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映画「Coda コーダ あいのうた」をNetflixで見ました。父の視点で娘を見る場面の演出。

映画「Coda コーダ あいのうた」を見ました。耳の聞こえない両親と、兄をサポートする高校生の女性(ルビー)の話です。
ルビーは歌が好きですが、耳の聞こえない家族からは歌を歌うことについて理解を得られません。高校生のルビーは合唱クラブに入ります。外国の話なので、彼女が高校何年生で(大学の受験の描写があったから三年生?)、クラブに入ることがどういう制度なのか(とりあえず何かしらのクラブにはみな入るみたいです。日本の部活とは違うと思う)わからないのです。ルビーは歌も好きですが、心に思っている男性が合唱クラブに入ったので入部を決めたようです(なぜその男性に思い寄せたのかは描写はないです。なんとなく好きくらいだったのでしょう)。自分に自信がなく一度は逃げてしまうルビーでしたが(一度も人に聞かせたことなく。「上手い」とも言われたことないですしね)、勇気を出して歌ってみると才能があることが、クラブの先生によって見出されます。

「何でもないと自分が思い込んでいた人が、実は才能に満ち溢れている」というパターンの話ですね。その才能を活かすために生きたいと思いますが、その才能を活かしきれない理由が発生し、それを「どう解決するか」が物語のラインになります。この作品の場合は家族の理解、自身の親離れの決意、「家族との関係」がテーマになってきます。漁業を行っている家族にとって耳が聞こえるルビーはなくてはならない存在です。そして、安全性も考慮して監視員を船に一人入れるというルールができます。時代の変化によって、家族にとっても困難が待ち受けます。家族視点で見ると、ルビーの協力は不可欠です(手話をできる人を雇うとなるとお金がかかりますしね)。ルビーは家族視点で考えると、身勝手な行動で秩序を乱す存在になってしまいますね。なので家族がルビーと一緒にいたいという気持ちも、決して娘の尊厳が踏み躙っていると一概にはいえません。時代によっては家族の方が正しいと考えられる時代もあったでしょう。「自由とは何か」を考えさせられる作品ともいえます。

テーマが「家族との関係」「自由とは何か」「夢を追うことの困難。それでも目指すこと」などになるんですかね。「夢を追うことの困難」が「家族との関係」に当たることになるので、ルビーが自分の自信のなさを乗り越えるための描写を中心には描かれていません。割とその点はあまり描かず、ルビーは歌えるようになります。家族との悩みが、歌と向き合うことを阻み、声が出ないという描写はあります。先生の手を振ったり、声の出し方とか、その世界を知らない人から見れば奇妙な方法で乗り越えていきます(ここら辺も少しし「職業もの」的に見えて面白いですね)。何かを追う者がいて(ルビーの場合「歌の道に進みたい」)、それに対する困難があることによってドラマが生まれます。その困難の中心が自分自身のなかにあるのか、外部にあるのかでドラマの方向性が変わるわけですが、この作品の場合は困難は外にありますね(この困難が決別すべきものと作中で決まっていれば、自分の中のドラマは発生しませんが、この作品の場合ドラマを生む困難にあたるのは「家族」であり、その家族を決してルビーは邪魔とは思ってません。なので目立つ困難は外にありながら、ルビーは自分自身で「大切な家族と離れる」という選択をしなければなりません。決意という点で見れば、自分の中の問題となります。比重の大きい方という意味で中心と書きました。心の問題となるきっかけが、自分の外部の問題なので。そう考えると外から困難が来る物語の方が多いですね。「自分の自信のなさ」の克服となると心の中だけの問題になるのかな?)。
物語の冒頭からルビーの向かっている方向と、家族が向いている方向が別々なので、常に緊張感をはらんでいる物語となっています。なので、目が離させなくさせます。そしてルビーが家族の向いている方向に心を傾ける方向もあるということが、物語先の方向性を示しながらも、どう進むかわからなくしています。その点も素晴らしいと思いました。ルビーを中心とした物語とは別に、家族の職業である漁業にも困難が伴い、いろいろな問題が絡み合っているのも見ていて飽きさせないです(詳しくはわからないですが、漁業組合を抜けたのかな? ここら辺の描写は物語中心でないせいかあまり詳しく説明されず、でいて都合よく上手く行っちゃっているようです。いかないとルビーは自分で選ぶのではなく、強制的に家族といることを選ばなければ行けなくなるでしょう。「選択できること」というのは「選択できる状態」であることが大切なのがわかりますね)。
ルビーの恋愛描写もあります。湖に飛び込む場面があるのですが、何かの通過儀礼なのかな?

