舞台「Arcana Shadow」感想

※ ほぼ下調べ無しで浴びた初見の感想です。
そんな情報知りとうなかった、と後から言われたら困るので「ほぼ」ネタバレなしと予防線を張っていますが、内容や結末を知りたくない方も安心して読めるように書いています。

行こうかどうしようか、迷っている方がいらしたら是非読んで欲しい。
届け!アルカナシャドウの魅力!!


ひらひら、ひらひらと。
まるで色鮮やかな岩絵具で描かれた絵巻物が、目の前で紐解かれていくよう。

それが最初から最後まで一貫して変わらなかった感慨だ。

時間軸は二つ。
公式サイトにも題されていたように、歴史書に記されることのなかった卑弥呼から聖徳太子までの空白の354年間の因縁が、平安の治世において紐解かれるという構成になっている。
加えてバトルの中心になるのは、言わずもがな安倍晴明と蘆屋道満の陰陽術だ。
さぞかし派手な歴史ファンタジーものになるのだろうと思いきや、そこは西田氏の脚本。
飛び交うキーワードと目紛しい時間軸移動で、客席側は完全に翻弄される。
推しを見るとIQ2になる私が初見で理解できたのは「道長様がやんごとなき美しさ!」ということだけである。無念。

舞台装置、照明、衣装。
目にする全てのものが計算され尽くされていた。
ともすれば互いの身体が壊れてしまいそうな激しい殺陣でさえ、まるで薄絹を透かして優雅な舞を見ているよう。

華やかで、煌びやかで、苛烈。
そこには、確かに京の都が在った。

創り上げられた箱庭で織り成される奇譚。

蘆屋道満と安倍晴明
道長と伊周
源氏と平家
光と闇
昼と夜
冬の音
花の名前
紡ぐ言の葉

陰陽を象徴するかのような言葉たち。
事象の中に隠された鍵。

折り畳まれた布を開くたび、そこに美しい雪結晶が浮かび上がる絞り染めのように。
じわじわ、じわじわと、物語は展開していく。

様々な色彩、感情、思惑が入り乱れ、絡まり合いながら綴られていく様は、まさに複雑怪奇。

最初から複数回観劇する予定がある人は、先入観を取っ払うために真っさらな状態で観るのも良いと思うが、一度である程度の内容を把握したいなら公式サイトやパンフレットを予め丁寧に読み込んでおくのも良いと思う。
うっかり道長様の紹介文しか読んでいなかったりすると、初手では完全に詰む。私のように。

ついでなので、登場人物が見事なまでに全員格好良いことにも触れておこう。
各々が自らの生まれた意味を問い、葛藤する姿が浮き掘りになっていく脚本の構造は本当に秀逸。
正確には彼らの深度はいつも同じなのだけれど、こちら側の解像度が上がるにつれて見えるものが変わってくるのだ。
それは、闇の中で目を凝らす感覚にも、目が眩むほどの光に徐々に慣れていく感覚にも似ている。

さて、結論を言おう。

演者さんの中に誰かしら推しがいる方は、どうにかこうにか都合を付けて観に行った方がいい。心からそう思う。

今回の舞台は、おそらく配信も無ければ映像にも残らない。
今を逃せば、二度と巡り逢えないのだ。

けれど、それを嘆くには及ばない。
何故なら我々は、あの絢爛で荘重な絵巻物が令和の片隅で紐解かれる、まさに千載一遇の好機に居合わせているのだから。


(2023/7/4 マチネ観劇にて)

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