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フリーランスを差別する鹿児島県知事の記者会見

 有村眞由美さんというフリーランスがいます。彼女は鹿児島市出身で、ときどき、鹿児島県や九州の話題を記事にしています。

 彼女の大きな実績に、鹿児島県知事の記者会見にフリーランスの参加を認めさせたことがあります。伊藤祐一郎知事(当時。以下同)や青潮会(県政記者クラブ)と粘り強く交渉した結果です。

 しかし、伊藤知事と青潮会は「フリーランスの参加は認めるが、質問は認めない」という理不尽かつ差別的な取り扱いを行います。そして、その取り扱いは、元テレビ朝日記者で後任の三反園訓(みたぞの・さとし)知事の時代になっても変わっていません。

 伊藤知事や青潮会との交渉について、有村さんは、私が編集長を務めていたニュースサイト『インシデンツ』で、逐一、記事を書いていました。今、読み返してみても、記者会見と記者クラブに関する普遍的な問題点が浮かび上がってきます。

 以下、有村さんの許可を得て再公開しますので、じっくり読んでみてください。なお、タイトル画像は、有村さんが撮影した伊藤知事です。

鹿児島県知事の定例記者会見にフリーランスは出席できるのか

2011年 11月 25日

 11月21日、私は鹿児島県知事公室広報課を訪れ、伊藤祐一郎知事の定例記者会見へ出席するための手続きを行おうとした。東京都などの知事の会見では、フリーランスも出席し、質問しているので、簡単なことかと思ったが、鹿児島では違った。

 広報課職員は「知事の会見に出席できるのは、記者クラブに加盟している新聞社やテレビ局、14社の記者だけ。加盟社以外の記者が出席することもあるが、質問権はない」と言う。

 そういう規則が鹿児島県で定められているのかと問うと、「会見は記者クラブの主催。そちらのルールで、こちらが決めることではない」と答えた。

 結局、広報課職員が記者クラブ幹事社との間を取り持ち、私は文書で会見出席を申し込むことにした。

 24日、『インシデンツ』に掲載された署名記事を添付して、「鹿児島県知事定例記者会見出席願」を記者クラブへ提出した。これを広報課職員に報告すると、意外な反応が返ってきた。

「記者クラブが出席を認めても、県が出席を認めるかどうかは別問題」

 私は立腹して、「先日は、『記者クラブが出席を認めればかまわない』とおっしゃっていたはずですが」と詰問した。広報課職員は「前例を調べる」などと言いつつ、いかにも私を会見に出席させたくない雰囲気だった。

 後刻、記者クラブ幹事社のKTS鹿児島テレビと朝日新聞の記者に電話した。どちらの記者も、私の会見出席を記者クラブで協議することは約束してくれたが、出席不可とした加盟社名を明らかにしてほしいという要請には消極的だった。

 今どき、公人の記者会見にフリーランスが出席できないなど、時代遅れもはなはだしい。鹿児島では前例がないのかもしれないが、なんとしても知事の会見に出席し、質問したい。それが可能になるまで、随時、経過を報告する。

朝日新聞記者のフリーランスを見下した態度に激怒

2011年 11月 29日

《鹿児島県知事の定例記者会見にフリーランスは出席できるのか》の記事で書いたとおり、私は、「鹿児島県知事定例記者会見出席願」を県政記者室青潮会(記者クラブ)に提出した。

 これについて、その後、記者クラブでどのように協議されたのか。11月の幹事社はKTS鹿児島テレビ放送と朝日新聞社。25日に前者の若松正大記者、28日に後者の安斎耕一記者、それぞれに電話で尋ねた。

 若松記者は、こう答えた。

「記者クラブには、フリーランスの会見参加の可否を決める基準がない。多数決によるか、全会一致によるかについても規定はない。質問権なしで参加する非加盟社もあるが、質問権がない点についての規定もない。したがって、(有村の参加の可否は)話し合いで決める。現在、検討中」

 安斎記者に電話したときも、「検討中。まだ全加盟社の意見が集約されていない」と言われた。私が「次回の定例記者会見に出席したいので、早急に決めてもらいたい」と要請すると、安斎記者は「みなさん、仕事があるので、いつ協議ができるかわからない」と答えた。安斎記者からすると、フリーランスが記者会見に出席したり、そのために記者クラブと交渉したりすることは、仕事ではないらしい。

「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」によれば、「記者会見参加者をクラブの構成員に一律に限定するのは適当ではない」「報道に携わる者すべてに開かれたものであるべき」としている。

 そこで、安斎記者にきいた。

「記者会見は、オープンが原則なのですよね?」

 安斎記者は「ああ、そうですか?」と答え、私が再び、「そうではないのですか?」ときくと、その後は無言だった。

 余談だが、安斎記者はなかなか名前を教えてくれなかった。5回尋ねて、ようやくフルネームを答えた。こういうところにも、フリーランスを見下す態度があらわれている。

記者クラブは国民の「知る権利」を擁護? それとも侵害?

2011年 12月 04日

 11月24日に私が「鹿児島県知事定例記者会見出席願」を提出したことを受けて、12月1日に県政記者室青潮会(記者クラブ)は総会を開いた。12時30分すぎ、幹事社のKTS鹿児島テレビ放送の若松正大記者から電話があり、「記者クラブも、記者会見のオープン化の流れは理解している。しかし、有村さんを出席させるか否かの結論は出なかった」と告げられた。

 そのうえで、若松記者は「幹事社(KTSと朝日新聞社)の局長と会って、話してみないか」と持ちかけてきた。私は応諾し、後刻、再び若松記者から電話があって、18時に記者クラブで話し合いが行われることとなった。

 約束の時間どおりに記者クラブを訪れると、KTSの山口修平・報道局長と若松記者、朝日新聞社の小島達也・鹿児島総局長と安斎耕一記者が待っていた。《朝日新聞記者のフリーランスを見下した態度に激怒》の記事を読んだ山口局長から、「現場の記者を守るため、記事に名前を掲載する場合は、自分だけにしてほしい。また、名前を出すには、相手の了解も必要だ」と言われた。

 しかし、このような公益性の高い話し合いに参加している人間の名前を秘匿する必要を、私は認めることができない。若松記者も「自分は名前を出されてもかまわない」と話していたが、山口局長が「キミがよくても、私がダメだ」と制した。

 山口局長は「鹿児島県では、フリーランスが記者会見の出席を求めてきたのは、今回が初めて。記者クラブには、出席を許可する規定も禁止する規定もない。誰でもいいというわけにはいかないので、出席の基準を考える時間がほしい」と説明した。

 私が「自分のようなネットメディアで記事を書いているフリーランスが出席できなければ、そこから情報を得ている国民の『知る権利』が侵害される」と主張すると、山口局長は「インターネットに接続できないお年寄りもたくさんいる」と反論した。

 1時間30分にも及ぶ話し合いでも、やはり結論は出なかった。

 山口局長は「鹿児島県が記者会見を主催し、フリーランスも出席できるとなれば、記者クラブは従うしかない。しかし、現在は、記者クラブが記者会見を主催している。これにより、記者会見が公正に継続して行われ、国民の『知る権利』が守られている」とも説明した。

 鹿児島県知事という公人の記者会見を、記者クラブなる任意団体が主催しているのは、はたして妥当なのか。ましてやフリーランスやネットメディアを排除し、その背後にいる読者や視聴者を無視している。

 私は、記者クラブが結論を出すのを待ちつつ、鹿児島県庁の見解も改めて取材することにした。

鹿児島県庁記者クラブ、フリーランスの記者会見出席に関する規約を追加へ

2011年 12月 14日

《記者クラブは国民の「知る権利」を擁護? それとも侵害?》の記事でお伝えしたとおり、私は12月1日に鹿児島県政記者室青潮会(記者クラブ)から、「フリーランスが県知事の記者会見の出席を求めてきたのは、今回が初めて。出席の基準を考える時間がほしい」と言われた。この問題は、同日、青潮会が総会を開き、議論していた。

 それから10日余りが経過した12月13日、どのようなことが決まったのか、青潮会に問い合わせた。幹事社のKTS鹿児島テレビ放送、朝日新聞社の記者はともに不在だったが、折り返し、後者の小島達也・鹿児島総局長から電話があった。

