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ラオス・ルアンパバーン

24時間バス


私は思いもよらぬ光景をそのバスの中で目にした。勿論、予約した際に説明も受けていたし、下調べもしていた。が、そんな取るに足らない予想を遥かに超えたものであった。定員20から30人ほどに見えるヒュンダイ製の寝台バスに50人ほどが列をなしていた。何かの間違いかとも思ったが、どうやら間違いではないらしい。荷物は屋根の上へと放り投げられ、ロープで固定された。乗り込むとシングルサイズの寝台に二人乗り込む形式らしく、私は先ほどビアラオを共に飲んだ185㎝90キロはあろうかというアラスカの男性と一晩を共にするのようだ。私も小さいほうではない、高校球児の頃のようにがっちりとした体形ではないものの、その余韻を残すくらいである。正直言って終始直立の姿勢で寝る事以外不可能であった。しかし、私の衝撃はこんなところでは終わらない。寝台が埋まったかと思えば、次は通路の番である。かなり料金も安いらしく(カラクリがあるのだが)、現地と思われる人々が追加で10数人乗ってきた。私(私たち)の隣には小学校にも上がってないくらいに見受けられる少女とその母が乗り込んできた。そうこうしているうちに出発の時間となり、バスは動き始めた。30分程度経っただろうかというタイミングでバスは突然停車した。どうやら穴にはまってスタックしたようだ。ここで通路にいた彼らがおもむろに立ち上がり、外に出た。数分後少し息を切らせて、戻ってくる。そう、彼らが破格でバスに乗れる理由は通路で寝る事とバスを押す事にあるのだ。以後も一時間に数回程度このような事があった。すっかり日も暮れた頃、またバスが停車した。今度は我々も降りて良いらしい。そこにはパーキングエリアがあった。当然日本のそれとは似ても似つかぬもので、バスは路駐、掘っ立て小屋の様なものに、トイレと屋台があるだけのパーキングエリアであった。ちょうどこの頃、私たちは大きな問題に直面していた。それは隣の通路の少女が明かりを消すと泣いてしまうという事である。勿論明かりがついたままでは眠りに就きづらい為、出来る事なら消灯し少しでも寝たいところであった。そこで私たち外国人観光客は“餌付け”することにした。屋台で各々少女が好みそうなビスケットやスナックを買い、作戦会議がてらタバコを共に吸った後、再度バスに乗り込んだ。それからはまさに戦いであった。少女と、申し訳なさそうな顔をするその母との戦いである。そんなこんなで少女は眠りに就き、我々もやっとの安静を手に入れた。しかしながら、この時の睡眠は生涯最も浅く不快なものであった。
何度かこのような事を繰り返し、15時間程度バスに揺られ、体調も限界といえるくらいには悪くなったころ、今回の目的地“ルアンパバーン”に到着した。

バス内部

ルアンパバーン


到着したのは朝7時か8時頃であった。もうルーティン化しているチェックインとSIMカードの取得にはまだ早く、比較的綺麗に見えるカフェに同乗客と共に入った。小一時間談笑しながら、朝ごはんとコーヒーをいただいた。コーヒーとしては美味しくはなかったが、この時はなんでも美味しく感じた。SIMカードを手に入れた私は宿へと荷物を置きに行き(今回も当然激安ドミトリーである)、その後昼頃まで散歩する事にした。メコン川とその支流に挟まれ、仏教寺院の立ち並ぶルアンパバーンの街並みは私の好みであった。昼頃、川の畔のカフェで早めのビールとパッタイで昼食とした。そのまま日が暮れるまで居合わせた観光客と話したり、読書をしたりして過ごした。この旅行初めての安静かもしれない。ルアンパバーンは時間がゆっくりと流れているようで、落ち着く場所である。夕方、私は行きたい場所があった。それは日本人の女性が経営しているゲストハウスである。彼女は「世界こんなところに日本人」みたいなタイトルの番組に出ており、訪ねてみたいと思っていた。調べてみるとすぐ近くだったので伺うと、日本語を話す女性と会えた。どうやらこの人らしい。日本式のカレーをいただきながら、様々な話を聞くことが出来た。リアルでシリアスな点もありながら、その生活を楽しんでいること、ラオスのために活動していることも伝わってくるような、素晴らしい時間であった。
翌日はツアーに参加した。メコン川クルージングをしながら、滝や洞窟をみるといった内容で、それぞれ良い景色であった。その中でも2つ、特に心に残っているのは川を下っているときの景色と米から作られたウィスキー(と彼らは言っていた)である。川を下っている時の景色は雄大で、急流の多い日本では感じづらいスケールの大きさであった。ウィスキーは50度のものと60度のものそれぞれ試飲し、共にコメの甘味が感じられる美味しい酒といった印象だった。ツアーに同行していたルーマニア人から日本酒と似ているか?などと聞かれたが、無論似てなどいない。どちらかと言えば焼酎やウィスキーの様な癖がある酒であった。

コメのウィスキー

ビエンチャン~空港

ストレスフリーな4日間をルアンパバーンで過ごした後、高速鉄道に乗り、首都ビエンチャンに向かった。ビエンチャンはチャイナマネーが入っている事が露骨に感じられる街並みで、ルアンパバーンの様な居心地の良さは特に感じなかった。1日間の滞在の中で凱旋門を見たり、夜のバーでビアラオを飲んだりしたが、ルアンパバーンの川の畔で呑むのと比べれば幾分美味しくなかった。明くる日の朝に人生初めての航空会社、ラオス国営航空で次の目的地へと向かった。

クワンシーの滝(ルアンパバーン)

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