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白いピンヒール

今までの人生で一度だけ、
白いピンヒールを履いたことがある。

私はそれまで、ハイヒールだとかパンプスだとかいった物とは無縁だった。
そういう靴をかわいいと思わなかったから。

なのにどうして白いピンヒールなんて履くことになったのか。
それは私が一世一代の決心をしたからだった。
私は、キャバクラで働くことを決心したのだ。
キャバクラで働くにしてはちょっと歳をとっていたかもしれない。
25の時だから。
それまで、会席料理のお座敷で働いた事はあったけど、本当の水商売というのは初めてだった。

私は、銀座や六本木や歌舞伎町のキャバクラに面接に行った。
そして、ことごとく落ちた。
どうやら私には、華が無い。
キャバクラって誰でも雇ってもらえるわけじゃないんだね。涙

銀座では、
ショートヘアの人にはウィッグをかぶってもらいます、お化粧もちゃんとしてもらいます、できますか?
『無理そうです』

六本木では、
ハッスルタイムというのがあって、お客さんの膝の上に座っておっぱいを出してもらいます、出せますか?
『出せません』

歌舞伎町では・・
もう忘れたけど、とにかく面接には落ちた。

私はがっくりした。
その時の私はお金を稼ぐ必要があった。
どうしても200万円必要なのだ。

私はもう少し敷居の低そうなキャバクラを探した。
そして、練馬区にあるお店に約束の時間に行くと、マネージャーと言われる人が面接してくれた。
マネージャーはとても若い男の人で、バイトの様にも見えた。
履歴書を見て一通りの質問をすると、
じゃあ、明日から来れますか?と言ってくれた。
私は、いとも簡単に雇われたことにびっくりして、
あの、顔に粉とかした方がいいんですよね?と思わず変な質問をしてしまった。
(このことは、後々もマネージャーたちにからかわれる事になる)
『顔に粉・・?どうゆう事?』
『あの、お化粧とかって意味です』
『ああ、した方がいいんじゃない?』

え!した方がいいんじゃない?って。しなくてもいいって事?
私はやったーーーと心の中で喜んだ。
私は顔に何か塗るのが本当に苦手なのだ。

もうひとつ、うれしかったことがある。
そのお店には制服があって、ミニの白いチャイナドレスだった。
肩と腕がシースルーになっていて、かわいかったし、私は色ものや柄ものが好きではなかったから、白、っていうのがすごく気に入った。

お店を出る時にマネージャーは私に言った。
『あ、タマさん(マネージャーが私に付けた源氏名だ)、明日来るとき、白のピンヒール持ってきてね』

白のピンヒール・・・・ってなんだろう?
ピンヒールとハイヒールは違うのか?
しかも白って・・そんなの普通に靴屋さんで売ってるのかな?

いろんな疑問が湧きあがったけど、ここで要らぬ質問をして合格がなかったことになっても困る、と思い、私は分かりました!!と元気よく返事をしてお店を後にした。

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