「12月14日に青潮会は総会を開き、2回目の議論を行う。フリーランスの記者会見出席に関して、記者クラブの規約をつくることからはじまる」

 規約については、11月30日、私は青潮会と鹿児島県に対し、開示するよう求めている。しかし、いまだに開示されていない。

 小島総局長の言葉を素直に受け取れば、私のようなフリーランスも記者会見に出席できるよう規約に追加するということだろう。12月1日の総会後に電話してきたKTSの若松正大記者も、「記者クラブも、記者会見のオープン化の流れは理解している」と話していた。

 報道機関である記者クラブが、今さら同業者であるフリーランスを記者会見から排除する規約をでっち上げるとは考えづらい。あとは、記者会見に出席することは認めるが、質問することは認めないなどという不当な条件がつかないよう監視するだけだ。なにしろ私が前例となってしまうのだから。

地方の記者会見におけるフリーランス参加基準はどうあるべきか

2011年 12月 22日

《鹿児島県庁記者クラブ、フリーランスの記者会見出席に関する規約を追加へ》の記事で、鹿児島県政記者室青潮会(記者クラブ。以下、青潮会)は、12月14日にフリーランスの鹿児島県知事記者会見出席に関して2回目の総会を開く予定とお伝えした。総会翌日の12月15日、幹事社のKTS鹿児島テレビ放送の山口修平・報道局長に、その結果を聞いた。

 山口局長は、「フリーランス参加基準の原案を各加盟社が持ち帰って検討し、年内に3回目の総会を開く」としたうえで、こうつけ加えた。

「フリーランスの記者会見出席に関する問題は、青潮会にとどまる話ではない。鹿児島県内の記者クラブ全体に関連する話なので、3回目の総会で結論が出るかはわからない」

 今回、各加盟社が持ち帰った原案は、各中央省庁のフリーランス参加基準を参考にしつつ、青潮会が独自に作成したという。現在、各中央省庁のフリーランス参加基準は、大手メディアと組んで仕事をした実績が求められるなど、あいかわらず記者クラブ優先と批判されている。

 県政の記者会見は、大手メディアが関心を示さない、一部住民がかかわる事柄も扱うし、それを拾い上げる中小メディアやフリーランスも存在する。この点を踏まえて、青潮会がどのようなフリーランス参加基準を決定するのか。しばらく注目していきたい。

1月4日の伊藤祐一郎鹿児島県知事の記者会見にフリーランスは出席禁止

2011年 12月 31日

 御用納めの12月28日の午後3時すぎ、携帯電話の着信音が鳴った。「もしもし」と出ると、鹿児島県政記者室青潮会(記者クラブ。以下、青潮会)の幹事社・KTS鹿児島テレビ放送の山口修平・報道局長からだった。

 「1月4日の伊藤祐一郎・鹿児島県知事の記者会見には、記者クラブに所属していない方の出席は認めません」

《地方の記者会見におけるフリーランス参加基準はどうあるべきか》の記事でお伝えしたとおり、青潮会は、フリーランスの県知事会見出席を協議するため、年内に総会を開くとしていた。

 しかし、山口局長によれば、総会は開かれなかった。かわりに、幹事社が各加盟社にヒアリングをし、鹿児島県とも協議したという。

 後刻、鹿児島県広報課の上拾石斉宏(かみじっこく・なりひろ)報道企画係長に話を聞いた。

「青潮会との間で、フリーランスの県知事会見出席について協議をしていますが、結論は出ていません。1月4日の県知事会見は、県としても、フリーランスの出席を禁止するという見解です」

 今日は大晦日。私は、大きな声で問いたい。Are You All Right? 大丈夫ですか、青潮会、鹿児島県。

 そして、鹿児島に在住する者として、問わざるをえない。Are We OK? これでいいのか、鹿児島県民。

 もっとも、お正月準備もままならず、このような記事を書く私こそ、あなたは大丈夫?(Are You All Right?)と聞かれそうですが……。

 来年は、こんなことを、問いも問われもせずにすむ世の中になりますように。

 最後に、この場をお借りして、読者の皆さま、ありがとうございました。よいお年を!

記者会見からのフリーランス排除について、伊藤祐一郎鹿児島県知事を直撃

2012年 1月 05日

 1月4日午前8時40分ごろ、鹿児島県庁エントランスで、2012年初登庁の伊藤祐一郎知事に、私は声をかけた。

「本日の知事記者会見でフリーランスが排除されていることについて、コメントをお願いします」

 伊藤知事は足早にエレベータへ向かいながら、「特にコメントはありません。青潮会(記者クラブ)のほうで、今、さばいていただいています」と答えた。

 そのまま並走するように知事を追い、「コメントはないということは、本日、フリーランスの記者会見参加が禁止されていることについて、知事として構わないというご見解ですか」と質問した。

 伊藤知事はやや裏返った声で、「それもノーコメントです」と答えた。

 さらに私は「コメントをいただけないということは、税金を納めている県民に対しても説明しないということになりますが」と追及した。

 伊藤知事は「税金の話とは別です」とふっと笑みを浮かべてエレベーターに乗り込んだ。

 伊藤知事の記者会見の開始時刻は午前10時。私はフリーランスも記者会見に出席させるよう青潮会へ申し入れに行った。青潮会は県庁3階に広い部屋を与えられている。今月の幹事社、南日本放送の城光寺剛・報道局報道部専任部長が応対した。

 城光寺部長は「今日までに、記者会見に出席可能なフリーランスの基準が定まらず、申しわけありません」と謝った。そのうえで、「記者会見は、青潮会が主催していますが、県の意向も聞く必要があります。こちらの基準を貫こうとすると、県が記者会見に応じないおそれがあるからです。現在、青潮会でまとめた基準を県へ示し、回答を待っています」と説明した。

 伊藤知事の記者会見が始まる10分前、私は県庁5階の記者会見室へ向かった。すると、廊下で広報課職員2名と警備員3名が待ち構えており、田代哲郎・広報課長と山之内俊文・広報課課長補佐もやって来た。なお、田代課長と山之内課長補佐は最後までフルネームを名乗らなかったが、後刻、私が自分で調べた。

「昨年末に青潮会が『もう少し待ってほしい』と連絡したでしょう。今日は参加できません」と田代課長は言った。

 私は廊下にいるぶんには構わないだろうと思ったが、山之内課長補佐は「困ります。もう知事が来ますので。ほかの記者はみなさん、そういうことはされません」とあたふたしはじめた。田代課長も「この場を離れてください。またヤバくなるので」とたたみかけた。

 私は「何が『ヤバくなる』のですか」と尋ねたが、田代課長は「ここで仕事をしようとしています。みんなの仕事です。離れて」と命じた。

 6~7名の広報課職員と警備員に包囲されながら、私が移動を余儀なくされているとき、余裕の表情の伊藤知事が現れた。私がとっさに、「知事、青潮会がOKといえば、フリーランスの記者会見参加は構わないということですか」と質問を浴びせると、伊藤知事は何かを答えたようだった。しかし、私の真横で、山之内課長補佐が「だから、今、検討中です!」と怒鳴ったため、聞き取れなかった。

 今回、伊藤知事の記者会見に出席することはできなかったが、知事の生の声を聞くことはできた。次回、記者会見室で伊藤知事と質疑応答できることを期待している。

鹿児島県、フリーランスを記者会見から排除する根拠がないことを認める

2012年 1月 22日

 フリーランスを記者会見に出席させないことを根拠づける文書はあるのか。2011年11月30日、私は鹿児島県庁に公文書開示請求を行った。

 あわせて、県庁舎内にある県政記者室が、どのように利用されているのかについて開示請求した。青潮会(記者クラブ)が、報道機関としての独立性を保つことができるような利用方法になっているのかを知るためだ。

