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痴漢冤罪を気にする人は犯罪者予備軍なのか?

お疲れ様です。ゆうきと申します。

最近、社会問題について色々書くためにTwitterアカウントを開設しました次第です。(リア垢、趣味垢だと社会問題についてばかり書くのが敬遠されがちなため・・・)
何卒、よろしくお願いいたします。

さて、先日までnoteアカウントを持ってすらいなかった私が今回筆を取ったのは以下のニュース、およびそれに対する世間の反応を見たことがきっかけです。

https://twitter.com/livedoornews/status/1529416158213832704?s=20&t=59GFzJ_D21OYWiKD2oRDcw

痴漢を疑われた男性が死亡してしまったという、何とも痛ましい、そして後味の悪いニュースです。

果たして痴漢は実際にあったのか。
男性が逃げる必要はあったのか。
このような結末になってしまい、被害者女性の心境は如何ほどか。
色々と思いを馳せる事件になっていますね。

そんな中、TLでは痴漢冤罪を懸念する人間に対して「冤罪ガーが沸いてる」「犯罪者予備軍」「冤罪だったとしても彼女は1ミリも悪くない」とあたかも『冤罪を気にした者は皆、その時点で人でなしである』という論調のツイートで溢れかえりました。

果たして、本当にそうなのでしょうか?
複数の観点から検証していきたいと思います。







1.痴漢冤罪とは

痴漢冤罪-Wikipediaより
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%97%B4%E6%BC%A2%E5%86%A4%E7%BD%AA

痴漢冤罪(ちかんえんざい)英語False convictionは、痴漢をしていないにもかかわらず、痴漢をしたとして扱われる冤罪。

2000年ごろから徐々に問題とされはじめ、2007年公開の映画『それでもボクはやってない』をきっかけに広く世に知られるところとなった。

原因としては、被害者による犯人の錯誤や犯罪の有無の錯誤、被害者とされる者による金銭や恨みが動機のでっち上げ、警察や検察の捜査の杜撰さなどが挙げられる。また、「触らせておきながら痴漢扱いされた」などと言って痴漢していながら痴漢冤罪を主張する者も存在する

確かに平成中期頃に話題となった印象です。
『それでもボクはやってない』で有名になったというのは事実で、当時はよくメディアに取り上げられていました。

また、2008年に有名なテレビ番組「行列のできる法律相談所」において、痴漢冤罪の対処法は「走って逃げるのが最善」と複数の弁護士が答えたこと、その後2016年においても「現場から立ち去るべき」と複数の弁護士が答えたことは大変に衝撃的で、痴漢冤罪への危機感をより一層煽ることとなりました。

Wikipediaに痴漢冤罪についての鉄道関係者、大学教授、弁護士、警視庁の見解が出典付きで載っていたので、転載いたします。
※出典まで確認したい方は本家Wikipediaの記事からご参照ください。

実際に起こった事件に関しては、鉄道関係者は「疑いをかけられた時点で、逮捕を逃れること不可能に近い」「走って逃げても取り押さえられたらお終い」とコメントしている。一方、「その場から動かずに弁護士を呼ぶべき」と主張する大学教授や、「強引に逃げるとそれ自体が犯罪になるリスクがある(例えば、誰かにぶつかり怪我をさせれば傷害罪に問われる可能性がある)。名刺を渡すなどした上でその場を立ち去るべき」と主張する弁護士もいる。また、警視庁は「申告があれば何でも逮捕するわけではなく、申告内容や第三者の目撃の有無などを検討してから判断する」としている。

なかなか深刻ですね。
ここまでの話から、電車通勤の男性ならば誰もが痴漢冤罪を被せられるリスクを負っていると判断するのが妥当でしょう。

しかし、上記は出典が些か古い情報も多いです。令和になって、この辺りの情報はアップデートされていないのでしょうか。



2.微物検査により、痴漢冤罪は解消されたのか

近頃の論旨として「微物検査があるため、そもそも痴漢冤罪のリスクはなくなった」という話がTwitter上で多く見られます。
本当にそうなのでしょうか。

Web上の記事を辿って確かめてみましょう。
※痴漢冤罪保険等のページは弁護士事務所が仕事をもらえるよう、恣意的な記載がされている可能性があるため、検証から除外いたします。