物語の冒頭は漁業の場面から始まります。わりと冒頭の映像やその後のやり取りで、ルビーがどういう人間か、家族はどういう人たちなのかがわかります。その後のハイスクールの描写で、ほぼ主要登場人物がどういう人かわかります。その描写方法は上手いですね。
劇中で歌がかかっている漁業の場面で始まるのですが、歌というのはすごいですね。その歌の雰囲気で、物語の方向性を見せられる。初め、楽しそうな歌がかかっていたので、「楽しそうな映画だな」と思ってしまいました。
歌という耳が聞こえない人にとっては理解できないことを、理解していく過程を映像で表していきます。この場面がこの映画の白眉という場面でしょう。
最初はルビーの家族への反発です。それを聞いても家族はルビーへの理解より、自分たちに協力してくれることを求めています(しかし、ルビーの反発は理解しようというきっかけにもはさなっています。ルビーの合唱の発表にドレスを用意したりと決してルビーが歌を歌うことに反対しているわけではないです)。それは、家族がルビーの歌が聞こえず、ルビーの才能がどうしてもわからないことも起因しています。
そして合唱発表の日。描写としてはルビーたちが歌う場面を見ている家族たち、という描写になります。最初は音があるのですが、途中から無音になり、ルビーの父親の顔が映され、彼が何を見ているか(周りの人たちの拍手とか)が映されます。視聴者は父親の中に入って見ている形になります。技術的にも、映像がどう視聴者に特定の人に感情移入させるかがわかると思います。物語はルビーが中心なので、ほぼこの作品を見ている間ルビーに心を見る形になっていると思うのですが、この場面はルビーの父の心中が中心になります(映像は表情の変化や動きから、顔を見せている人の方に感情移入というものを促すようです。この父親の場面のような演出でもないと、視線の先が見ているはずの「映像に映し出される顔」の方に心は持ってかれてしまうようです)。この父親の描写から、娘への理解が進むのがわかり感動的な場面です。
この後の娘の試験の場面も素晴らしい(試験会場に行かせるのは父親が選択します。ルビーの親離れだけでなく、家族の子離れも描かれていますね)。試験を見ている家族に、歌と共に手話で伝えるルビー。感動的な場面です。遅れてきてしまったルビーを信じ待っていた先生がいた点も感動します。

最後はまたボーイフレンドと湖に飛び込む場面で終わります。これは、何かを乗り越えたという象徴なのでしょう。

ルビーは自分の選んだ道に進みます。家族は何となくうまくいっている感じが映像で描写されます(詳しくは説明されません)。家族の漁業については、少し都合が良い感じもあります(それを描いていたら、二時間じゃ収まらなくなるし、テーマから外れるけれど)。監視員が取る時に限って何故かルビーは船に乗らない。問題を発生させるための物語展開かな、と思ってしまったりもしました(きちんと私が見てなかっただけかもしれないけれど)。
ルビーが中心ですが、耳が聞こえない人たちがどう思って日々を過ごしているかも伝えられています。父は漁業の描写を通して、母はルビーに「生まれる時、耳が聞こえない子であって欲しいと願った」と伝えます(自分の母とうまく行かなかったことが要因)。兄は酒場での喧嘩や、妹に「家族の犠牲になるな」と伝える場面から(親と兄弟ではルビーに対する思いが違うことがわかりますね)。

映像はオーソドックスのような気がしますが、大変見やすかったです。時間経過を示す映像表現と音楽も良かったですね。あまり詳しく書きませんでしたが、先生とのやりとりも良かった。たいへん楽しんでみられた物語でした。素晴らしかった。


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