 この開示請求に対する県の回答が、1月20日、県政情報センター(県庁内)で示された。開示請求の内容と、それに対する回答は以下のとおり。

1.県政記者室がある3階のフロアマップと、その部屋の広さ

――フロアマップは開示。広さは、271.38平方メートル。

2.県政記者室内の座席、ソファー等の配置図

――座席の配置図は開示。ソファーの配置図は非開示。理由は公文書不存在。

3.青潮会加盟社の賃料(合計)がわかる文書

――非開示。理由は公文書不存在。口頭で「賃料を徴収していないから」と説明あり。

4.青潮会加盟社の電気代(合計)、電話代(同)がわかる文書

――電気代は非開示。理由は「県政記者室(青潮会)は、県の広報活動の一環として、報道機関を通じ、県の施策や行事等を県民に迅速かつ広域的に周知を図ることを目的に設置されており、行政財産の目的内使用に当たることから、電気代は徴収していない。そのため、青潮会利用フロア部分の電気代の分かるものは不存在である」(「公文書不開示決定通知書」より)。電話代も非開示。理由は「県政記者室(青潮会)の電話は、県の非常勤職員が使用する内線電話(外線使用可)と各社持ち込みの外線電話及び内線電話(外線使用不可)が設置されている。外線電話部分は各社がそれぞれ負担しているため、青潮会利用フロア部分の電話代の分かるものは不存在である」(同)。

5.青潮会加盟社が共同で利用するコピー機の料金がわかる文書

――開示。白黒1枚2.1円、カラー1枚6.111円。

6.青潮会の規約

――非開示。理由は「職員の個人的な参考資料であり、組織において業務上必要なものとして保有しているものではないため、条例の対象となる公文書には該当しません」(「公文書不開示決定通知書」より)。

7.これまで記者会見に青潮会加盟社以外で出席した者の名前や所属がわかる文書

――非開示。理由は公文書不存在。口頭で「これまでに1社、(質問権がない)オブザーバー参加が認められたことがある」と説明あり。

8.青潮会加盟社以外の者の出席を認めた経緯がわかる文書

――非開示。理由は公文書不存在。

9.フリーランスが記者会見に出席し、質問することを禁止する根拠となる文書

――非開示。理由は公文書不存在。

 上記9の回答について、上拾石斉宏(かみじっこく・なりひろ)・広報課報道企画係長に質問すると、「公文書としては存在しないということです。ただいま(フリーランスの記者会見出席について)協議中ですので」と答えた。少なくとも、現在、県と青潮会が明確な根拠もなく、フリーランスを記者会見から排除していることは間違いない。

 無料で、しかも独占して広い県政記者室を利用する青潮会。そこに加盟するマスコミ企業だけが参加できる記者会見。こんなことで報道の中立性や独立性が保たれているといえるのだろうか。

検討3カ月、いまだにフリーランスは鹿児島県知事会見に参加できず

2012年 3月 05日

 私が伊藤祐一郎・鹿児島県知事の記者会見に参加させるよう求めてから、3カ月以上が過ぎた。しかし、青潮会(記者クラブ)と県は、あいかわらず青潮会所属の記者のみを参加させて、伊藤知事の記者会見を行っている。県広報課など、私が伊藤知事に取材しようと、記者会見場以外の場所で待機していても、実力で排除する始末だ(後述)。

 3月2日、広報課の上拾石斉宏(かみじっこく・なりひろ)報道企画係長に聞いた。

――フリーランスの記者会見参加について、現状、どうなっているのか。

「検討が続いている」

――青潮会がフリーランスの参加基準の「たたき台」を作り、県に渡したと聞いているが。

「それとは別に、県も検討している」

――検討の方法は?

「会議ではなく、担当者間で話し合っている」

――フリーランスの記者会見参加で、最大のハードルは何か。

「そこは話せない」

――青潮会と話し合う予定は?

「今のところはない」

――いつまでに参加基準を決めるのか。

「青潮会も県も、早く決めなければいけないという思いは持っている」

――今年度中(3月末まで)に、なんとかしようという考えはあるのか。

「それも1つの考え方」

――青潮会と県で別々の参加基準を作るのか。

「そうではないが、それぞれで検討している」

――こちらは、何が検討されているのかも、いつまで待てばいいのかもわからない。不透明すぎる。

「検討過程では話せない」

――伊藤知事から何か指示や指針の提示はあったのか。

「最終的には知事から何らかの意思や判断が示されるだろうが、途中経過の段階では話せない」

――知事から指示が出ているのか、出ていないのかだけでも知りたい。

「言えない」

――口止めされているのか。

「知事の指示で(参加基準が)決まらないとか、逆に、知事のあずかり知らないところで検討が進められているとか、どちらの記事を書かれても困る」

 実は、1カ月前の2月3日、こういう出来事があった。

 私が伊藤知事の記者会見を取材するため、県庁を訪れると、上拾石係長が1階エントランスで待ち伏せしていた。伊藤知事が登庁し、エレベーターへ向かったので、私が質問しようと近づくと、上拾石係長と警備員がさえぎり、取材することができなかった。

 上拾石係長は「今日の記者会見の参加は認められないと青潮会が連絡したはず」と言った。それから約2時間、記者会見が終了するまで、上拾石係長は私の近くで監視を続けた。

 青潮会も県も、「検討中」をくり返すだけで、あまりにも不誠実だ。このような組織を相手にする場合、もう1歩踏み込んだ方策を考えるほかないのであろうか。

なぜ、フリーランスにだけ取材制限

2012年 3月 09日

 3月8日、鹿児島県政記者室・青潮会(記者クラブ)の幹事社、南日本放送の城光寺剛・報道局報道部専任部長から電話があった。青潮会は鹿児島県知事の記者会見を主催しており、私は昨年11月からそこに参加させるよう要求している。

「青潮会は、キャリアを考慮するフリーランスの参加基準を作り、県に提示しています。一方、県はフリーランスを参加させた場合、(質問権を認めないなど)取材に制限をつけようとしています。青潮会は、参加を認める以上、制限はつけるべきではないという考えです。現在、伊藤祐一郎知事と直接話し合う機会を求めており、それを経て、今月末までに結論を出したいと思います」

 記者会見という公の場でフリーランスだけが取材を制限される合理的な理由はまったくない。青潮会が不当な取材制限に加担することがないよう願いたい。

記者クラブが使用許可も得ず、賃料も支払わず、記者室を専有する理由

2012年 3月 19日

 鹿児島県政記者室・青潮会(記者クラブ)は、鹿児島県庁舎3階の271.38平方メートルを専有しているが、賃料や光熱水費は支払っていない。

 本来、青潮会が支払うべき賃料はいくらになるのか。県庁舎に間借りしている企業や団体が支払っている賃料を調査し、比較してみることにした。

 情報公開条例で開示させた文書によれば、県庁舎1階の銀行の賃料は1平方メートルあたり月額641.5円。これで計算すると、青潮会が支払うべき賃料は月額17万4090円、年額208万9080円になる。

 今回開示されたのは、各々の企業や団体に交付された「行政財産の使用許可書」。ここには、使用行政財産の明細や使用目的、許可期間、使用料、光熱水費の按分支払いなど、許可条件が記載されている。

「使用許可書」には、使用料が「無料」と記載されたものがある。例えば、自治労鹿児島県関係職員労働組合は230.06平方メートルを無料で使用している。

 ところで、青潮会に対する「使用許可書」は見あたらない。その理由を鹿児島県管財課に取材した。回答者は二川洋蔵係長と本山裕二専門員。広報課の上拾石斉宏(かみじっこく・なりひろ)報道企画係長と水溜義仁主査も同席した。

――青潮会には「使用許可書」が出されていないようですが。

「青潮会は『行政財産の目的内使用』にあたり、使用許可は不要ですし、使用料も光熱水費も支払う必要はありません」

――「行政財産の目的内使用」とは、どういうことですか。

「県の事業の一環であれば、目的内使用です」

――それは行政の行為ということになりますか。

(机に指で「≒」と書きながら)「ほぼ同じという感じです」

――青潮会のほかに使用許可を得ずに県庁舎を使用する例はありますか。

「通年では、内閣府テレビ会議システムの機器の設置スペースに0.75平方メートルが使用されています。期間限定では、納税お知らせセンターが2~3カ月、会議室1部屋を使用する場合があります」

 上拾石係長は、こうつけ加えた。

「記者室(青潮会)は、県の広報の一環として使わせています」

 青潮会の幹事社、南日本放送の城光寺剛・報道局報道部専任部長にも取材した。聞きたかったのは、県の使用許可を得ず、賃料も支払わず、記者室を使用している理由と、それに関する県の説明に対するコメントだ。

 城光寺専任部長は、「(今週)青潮会の総会を開くので、話し合いのうえ、回答します」と対応した。

 かねてより青潮会は、「県から独立した立場の報道機関が県知事の記者会見を主催することに意義がある」と説明している。しかし、県から「広報の一環」とみなされている団体に、「独立した立場」などあるものだろうか。

