自発性は環境によって育まれる「自己学習能力を育てる」より
組織の中で、どうすれば社員が自発的に学び、動いてくれるのか
マネジメントをする人であれば、だれもが関心のあることではないでしょうか。
慶応大の波多野先生が書いた「自己学習能力を育てる」では、
人がどのような環境に置かれると自発的な学びが促進されるのか、
過去行われた様々な科学的実験結果が紹介されています。
1980年に出された本と古いですが、人の発達や心理に関する過去の知見が
整理されており、興味深い内容になっています。
たとえば、人の学習タイプを以下2つに定義したときに、
・追随達成傾向:誰かがおぜん立てした状態でよく学習できる
・独立達成傾向:自分が次に何を選ぶかを決めることができる状況でよく学習できる
それぞれのタイプはどのような状況下で学習が促進されるか、
いくつか研究結果が紹介されています。
たとえばドミノの実験では、追随達成傾向の子どもは学ぶ内容を細かく指示
する教師のもとで学力を伸ばすが、独立達成傾向の子どもは、同教師の下では学習が阻害されることが明らかにされています。
つまり、誰でも自由な環境を与えれば伸びるというわけではなく、
タイプに応じて伸びる環境が異なることが示唆されています。
誰にでも同じマネジメントを当てはめること、あるいは急に自由度の高い施策を導入することの危険性が示唆されていると言えます。
また、ピーターソンは教師が何をどんな文脈で学ぼうとしているかをたえず
明らかにしているか否かと、学習者の能動性の有無という2軸で子どもを
4つのタイプに分け、学習結果を比較しました。
その結果、成績がもっとも伸びたのは、学習の文脈を明らかにし、かつ能動性が高い子ども(自発性が発揮できる)という条件であったことが
証明されています。
ここで重要なのは、もっとも高いパフォーマンスを出すのは、いわゆる自発性のある子どもが適切な環境に置かれたときだということです。
最終的に目指すべき組織の在り方を考える上で参考になります。
では、自発性を発揮する条件とは何なのか。数々の研究でわかってきたこととして、以下のようなキーワードが挙げられています。
・好奇心
・向上心
・効力感
上記の特性を時間をかけて育んでいくことが、自発性や独立達成傾向を
を身につけていくために必要だとされています。
たとえばフライの研究では、
知的好奇心の高い人は他から指示されなくても活動を始めることができる。
そして自分の好む様式でその活動を遂行していくことができるとされています。
ただし、そうした好奇心はけっして自生的に発達するのではなく、環境との
相互交渉により強められたり弱められたりするということがわかっています。
動物やお菓子づくりなど、子どもの頃に興味を示したことに対して、
周囲がその反応をとらえ、その興味を追求して満たされるという経験を
支援してあげることが、その後の好奇心の成長に影響していることがわかっています。
効力感についてもとても興味深いことがわかっています。
効力感とは、努力すれば結果が出せるという自己への信頼のことを言いますが、結果の不確かさの伴う場面で積極的に新しく行動を始めるには、この効力感をもっていることが重要だということがわかっています。
したがって、自分で目標をみつけ、長期間にわたって自己学習を進めるような場面では、この力が持つ意義は大きいものになります。
ドヴェックは、解けない問題を何度も解かせてみるという実験を行いましたが、効力感の高い人とそうでない人の間では、問題への向き合い方に大きな違いが出ました。
効力感の高いグループは、問題を経るにつれ有効な対策を講じようとするが、そうでないグループは途中で回答を諦めるようななげやりな行動に出るという違いが見られたそうです。
自分が努力しても無駄だという意識を学習してしまうと、結果を出すために
適切な行動をとれるかどうかに影響が出るのです。
上記の結果から、効力感を育むという視点で考えると、
たとえば会社の評価制度を相対評価ではなく、自分の進歩の跡が自分でわかるような評価制度にすることが有効かもしれません。
また、努力すること、自分の能力を最大限に使うことの意義や楽しさを
体験させることも重要になります。適切な難易度の仕事や目標を与えられて
いるか、再考することも大事でしょう。
以上のように、すべてご紹介することはできませんが
マネジメントに活かせる興味深い内容が満載です。
人を成長させたいと思ったとき、重要なのは環境にアプローチすることだと思います。
人の自発性、好奇心や向上心、効力感を生み出し、伸ばしていけるための仕事の任せ方、システム、評価方法、フィードバック等々、幹となる思想を持った上で、各種施策を設計することで、少しずつ組織は変化していくように思います。
2018/8/31 VOL98 sakaguchi yuto
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