痴漢で逮捕、微物検査で繊維片が検出されなければ無罪か
https://www.bengoshihiyo.com/keiji/senihen/

繊維片が検出されなくても有罪となった判決文を読むと、容疑者の供述に矛盾があったり、何度も痴漢で捕まっていたりして、供述の信ぴょう性がないことが多くあります。
また最近は電車やバスの中にも監視カメラがありますので、容疑者の不審な行動なども参考に有罪となっているケースもあります。
結論から言うと、繊維片が検出されなかったとしても、そのことが無罪の決定的な証拠にはならないというものです。


痴漢の微物(繊維)鑑定は絶対ではない
https://www.keijijiken-bengoshi.com/chikan/chikan-senikantei/

痴漢犯罪については、警察で、微物(繊維)の鑑定を行うことが一般的になっています。
テレビで、弁護士がこのような鑑定により、冤罪がなくなるかのような放送があったこともあり、これらの鑑定について、名前を聞いたことがある方も多いと思います。

しかしテレビでの報道と異なり、これらの微物鑑定で、冤罪がなくなるわけでもありませんし、効果は、非常に限定的です。

例えば、平成28年1月1日から同年12月末まで、東京地検によって東京地裁に公判請求された迷惑防止条例違反事件の電車等の公共の交通機関内等の痴漢事件は、全部で77件ほどです。
その内の75件が有罪となっています。

無罪の判決は2件のみです。
(城祐一郎著「近時における公共交通機関内等での痴漢事件の実証的研究-平成28年中の東京地検による公判請求事件の分析と検討-」刑法学論集第72巻第5号37頁以下)。
有罪になった痴漢事件の内、否認していた7件については、微物の鑑定で、繊維片が検出されていないことを弁護人が主張していますが、衣類に触れたとしても繊維が検出されないことはあり得る等の理由から有罪判決が出されています。


痴漢を疑われたら逃げろ?微物検査で冤罪はなくなる?~ポスト「それでもボクはやってない」時代の痴漢論~
https://www.ben54.jp/column/crime/373