鹿児島県、記者会見からフリーランス排除を規約化か

2012年 4月 02日

 鹿児島県政記者クラブ・青潮会は、新たに「青潮会主催の記者会見に関する規約」(以下、規約。全文後掲)を作成し、3月30日、私に通知した。従前、青潮会非加盟の記者が記者会見に参加することは認められておらず、昨年11月以降、私は、伊藤祐一郎知事の記者会見に参加させるよう青潮会に申し入れていた。その回答が規約としてまとめられたといえる。

 規約は、「青潮会非加盟の記者であっても、次の1~8に該当し、青潮会幹事社を通して事前申請を行い、参加が認められた者は、オブザーバーとして参加できる」とする。しかし、これが厳密に運用された場合、鹿児島在住のフリーランスは1人も記者会見に参加できないと思われる。

 なぜなら、上記「1~8」の参加基準によると、「社団法人日本新聞協会会員社」「社団法人日本民間放送連盟会員社」「社団法人日本雑誌協会会員社」などの大手メディア、中央メディアの社員か、そこで定期的に仕事をしている者でなければ、排除されるからだ。

 どうして、このような基準が定められたのかは容易に想像がつく。というのも、「1~6」は、伊藤知事の出身官庁、総務省の記者クラブが定めた基準とまったく同じだからだ。「7」も、その基準に「記者としての実績を有する者」というひとことをつけ加えたにすぎない。「8」は、「鹿児島県内の記者クラブ加盟社に所属する記者」だから、フリーランスはらちがいだ。

 しかも、これだけハードルが高い基準をクリアし、記者会見に参加しても、質問不可の「オブザーバー」扱い。ちなみに、総務省の記者会見では、参加が認められたフリーランスは質問も可能だ。

 次回の伊藤知事の記者会見は4月6日が予定されているという。私は、その記者会見に参加を申し込み、どのように扱われるのかを試してみようと思う。続報をお待ちいただきたい。

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青潮会主催の記者会見に関する規約

 青潮会が主催する記者会見について、青潮会非加盟の記者であっても、次の1~8に該当し、青潮会幹事社を通して事前申請を行い、参加が認められた者は、オブザーバーとして参加できる。ただしこの取り扱いは、2012年3月から1年間、トライアル(試用期間)で実施し、期間中および期間終了後に見直しを行う。本施行および内容については、トライアル終了後にクラブ総会を開き、決定する。質問権を持った会見参加については、県と協議を続け、合意が得られた段階で見直す。

1、 社団法人日本新聞協会会員社に所属する記者
2、 社団法人日本民間放送連盟会員社に所属する記者
3、 社団法人日本雑誌協会会員社に所属する記者
4、 社団法人日本専門新聞協会会員社に所属する記者
5、 日本インターネット報道協会法人会員社に所属する記者
6、 社団法人日本外国特派員協会会員社に所属する記者および外国記者登録証を保持する者
7、 上記に該当しない記者で、上記の中に掲げる企業・団体が発行する媒体に記事等を定期的に提供し、記者としての実績を有する者
8、 鹿児島県内の記者クラブ加盟社に所属する記者

(留意事項)
・事前申請は、会見ごとに行う必要がある。
・事前申請は、会見日の1週間前までに青潮会幹事社あてに行う。
・申請があった場合、基準に該当するかどうか、青潮会が判断する。
・会見の進行については幹事社に一任し、秩序を乱す行為や進行を妨げる行為により退席などを求められた者は、指示に従わなければならない。
・緊急を含め、記者会見の日程について青潮会として連絡する義務を負わない。
・スペースや時間の関係で参加の希望に沿えない場合もありえる。
・7の「定期的」は、申請時から過去半年以内に2回程度の署名記事を目安とする。

記者クラブが記者室の無料専有に関する見解を明らかにできない理由

2012年 4月 03日

《記者クラブが使用許可も得ず、賃料も支払わず、記者室を専有する理由》の記事でお伝えしたとおり、鹿児島県政記者クラブ・青潮会は、この理由に関する回答を保留してきた。

 3月29日、青潮会幹事社の読売新聞の記者から以下の回答があった。

「青潮会の統一見解としてのコメントは、できません。理由は、青潮会は任意団体であり、記者室利用に関する考え方は、各社それぞれが持っていて、意見集約にそぐわないためです」

 これで納税者である県民や国民は納得するだろうか。

フリーランスの記者会見参加について、記者クラブととことん話した

2012年 4月 05日

 鹿児島県政記者クラブ・青潮会が、「青潮会主催の記者会見に関する規約」(以下、規約)を新たに作成し、3月30日、私に通知したのを受け、4月4日、伊藤祐一郎知事の記者会見に出席するための事前申請を行った。

 青潮会に提出した書類は、「鹿児島県知事定例記者会見事前申請書」(以下、申請書。全文後掲)、「鹿児島県政記者クラブ(青潮会)鹿児島県知事定例記者会見遵守事項」(以下、誓約書。全文後掲)、身分証明書(運転免許証)と署名記事、2011年報酬の支払い調書(税務署提出書類)のコピーだ。

 誓約書や収入がわかる支払い調書など、中央省庁や他県の記者会見に参加するさいには、提出を求められないものもある。どうして、このような書類まで提出しなければならないのか疑問だ。

 事前申請を行うにあたり、疑問点を青潮会にただした。対応したのは、南日本放送の城光寺剛・報道局報道部専任部長、読売新聞西部本社の西田忠裕記者、西日本新聞社の湯之前八洲(ゆのまえ・やしま)記者、日本放送協会(NHK)の木下隆児記者の4人。

 なお、冒頭、城光寺部長から「ベストな規約だとは思っていないが、まずは、始めることが大切だと考えた」という発言があった。以下、私と城光寺部長らとの一問一答。

――青潮会の記者会見参加基準は中央省庁の基準を参考にしたという話だった。より緩やかに参加を認める省庁もあるなか、あえて、大手メディアで定期的に執筆するなどの条件をクリアしなければならない総務省の基準をベースに作ったのはなぜか。

「他の中央省庁の基準も見比べ検討したが、総務省の基準がいちばんしっかりとできている。緩い規制のものから厳しくすることはできないという意味でも、総務省の基準が最も参考になるものだった」

――青潮会の基準では、事実上、青潮会非加盟の記者は、規約に基づく正式な判断で出席を拒まれることになる印象を受ける。また、その基準をクリアしても質問権がない。青潮会のいう「オープン化」は、どのような形で現れているといえるのか。

「これまで、『黒潮会』など、離島や県内各地にある記者クラブ加盟社も県知事の記者会見には出られなかった。これらの人々も参加できるように配慮した。その意味で、鹿児島の独自の基準となっている」

――組織に所属する記者には参加させる一方、フリーランスは排除する基準に見えるが。

「(フリーランスは)何か問題が生じた場合に、誰が責任をとることができるのか。責任の所在という視点からの規定であって、誰かを排除しようという趣旨での規定ではない」

――責任とは、具体的には何を想定しているのか。

「参加者が事実だと思って報じたことが、事実とは異なる場合、たとえば名誉毀損のような訴訟になる。そのような場合に新聞社であれば、会社が責任をとる。責任を誰がとるのかという意味だ」

――フリーランスは、個人で責任をとることになる。青潮会が相手方になることはない。それでいいのではないか。

「フリーの方でも、責任をとれる方はいる。それはそれでいい。そうでない方もありえる。名刺の住所に何もない、ということだってありえるからだ」

――身分証明書のコピーを提出するのだから、十分ではないか。

「記者としての身分というものを考えた。他に責任を取ることができる主体があるのかということだ。また、会見場で暴れたりした場合、なぜ参加を許したのかと、主催者の責任が問われる。その延長上には、(県から)『青潮会の主催では開けない』と言われる可能性がある。そうなれば、定期的な会見が開かれなくなり、県民にとってはマイナスだ」

――先ほど、「基準は、緩いものから厳しくすることはできない」という話があった。青潮会としても、今回の基準は厳しいと考えていて、より参加を広げる方向で検討するということか。

