第一話 嗚呼・・鍵が無い。

広島から国道2号線をひたすら西へ。なんとか下関まで下道でやって来たが、いよいよ限界を感じて、高速道路へとアクセスする。

気が付けばもう夕方だ。

休憩がてら、めかりPAに車を停め、夕食代わりに豚骨ラーメンをすする。


(博多ラーメンってこんな味だったっけ・・?なんか旨いんですけど?)

元々、俺は細麺があまり得意ではない。だから福岡ではあまり博多ラーメンを食べない。

食べるのは、べらぼうに酔っぱらった時ぐらいだろうか?そして翌日はほぼ確実に腹を壊す。ケツからスープがそのまま出てくる。

だのに、今日はめっぽう旨い。・・これはなんだ?思い出補正か?


博多ラーメンに舌鼓を打ったあと、喫煙所でタバコを一本咥えて火を付ける。

関門海峡から吹き上げる、冷たい潮風がブルゾンをバタバタと揺らした。


「さあ出発だ・・やっと旅が終わる・・やっとだ。」

呪文のように唱えながら、ハンドルを強く握る。

(待て待て!焦るな・・アクセルはゆっくり踏むんだ。)


九州自動車から、都市高速へ、都市高速を降りて、百年橋通りへ。

しかし、俺には福岡の景色を懐かしんでいる余裕はなかった。


途中のコンビニでビールと、おつまみを買う。自宅のある美野島までもう少し。

家に帰ったら、すぐに祝杯を上げよう。そして、泥のように眠ろう。

(待て待て!焦るな・・まずは部屋の換気からだ。)


ようやく自宅の駐車場に辿りつく。

長い間、日本全国を一緒に走り周ってきた愛車が、ピーピーと泣いている。

ギアをパーキングに入れると、スグに泣き止んだ。・・良い子だ。

着替えの入ったバッグを肩にかけ、全国各地のお土産が入った袋を持ち上げる。俺の両手は完全に塞がった。

ノートパソコンと、金沢で買った甘エビの干物が、後部座席で仲良く横たわっている。

俺は深いため息を吐くと車のドアを閉める。

(・・明日迎えにいくからね。)


エントランスの前に立ち、再び呪文のように唱えた。


「やっと・・やっと旅が終わる・・やっとだ。」

興奮で体が熱くなる・・毛根の死んだ額から、大量の汗が噴き出してくる。


「やっとだ・・やっと。すぐそこなんだ。頼む!頼む!」

興奮?・・違う!

これは焦りだ!焦燥感ってヤツだ!

ブツブツと呪文を唱えながら、俺は羽織っているブルゾンのポッケ、穿いているズボンのポッケ、地面に転がっているカバンのポッケ。

ポッケというポッケを、ガサゴソと乱暴に漁りまくっている。



(嗚呼・・鍵が無い。)



その事実に気が付いたのは、旅から出て20日目。

皮肉な事に旅の最終日だった。

ーーーつづくーーー

※まいど!YUTAROです。気分転換にお試しで、続きを書いてみました。ウッカリ鍵無くした話を書いてませんでした。

まだnoteの使い方に慣れてませんが、これからは元のスタイルで短かい日記を連載形式にしたいと思います。いや~楽だわ。

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