インターネットで少し調べると、なぜか複数人が、「微物検査」で冤罪はなくなったと発言しています。これは、全くのデタラメです。実際に裁判結果を検索してみることでも大うそだとわかりますが、そもそも証拠の扱われ方を考えれば、論理的にありえないとわかります。
~~~~~~~~~~~~中略~~~~~~~~~~~~
なお、アメリカで著名な冤罪弁護士であるマーク・ゴッドシーが扱った過去の事件では、犯人の服から被告人のDNAが検出されなかったことを、全て無意味として扱われたものも出てきます。繊維片どころかDNAですら、ないことから立証をするのは非常に困難なのです。


んんんんんんんん?????????
全然ダメじゃないか!!!!!!!!!!!!!


微物検査の検索結果で上から順に取り上げていきましたが、痴漢冤罪の危機は全く去っていないですね。他のサイトも痴漢冤罪保険を売りつけるための記事以外は同様の記載が多かったです。
情報を追っていて実感しましたが、2022年現在においても「三鷹バス痴漢冤罪事件」の再来は容易に起こりうると考えた方がよいでしょう。
【参考】三鷹バス痴漢冤罪事件
https://matome.eternalcollegest.com/post-2136835301094059301


但し、上記で取り上げた記事中にも記載がありますが、微物検査だけでは冤罪の対策にならなかった分、警察は昔よりも慎重に捜査を行う傾向にあるようです。(冤罪の再発防止に失敗すれば世論から攻撃されることは想像に難くないので、これは当然の措置と言えます)

また、かつては最善策とされていた「痴漢の疑いをかけられたら現場から逃げる」は今では愚策とされています。また、今回調査する過程で複数サイトでの記載を確認したものとしては「取り調べには応じる。但し、供述調書にはサインをしないこと」が肝要とのこと。
【参考】痴漢冤罪を回避するためにすべきこと・すべきでないこと
https://nexpert-law.com/keiji/chikan-enzai/


3.何故、痴漢だけ盛んに冤罪問題が叫ばれるのか

前項の事情があるにせよ、痴漢となるとやたら冤罪の話が出てくるというのは、これは歴然とした事実です。Twitter等のSNSを追えば一目瞭然で、陰謀論が囁かれがちな凶悪事件、行方不明事件の話以上に冤罪の話がやたら出てきます。何故でしょうか?

女性蔑視?
男は皆、性犯罪者予備軍だから?

否。そういう事例は極めて少数ではないでしょうか。

根本的な原因。それは一般男性の当事者性の高さにあります。

満員電車に揺られる限り、常に起こりうるという恐怖。
他の犯罪と違い「自分とは縁遠い話だな」とは全くならないでしょう。
こと痴漢冤罪に限り、正常性バイアスは働かないケースが多いのです。
「電車では両手を上にあげる」等の対策が当たり前に囁かれている現状からしても、それは明らか。

冤罪を真っ先に想起する男性の頭を過っているのは「明日は我が身である」というシンプルな危機感ではないでしょうか。

痴漢をしようという発想がない男性ほど、電車内での懸念は冤罪のみとなり、事件が冤罪だった際の危うさ、取返しのつかなさを先に想起するのです。

ちなみに、この当事者性の高さという事情は、そっくりそのまま女性側が冤罪発言を糾弾する理由にも当てはまります。

女性は冤罪を疑われるリスクがほぼゼロです。一方で、痴漢に遭うリスクは常に背負っている状況です。だからこそ、痴漢の報道で冤罪を真っ先に想起する男性の事情はわからない。

立場が違えば、考えも変わる。これは当然の話です。

4.痴漢と痴漢冤罪、双方の解決を図るには

では、痴漢に怯える女性にも痴漢冤罪に怯える男性にも有効な施策は何でしょうか。

現状では「監視カメラの設置を推進する」「コロナ禍で一般化されたスライドワーク、テレワークの継続的導入で満員電車という状況を減らす」といったところになるでしょうか。

私は人間の良心にはそもそも期待しないという人種です。
道徳や性被害の啓蒙で痴漢が減るとは思えません。
従って、そもそも痴漢ができない状況を作っていくことが肝要と考えます。

既に行われている施策ですが、女性専用車両の導入は有効な措置の1つです。今後も継続的に行われていくでしょう。
また、2017年のマイナビアンケートによると、男性専用車両導入には男女ともに過半数が賛成しているとのこと。
もしかしたら将来、男性専用車両も導入されるかもしれませんね。
(ちなみに痴漢冤罪保険には男性の約46%が「入りたい」と回答したとのこと。痴漢冤罪への警戒が根強いことを表す結果となっています。)

【参考】「男性専用車両」導入に賛成? 「痴漢冤罪保険」入りたい? アンケート結果は
https://news.mynavi.jp/article/20170627-a142/


5.総括

この度の記事の総括としましては以下の通りです。
・痴漢冤罪について言及しているのは犯罪者予備軍などではなく、痴漢冤罪に怯える普通の男性である。
・微物検査があるものの、これにより痴漢冤罪問題は解消されたと言えるような目ぼしいソースは存在せず、依然として一般男性が痴漢冤罪を警戒しなければならない状況は続いている。
(これについては、仮に痴漢冤罪を撲滅できるような捜査方法を構築できた暁には警視庁が大々的に発表するべきと思います。そうでもしなければ痴漢冤罪を過去のものにすることは永遠にできないでしょう)
・痴漢、痴漢冤罪の双方を解決する施策、それはそもそも痴漢ができないような環境を作っていくことにある。
(痴漢ができない状況ならば、そもそも痴漢冤罪も起きえない)




ちなみにですが・・・上記を総括とした上で、筆者個人としましてはそれでも安易に痴漢冤罪の可能性について言及するのはよくないとは思います。どうしても、痴漢冤罪よりも圧倒的に件数が多い痴漢の被害を軽視しているように見えてしまうからです。また、「一番悪いのは痴漢を行なった者である」という原則から話が逸れてしまうのもよくない点です。

<了>

ここまでお読みいただきありがとうございました。