「基本的には、その考え方でいく。今回はオープン化への第1歩。基準は改善していく。今の基準はあくまでも目安であって、ケースバイケースで判断したい。必ずしも半年以内に2回以上の署名記事を要求するものではない。規約を運用するのは青潮会で、県の介入はない」

――今回の基準からさらに厳しくしたり、青潮会非加盟の記者の参加自体をやめることはありえるのか。

「初回で大きなトラブルが起きるなどなければ、そういうことはない」

――定例記者会見ではなく、緊急記者会見の取り扱いはどうなるのか。

「緊急記者会見の主催は県。青潮会から参加について口を出すことはない」

――青潮会非加盟の記者は基準をクリアしても、質問を認められないオブザーバー参加であるのはなぜか。

「県との協議の結果だ。今後のいちばんの課題。引き続き県と協議する」

――以前、青潮会は全会一致で、オブザーバー参加ではなく、質問を認めるべきという立場だと聞いた。

「それが青潮会の見解だ」

――伊藤祐一郎知事に青潮会が直接口頭で説明する機会を求めたと聞いているが。

「結局、その機会は得られなかったが、書面で回答を得た」

――伊藤知事が青潮会非加盟の記者には質問を認めない方針だったということか。

「合意に至らなかったとしか言いようがない。協議事項なので、お互いに信頼でやっているから、それ以上はなかなか言えない。信頼関係が失われてしまうと、協議もできなくなる。青潮会の出す基準で押し通そうとすると、会見自体が中止になるおそれもある」

――伊藤知事が会見をやめてしまうおそれがあるのか。

「こちらの主張どおりの基準にしてもいいのではないか。県側が難色を示すならば、青潮会から会見をボイコットすればいいという議論もあった。(取材の)権利の話だけをすればそうなる。しかし、お互いの信頼関係がないとできない。慣れ合いではない。信頼関係だ。最悪の事態を避けるためのルールだ」

――知事の記者に対する信頼とは何か。

「わからないが……。自分の言ったことが、都合のいいように伝わるということではない。(青潮会加盟社の)記事を見ればわかるのではないか」
 
――提出書類として、中央大手メディアとの契約書や報酬の支払い調書を求めているのはなぜか。

「責任の所在という観点からだ。報酬をもらうというのも責任の1つ。業として記事を書くということをどうとらえるか、という話し合いもあった。報酬がなくても記者だろうという議論もあったが、この点は各々の持つジャーナリズムについての考え方の違いで、意見集約はできなかった」

――誓約書には、「会見の秩序を乱す行為があった場合は退場」という記載がある。具体的には、どういうことを想定しているのか。

「ルールを守らない行為だ。たとえば、手を挙げて質問して、発言をやめないことなど」

――青潮会非加盟の記者が質問をしたら、たとえ青潮会加盟社の記者と同じ静かな口調であっても、秩序を乱す行為になるのか。

「ルール違反という意味で、秩序を乱す行為となる。オブザーバーとして参加を認めているのだから、そのルールは守らなければ、秩序を乱す行為ということだ」

――手を挙げるだけでもか。

「それだけでも、『質問しないでください』と言わざるをえず、進行を妨げる行為で、ルール違反だ」

 新たな規約に基づく伊藤知事の定例記者会見は、4月6日に開かれる予定だ。私の事前申請に対する判断は、4月5日中に行われるという。

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鹿児島県知事定例記者会見事前申請書

(鹿児島県政記者クラブ「青潮会」幹事社が記入)

記者会見の日時<予定>     年    月   日    時

(以下、参加希望者が記入)

◆ 参加希望者指名

◆ 所属会社・機関と部署(フリーの方はその旨をお書きください)

◆ 連絡先  ・携帯電話  ・職場連絡先  ・メールアドレス

◆ 発表の媒体

《注意》
1、 別紙「遵守事項」を必ずお読みください。
2、 各会員社に所属する記者で、初めて申請書を出される方については、社員証または記者証の写しを添付してください。
3、 各会員社に所属する記者以外で、初めて申請書を出される方については、身分を証明できるもの、記者としての実績が証明できるもの(各会員社の報酬等の支払い証、各会員社が発行した契約書等)、ご自身が取材された記事等が掲載された紙面等の各写しを添付してください。
4、 会見を主催する記者クラブの幹事社が精査するため、会見日の1週間前までに幹事社あてにご提出ください。
5、 確認のため、名刺も添付してください。

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鹿児島県政記者クラブ(青潮会)鹿児島県知事定例記者会見遵守事項

(青潮会幹事社が記入)

記者会見の日時(予定)   年  月  日   時

以下の遵守事項を守っていただくようご協力をお願いします。

1、 記者会見への参加は公益を図る報道目的の方に限ります。個人的な目的での出席はご遠慮ください。
2、 記者会見は代表質問後、個別質問に移ります。会見時間には限りがありますので、会見中は円滑な進行に協力し、司会を行う幹事社の指示に従ってください。
3、 規約を守らず、会見の秩序を乱す行為や進行を妨げる行為を行い、幹事社が会見に支障があると判断した場合は退場をお願いする場合がありますので、指示に従ってください。

 上記の遵守事項を守っていただけなかった場合、記者クラブ主催の記者会見への出席は以後、ご遠慮いただきます。

 私(記者会見への参加希望者)は参加の条件として、上記の遵守事項を守ることを約束します。

署名欄

記者クラブが私の記者会見参加を拒否したあまりにもアホらしい理由

2012年 4月 09日

 あなたの源泉徴収票には、印鑑、社判が押されているだろうか。ぶしつけに冒頭からこんなことを聞くのには、理由がある。

 伊藤祐一郎鹿児島県知事の4月6日開催記者会見への参加申請書を提出していた私に対する、5日夕刻に示された鹿児島県政記者クラブ・青潮会からの回答が、次のようなものだったからだ。

「提出書類のうち、源泉徴収票に印鑑がないので、書類不備。そのため、参加資格を審査できず、明日の会見には参加を認められない」

 ややさかのぼるが、順を追って説明したい。

 4月4日、私は県庁舎内の青潮会に、「鹿児島県知事定例記者会見事前申請書」を提出しに行った。

 今月からの幹事社である日本放送協会(NHK)鹿児島放送局・木下隆児記者と西日本新聞社・湯之前八洲(ゆのまえ・やしま)記者、3月までの幹事社である読売新聞西部本社・西田忠裕記者と南日本放送の城光寺剛報道局報道部専任部長、あわせて4人の立ち会いのもと、申請書類は1つ1つ確認され、すべて受領された。青潮会から、書類不備についての指摘はなかった。

 同晩、私の申請書類一式は記者室に置かれ、青潮会加盟各社が随時閲覧したという。

 翌5日午後1時すぎ、湯之前記者から電話があった。

「提出された署名記事のコピーですが、これは本当に『ライブドアニュース』なのかという質問が昨夜ありました」

 真正に『インシデンツ』から『ライブドアニュース』に転載された記事である旨、伝えた。この時点では、源泉徴収票を含む、他の書類に関する話は一切なかった。

 夕方5時すぎ、湯之前記者から、この日2度目の電話があった。

「16時から青潮会では総会を開き、1時間以上議論していますが、提出されている書類が公的なものではないということが問題になっています。源泉徴収票は、通常は発行元の印鑑が押してあるはずだということで」

「えっ。ちょっと待ってください。そんな理由ですか。びっくりしちゃっているのですが。以前に勤めていた会社からもらった源泉徴収票にも、印鑑はありませんでした」

「仮に偽造だとしても判別できないのです。インシデンツで発行したものと考えてよいのか、青潮会で判断できないという話になっています。インシデンツの社員証や契約書をお持ちですか」

「社員ではないので、社員証などありません。印をついた契約書もありません。信頼できないのであれば、インシデンツの代表に確認をとればよい話ではないですか。それに署名記事ではなぜ足りないのですか。記事を書いていることはわかりますよね」

「代わりになる書類はないですか」

「今、出先ですし、印をついた契約書も社員証もありません。変な話だと思いませんか」

「どのへんがですか」

「出せと言われた書類を出して受領されたのに、今ごろになって書類不備だから審査しないというのは、まさかのフェイントです」

「こちらとしてもフェイントです。インシデンツとの契約がわかればよかったのです。端的に言えば印鑑ですが、提出された源泉徴収票が公的なものだと担保するものがないので、審査できないということです」

