逸らしたり何かを言いかけてはやめたりを繰り返していたが、ようやく有都の目を見つめ返して微笑んだ。

「有都が秘密を教えてくれたから。私も秘密をひとつ教えてあげる。私ね、あの日川に流した短冊に、有都と結ばれますようにって書いてたの」

美織は竪琴が展示されているケースを開

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【短編小説】天の川 〜連理の竪琴は愛を奏でる〜  第四話

【短編小説】天の川 〜連理の竪琴は愛を奏でる〜  第四話

激しい雨音と絡繰時計の音が響く二人きりの美術館。絡繰時計が指し示す時刻は午後十一時四十分を回っていた。

「私一人をベガミュージアムに呼び出すために、わざわざあんなことを予告状のビデオレターで言ったんでしょう?」

 アルトはゆっくりと頷いた。

「そうだよ、美織に一目会いたくて、美織にだけ分かるようにああ言ったんだ。願いを川に流した夜って聞いたら、普通の人は、笹流しが行われる七月八日が犯行の日だ

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天の川 〜連理の竪琴は愛を奏でる〜  第三話

天の川 〜連理の竪琴は愛を奏でる〜  第三話

 深夜、有都は自室のコンピューターに険しい顔で向かい合っていた。普通の日本人にとっては明らかにオーバースペックなコンピューターは、複数のモニターに次々とデータを出力していく。数ヵ国語で書かれた世界各国の未解決事件の、警察すら知らない情報と、きらびやかな宝石や王家の宝飾品の写真に有都は次々と目を通す。
 目を通し終わった頃、一般には流通していない通信ソフトを介して、“Boss”と言う人物から有都に英

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天の川 〜連理の竪琴は愛を奏でる〜  第二話

天の川 〜連理の竪琴は愛を奏でる〜  第二話

作:天野つばめ 監修:松山優太

 しばしの沈黙の後、美織は先日の会議の際には言わなかった自身の推理を有都に告げた。

「諏訪君は、有都が竪琴を盗みに来るのは笹流しがあの川で行われる日だって言ってたけど、もしそうなら
『織姫が川に願いを流した日』じゃなくて
『願いを流す日』になるはずでしょう?」
「その通りだよ。諏訪君には、言わなかったんだね」

「言わないよ。だって、私にだけ分かるように、予告状

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天の川 〜連理の竪琴は愛を奏でる〜 第一話

天の川 〜連理の竪琴は愛を奏でる〜 第一話

 金曜日の夜の喧噪も普段ならばすっかり静まり返っているはずの午前二時。平和な夜を壊すように何台ものパトカーのサイレンが輪唱する。

「いたぞ、あそこだ!」

 一人の長身の刑事が十三階建てのビルの屋上を指差した。屋上には一人の男が佇む影。指示を聞いた刑事たちは次々にビルの非常階段を駆け上がる。

 刑事たちが数分かけて階段を昇っている間、怪盗は大胆にも逃げずに屋上に留まり続けた。屋上のドアを開ける

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