 ここで、青潮会が「鹿児島県知事定例記者会見事前申請書」に提出書類として記載されている事項を確認したい。

「各会員社に所属する記者以外で、初めて申請書を出される方については、身分を証明できるもの、記者としての実績が証明できるもの(各会員社の報酬等の支払い証、各会員社が発行した契約書等)、ご自身が取材された記事等が掲載された紙面等の各写しを添付してください」

「押印があるもの」などという限定はどこにもない。口頭による、その旨の説明もなかった。求められた書類は提出しているのだ。そもそも、「記者としての実績が証明できるもの」として、源泉徴収票や契約書というプライベートな書類の提出を求めていること自体が理解しがたい。他県や中央省庁の記者会見でも、そのような書類を提出させているという話は聞いたことがない。

「源泉徴収票は、偽造ではありません。それは、公的な機関である税務署で、問題なく受け取られるものです。要求された書類を提出しているので、書類不備はないはずです。審査だけでもできませんか」

「税務署ではそうなのかもしれないが、青潮会としては、源泉徴収票と認めることはできません。書類不備なのです。ルールを決めた以上は、ルールに合致するものでなければなりません」

「そのルールどおりのものを出しているのですが、審査しないということですか」

「正式な書類かもしれないが、提出された源泉徴収票では判断できないということです」

 結局、青潮会は、書類不備を理由に、6日の伊藤知事の記者会見に私が参加することを認めなかった。

 記者会見終了後、県庁舎エレベーターホールで居合わせた城光寺専任部長に、念のために聞いた。

「源泉徴収票に印がないから書類不備だということに、私は納得していません。私が提出した源泉徴収票自体は、税務署で正式に受け取られるものだという認識は、青潮会のみなさま、お持ちなのですよね」

 城光寺専任部長は、「はい」とだけ言うと、無言のままエレベーターに乗り込んでいった。

「記者会見のオープン化は必要だという考えで準備をしている」という青潮会を信じて4カ月待ち続けた。しつこいようだが、まさか、まさか、源泉徴収票に印章がないから偽造かもしれないなどという理由で、審査もされぬまま参加を禁止されることになろうとは、夢にも思わなかった。

 最初から「組織に属さないフリーランスを参加させるつもりなどない」と宣言されたほうがマシだ。

伊藤祐一郎鹿児島県知事も、フリーランスが記者会見から排除されて安堵

2012年 4月 10日

 4月6日、伊藤祐一郎鹿児島県知事の定例記者会見が、県庁舎内会見室で行われた。

 前日、鹿児島県政記者クラブ・青潮会は、「書類不備」という理由で私の記者会見参加を拒否することを通知してきた。青潮会のいう「書類不備」とは、記者としての実績を証明するために提出を求められていた源泉徴収票に印章がないことだった。

 記者会見当日の朝、私が県庁へ出向くと、エントランスホールに鹿児島県広報課の上拾石斉宏(かみじっこく・なりひろ)係長が待ち構えていた。

「おはようございます。知事はもうお見えですか」

「私は知りませんよ」

「知事をお待ちなのでは」

「あなたを待っていたのです。前回(の記者会見で)も、これぐらいの時間に来たでしょう。今日は会見には出られないと青潮会から言われていませんか」

「通知のファックスはいただいています。でも、理由をご存じですか。書類を出しているのに、源泉徴収票に印鑑がないから、『書類不備』というのです。それはおかしいのではないですか、と申し上げているから、今日来ているのです」

「私、ほかにやりたい仕事あるんですよ。2階のロビーに行って、知事の会見はテレビ閲覧しましょう」

「どうぞ、ご遠慮なく。お仕事にお戻りいただいてかまいませんので」

「私は、あなたをご案内する係ですので。親切でしょう」

 そうこうするうちに、伊藤知事がエントランスホールに姿を現した。

 私が「がれきの広域処理について……」と質問しようとすると、警備員らが身体を押しつけるようにして制止した。エレベーターに乗り込もうとする伊藤知事に、もう1度声をかけた。

「知事、今日も私は会見に出られません」

「青潮会に預けてあります」

「(フリーランスの)オブザーバー(質問を認めない)参加は知事の意思と聞いていますが、本当ですか」

「ノーコメントです」

 会見室の前の廊下で待機していると、青潮会の幹事社である西日本新聞社の湯之前八洲(ゆのまえ・やしま)記者がやって来た。

「県は、(フリーランスの記者会見)参加の部分では、まったく関与していません。参加については青潮会で取り仕切っているので、その件で県に問い合わせることはしないでください」

 私は、なぜ湯之前記者が、こんなクギを刺すようなことを言うのか、不思議に思った。

 1つわかったことがある。それは、伊藤知事や広報課が、私を「書類不備」で記者会見から排除した青潮会の決定を歓迎していることだ。

記者会見参加に所得税の申告書類を要求する記者クラブ

2012年 4月 13日

 4月11日、鹿児島県政記者クラブ・青潮会の幹事社、西日本新聞社の湯之前八洲(ゆのまえ・やしま)記者から、次回の伊藤祐一郎知事の記者会見が20日に予定されているとの連絡があった。

 私は、すでに青潮会に対し、「鹿児島県知事定例記者会見事前申請書」を提出しているが、記者としての収入を証明する源泉徴収票に印章がない(通常、源泉徴収票に印章はない)という不当な理由で、記者会見に参加することを拒否されている。

 湯之前記者の連絡の趣旨は、当該源泉徴収票を添付し、税務署に所得税を申告した書類(税務署の印章がある控え)を追加提出すれば、改めて私の記者会見参加を検討するというものだった。

 しかし、私は、源泉徴収票に印章がないなどという不当な理由で、記者会見参加を拒否されていることに納得がいかないので、従前の提出書類で改めて検討するよう求めた。

 源泉徴収票の提出でさえ、プライバシーの侵害の度合いが高く、私はやむをえず応じているのに、そのうえ、所得税の申告書類の提出まで求められるとは、青潮会の意図をいぶかしく思わないほうが不思議だ。私が記者として活動していることは、いくつも署名記事を提出しているのだから、明らかなのである。

 一方、昨年11月に青潮会に記者会見参加を申し込んでから、様々な交渉を経て、ようやく、ここまでこぎ着けたという思いもある。そこで、私は湯之前記者に対し、彼ともう1社の幹事社、日本放送協会(NHK)鹿児島放送局の木下隆児記者に、所得税の申告書類を見せることで妥協できないかと提案した。

 湯之前記者は「そのような方法でかまわないか、青潮会加盟社で話し合う」と答えた。

 なお、源泉徴収票の真偽を疑うのであれば、発行元のインシデンツに問い合わせればいいと思うが、湯之前記者は「提出書類が真正なものだと立証する責任は申請者にあり、青潮会は、そこまでする必要がない」と話していた。

鹿児島県政記者クラブ、フリーランスの記者会見参加を認めるも、なお火種

2012年 4月 19日

 4月18日の夕刻、鹿児島県政記者クラブ・青潮会の幹事社、西日本新聞社の湯之前八洲(ゆのまえ・やしま)記者から電話があった。20日に予定されている伊藤祐一郎知事の記者会見に、青潮会は、私のオブザーバー(質問を認めない)参加を容認するというのだ。

 ただし、湯之前記者は、いくつか言葉をつけ加えた。

 まず、私のオブザーバー参加に関して、反対する加盟社も複数あったと明かした。

「(有村の記事が掲載されている)『インシデンツ』が、『青潮会主催の記者会見に関する規約』で指定する協会(日本新聞協会や日本インターネット報道協会など)に加盟していないから」というのが、その理由だ。

 そして、「協会加盟社でなければ、誤報や名誉毀損の問題が発生したとき、責任が持てないという話が出て、再度、規約を検討することになった。規約が変更された場合、(有村のオブザーバー参加を)改めて審査する」という。

 しかし、裏を返せば、現在の規約である限り、私のオブザーバー参加は認められるということだ。

 さらに、湯之前記者は「オブザーバーの座席は、青潮会が指定する。もし質問しようとして手を挙げたら、退場を求める」と釘を刺した。

「オブザーバー」という扱いに納得するわけではないが、とりあえず20日の記者会見には参加しようと思う。

記者会見初参加で見た伊藤祐一郎鹿児島県知事の狡猾さ

2012年 4月 23日

 私は、4月20日の伊藤祐一郎・鹿児島県知事の定例記者会見にフリーランスとしてオブザーバー参加した。私が会見室に到着したのは、記者会見開始の約25分前だった。しかし、ドアの前で上拾石斉宏(かみじっこく・なりひろ)広報課係長に、「青潮会(記者クラブ)の幹事社の記者が来るまで入室を待ってください」と言われ、結局、入室は開始直前になった。

 伊藤知事は、「私が脱原発の方針を明確に固めたのは早い。30歳過ぎのころから、人類は完全に原子力エネルギーをコントロールしきれていないかもしれないという不安が、ずっとあった。福島第1原子力発電所の事故で、自然界に本来的に存在しないような放射性物質が大量に発生した。(自然に反する行為への)リベンジを受けているのかもしれないという気持ちもある」と述べた。

 一方で、「九州電力川内原子力発電所(薩摩川内市)の1、2号機の再稼働は必要だ」という考えも示した。「電力の3分の1を原子力発電に頼る現実がある以上、原発なしでは、日本は見るも無残な経済状況になる。新エネルギーへの移行は短くても30年はかかる」ことが理由だ。

 再稼働について、これまで伊藤知事は「国による原発の安全性の保証が何よりも必要」としてきた。政府は4月6日に「原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準」を定めた。地震や津波が襲ってきても、全電源が停止して重要な安全設備が働かなくならないことや、炉心や使用済み核燃料が損傷しないことに加えて、新たに、事業者が安全対策の実施計画を作成することを求めている。

 この政府の新判断基準が、「国による原発の安全性の保証」になるのかが問われた。伊藤知事は「スタートのところでの判断基準としてはクリアしている」と答えた。

 私は、「スタートのところでの判断基準」の意味がよくわからなかった。再起動すれば、次に運転停止するまでは動き続けるものだ。再起動時に限った判断基準というのは考えにくい。

 私が質問を禁止されていなければ、その場で確認することもできたが、オブザーバー参加とされており、「挙手すれば退場させる」とまで青潮会の幹事社の記者から釘を刺されていた。しかたがないので、この点については、記者会見終了後、広報課に質問した。藤本徳昭課長は「回答できるかどうかも含めて、後日、連絡する」と対応した。

 関西電力大飯原子力発電所(おおい町)がある福井県では、県独自の原子力安全専門委員会を設置している。「鹿児島県でも同様の機関を設置する考えはないか」と問われると、伊藤知事は「ない」と明言した。

 大飯原発の再稼働については、地元自治体の同意に加え、周辺自治体の「理解」が必要という条件も浮上している。記者が「川内原発再稼働の場合、『理解』を得るべき周辺自治体があると考えるか」と質問すると、伊藤知事は「『理解』という言葉を、どう理解するかによる。今の段階で決める必要はない」と明言を避けた。

 さらに、「前回の記者会見で、知事が『再稼働に関する同意は、県と薩摩川内市だけで十分』と発言したことに、周辺自治体から疑問の声があがっている」という質問があった。伊藤知事は「(記者が周辺自治体の首長に)ああいう質問(あなた方の同意が必要か否か)をしたら、首長からは、そういう返答(自分たちの同意も必要)しか来ない。以上」と不機嫌そうに答えた。

 しかし、さすがに言葉が足らないと思ったのか、「周辺自治体が事業者と協定を結ぶことは、再稼働の条件としての同意とはまったく別のレベルの話」とつけ足した。

 岩手県と宮城県からの災害廃棄物の受け入れについて、19日に環境省が鹿児島県内の市長に説明会を行った。市長らからは慎重な声が多く聞かれた。伊藤知事は「県は、国からの要請と、市町村の意見を調整する立場にある。災害廃棄物の分量、処理スキームなど不明な点も多いため、県の職員を岩手と宮城に派遣し、どの地域にどういうがれきがあるのか調査を行い、議論の基礎データを集めている」と述べた。

 鹿児島県環境林務部廃棄物・リサイクル対策課によれば、「岩手県には17日から19日まで2名を、宮城県には17日から20日まで2名、17日から19日まではプラス1名を派遣した」という。調査内容について尋ねると、「まだ帰ってきていないので、わからない」と答えた。

 そこで、環境省に電話で問い合わせた。

 まず、岩手県内支援チームの井島辰也氏に、「鹿児島県職員が、震災がれきの状況調査に行っているそうなのですが、調査内容について知りたい」と切り出すと、「調査、ですか」と、やや疑問を呈するような言葉が返ってきたあと、「18日に陸前高田、大船渡、釜石のがれき置き場を視察し、ゼネコン業者から説明を受けた」と話してくれた。

 しかし、がれきの放射能汚染については、「私が拝見した限り、鹿児島県職員の線量計の持参はなく、現場でも説明を受けていなかった」という。

 宮城県内支援チームの加賀谷秀樹氏は、「17日に名取市で焼却炉とがれき置き場を、18日に多賀城市と塩釜市でがれき置き場などを視察した。空間線量を毎日計測している旨の説明はあったが、廃棄物中の放射能やアスベストに関する説明は特になかった」と答えた。

記者会見で質問が許されないフリーランスの苦労

2012年 4月 28日

 私は、4月20日の伊藤祐一郎・鹿児島県知事の定例記者会見に、フリーランスとして初めて参加した。しかし、質問が許されない「オブザーバー」という立場だったので、伊藤知事が曖昧な発言をしても、その真意を確認することができなかった。

 そこで、私は記者会見が終了してから、伊藤知事の発言の真意を確認するべく、広報課に文書で質問した。3日後、広報課から電話があり、「担当課(原子力安全対策課)に直接、聞いてほしい」ということだった。私が質問していたのは、以下のこと。

「4月6日に政府が作成した『原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準』に関して、伊藤知事は『スタートのところでの判断基準としては、(従前、同知事が求めていた『政府の安全性の保証』という条件を)クリアしている』と発言したが、『スタートのところで』と限定した真意は、どういうことか。原発が再起動すれば、次に運転停止するまで動き続けるので、再起動時に限った判断基準というものは考えにくい」

 これに対する、藤崎学・原子力安全対策課長の回答は以下のとおり。

「安全対策の第1歩という意味の『スタート』です。恒久的安全対策が国で検討されていますが、すぐにやれるものばかりではなく、中長期的にやらなければならないものもあります。恒久的安全対策としては不十分な部分があり、課題が残っていることから、『スタートのところで』という表現になりました。恒久的安全対策がなされていなくても、福島第1原子力発電所の事故と同じようなことは起こらないという認識です」

 なお、私は広報課に対し、「記者会見で、伊藤知事の発言の真意がわからなければ、その場で本人に確認するのがスジ。フリーランスにも質問を許してほしい」と求めたが、「それは青潮会(記者クラブ)が決めていること。青潮会に申し入れてほしい」(藤本徳昭課長)ということだった。

伊藤祐一郎鹿児島県知事は3期目も記者クラブとの癒着を示唆

2012年 6月 24日

 6月21日、任期満了にともなう鹿児島県知事選挙が告示され、現職で3選を目指す伊藤祐一郎氏と、新人で出版社社長の向原祥隆(むこはら・よしたか)氏が、鹿児島市内で第一声をあげた。

 雨が降り続く中、向原氏は港大通り公園で、以下のように訴えた。

「この雨は、私たちにとって祝福の雨です。生きとし生けるもの、雨がなくては生きられない。鹿児島では、今、早苗が雨の恩恵を受けて育つときです。原発は一瞬にして、自然も何もかも打ち砕きます。事故があれば、家を捨て、墓を捨て、すべてを捨てて、鹿児島を、故郷を、去らなければならなくなります。事故がなくても、放射能は出続けています。定期検査で川内原発が去年の9月から2基、止まっています。すると、温排水が排出されなくなり、原発の海に魚が帰ってきました。原発稼働中と比べて、なんと6倍の漁獲高です。原発が止まれば、豊かな自然がよみがえり、自然エネルギーを活用した新たな産業も生まれます。川内の方々には、真っ先に、その恩恵を受けてほしい。今回の知事選は、原発を止める県民の意思表示ができる、初めての選挙です。国は原子力政策を変えることができません。大飯原発も止められないようです。だとしたら、鹿児島県から止めて、原子力政策を変えていこうではないですか。新しい歴史を、その第1歩を、私たちが、私たちの手で切り開いていこうではありませんか」

 応援には、向原氏の政策提言100人委員会のメンバーであり、釣り仲間でもあるという「松本サリン事件」被害者の河野義行さんや、川内原発1・2号機差し止め訴訟原告団長の森永明子さんらが駆けつけた。

 一方、伊藤氏が鹿児島県農協会館の正面玄関ロビーで演説を行うというので、私は開始時刻20分ほど前に到着し、待機していた。すると、館内アナウンスが3回、くり返された。

「正面玄関ロビーに伊藤祐一郎候補が見えます。職員は至急、お集まりください」

 またたく間にロビーは人で埋め尽くされた。ほどなくしてタスキがけの伊藤氏が登場した。

「今日はたくさんお集まりいただき、心より感謝申し上げます。産業としての農業を、どう築いていくか。生産性の向上、農地集約などをはかり、鹿児島の農業の競争力を徐々に高めていくことになります。『安心・安全・新食料供給基地 鹿児島』の立場がいろいろな意味で高まってくると思います。今回の選挙では、投票率40パーセントを超えるぐらいまで上げていただきたいと考えていますので、なんといっても、いちばんの集団であるみなさまにお願いするしだいです。みなさまの仕事が順調にいくことを祈念して、ご挨拶にかえさせていただきます」

 演説終了後、ロビーで記者会見が行われた。この演説にさきがけて中央公園で行われた出陣式で原発問題に触れなかった理由を問われると、伊藤氏は「出陣式で、すべての政策について話すわけではありません」と答えたうえで、安全性の確認を前提とした再稼働の必要性を強調した。伊藤氏は「脱原発には30年かかる」とかねてより主張している。

 薩摩川内市に現在、建設中の公共関与型産業廃棄物最終処分場に関しての質問には、「裁判所に工事差し止め請求がなされていますので、司法の場でお互い丁寧に主張していくことになります」とした。

 向原氏はマニフェストで、「地域住民の疑問が解決されないまま、工事が強行されている」として白紙撤回を掲げる。記者が「向原氏の『白紙撤回』姿勢を、どう考えるか」と質問すると、伊藤氏は「関心がありません」と答え、すぐに「なぜなら、白紙撤回はありえないからです」とつけ加えた。

 伊藤氏のマニフェストの最初には、「情報を積極的に公開・提供し、説明責任を果たしながら、公平で透明かつオープンな県政運営」が掲げられている。これに言及したうえで、私は伊藤氏に質問した(以下、一問一答)。

――もし再選された場合、知事の記者会見で、記者クラブ以外の参加者が質問できない現状を改めるつもりはあるか。

伊藤氏 答える立場にない。

――なぜか。

伊藤氏 知事になるかならないかわからないから。

――答えは持っているのか。

伊藤氏 持っている。

――今はノーコメントということか。

伊藤氏 時間軸があるから(伊藤氏は記者会見で「時間軸」という言葉を好んで使う)。

――情報公開に沿った形で進めてもらえるのか。

伊藤氏 これ以上、情報公開で何をやるのかという問題もある。

――「何をやるのか」に、(記者クラブ以外の記者会見参加者の)質問の可否は含まれるのか。

伊藤氏 だから、それは3期目になってから。今、答えるのはおかしい。

 鹿児島県知事選挙の投開票は7月8日。日本中の全原発が停止してから初の県知事選で、両候補ともマニフェストの基本政策に原発に対する姿勢を示しているだけに、川内原発1・2号機の再稼働やエネルギー政策が大きな争点の1つとなるのは必至だ。

鹿児島県知事の記者会見で、いまだにフリーランスは質問できず

2012年 10月 03日

 伊藤祐一郎鹿児島県知事は、7月に行われた鹿児島県知事選挙の際、マニフェストの冒頭に「情報を積極的に公開」「公平で透明かつオープン、公正・誠実な県政」と掲げていた。

 しかし、伊藤知事が再選されて2カ月以上経過する現在も、定例記者会見では、記者クラブ「青潮会」会員でなければ質問が許されない状況が続いている。

 知事選挙期間中、私が「『青潮会』会員しか質問できない現状を改めるつもりがあるか」と質問すると、伊藤候補(当時)は「知事に再選されてから答える」としていた。

 9月7日に開かれた伊藤知事の記者会見でも、私は質問を許されなかったが、終了後、廊下を歩く同知事に駆け寄り、話を聞いた(以下、敬称略)。

――「青潮会」以外の記者会見参加者は、質問が禁じられています。現状を改めるお考えは?

伊藤 なかなか難しいでしょうね。

――マニフェストに掲げた「公平、公正、誠実でオープンな県政」との整合性は?

伊藤 それと「青潮会」以外の方に記者会見でお答えするかは、次元の違う話です。「アソシエーション」ですから。

――知事としての、公人としての記者会見ですよね?

伊藤 公人です、それは。

――公人としての記者会見を、伊藤知事は「青潮会」に任せている。けれども、任された「青潮会」が、自分たち以外の参加者に対し、公平とは言えない取り扱いをしている。この現状に対する知事としての見解は?

伊藤 私は「青潮会」と対話をしているので、「青潮会」から質問を受けている。みんなで作った組織との対話です。それ以外の方は、「アソシエーション」としての「青潮会」に入っていない。

――伊藤知事は「青潮会」に対して話しているので、他の人には質問は許しませんという見解ですか。

伊藤 それでいいでしょう。「アソシエーション」としての「青潮会」ですから。「青潮会」に入っていない人の質問は難しいでしょう。別の形で制度化できれば別だけど。

――何らかの制度化をこれからお考えなのでしょうか。

伊藤 県庁の執行部との窓口も「青潮会」ですね。

――結局、現状を変えるお考えはないのでしょうか。

伊藤 今のやり方はなかなか変えにくいでしょう。

「アソシエーション(association)」という言葉を連呼する伊藤知事。「みんなで作った組織」と伊藤知事はつけ加えていた。辞書を引くと、「連合、合同、共同、連携」「協会、社団、会社」、さらに「交際、つき合い」とある。もとになる「アソシエイト(associate)」という言葉には、「関係づける、交際する、協同する、仲間、提携者」などの意味がある。

 要するに、伊藤知事は「記者会見では、ふだんからつき合いがある『青潮会』以外とは、話をしない」と言っているのだ。

 伊藤知事が立ち去った直後、私は「青潮会」の幹事社、時事通信社の磯部敦子記者に呼び止められた。

「今日、(有村が)出席するとは聞いていません。これまでは毎回の出席連絡は不要だと説明してきましたが、それはこれまでの幹事社の勘違いで、本来は毎回出席通知をするべきです。私たちの作った規約にも、そう書いてあります。『青潮会』から記者会見開催通知は行いませんが、出席するならば、必ず事前連絡を『青潮会』まで行ってください」

 さらに磯部記者は、こう説明した。

「『青潮会』が、県知事の記者会見の主催者として、毎回、どのような人が出席するのかあらかじめ把握しておくことは必要なことです。たとえ事前に参加登録してあっても、毎回、その日に誰が来るかを把握して、県に申請しなければなりません。それが『青潮会』の幹事社の仕事です。ただし、『青潮会』会員の出欠はとっていません。会員は会員なのだから、把握する必要はないんです」

 私は磯部記者に、伊藤知事の記者会見で、いまだにフリーランスが質問できない問題をただした。磯部記者は、こう答えた。

「3月に『青潮会』は記者会見参加規約を作成し、『青潮会』以外の記者も会見に参加できるようにしました。その際、伊藤知事に対し、『青潮会』以外の記者も質問できるよう文書で要請しましたが、認められませんでした。引き続き同様の働きかけを続けます」

 私は、記者会見場が本来あるべき自由な質疑を行える場になるよう、主催者として努力してほしいことを伝えた。

 その後の状況について、9月28日、私は磯部記者に問い合わせた。しかし、「みなさん忙しくて、『青潮会』の総会が開けず、改めて伊藤知事に(フリーランスが記者会見で質問できるよう)文書で申し入れることはできていない」ということだった。

「記者会見では、『青潮会』以外とは、話をしない」と明言する伊藤知事。それを批判するポーズをとりながらも、実際は私の質問を半年も禁止している「青潮会」。両者の共存関係が県民の知る権利を大きく損なっていることは間違いない。

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