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第7話 更衣室とキス

「あやの~相談に乗って~」
 朝一番からそんな声が飛び交った生徒会室では、放課後から生徒会室に来るあさひと合う前にいずみがあかねに対して、相談を持ち掛けていた。
「いずみ。授業前の役員の仕事はそこまで多くないの知ってて、持ちかけてるでしょ?」
 白百合学園の生徒会は、学園の行事なども取り仕切るが職員のサポートをすることも多く、学園の関係書類を整理したりなどの業務がある。
 さほど大変な仕事ではないが、書類の状況の確認などの教員がやらない雑務などを生徒会が兼ねていた。その最中の相談事だった。
「これはね、私の親友の話なんだけど……好きな子ができたらしくて……」
「相手の子がね、あまりにも可愛くて、流れでキスしちゃったんだって……」
「それまで、そんな気持ちになったことがなかったに、その子と会うとドキドキしちゃうんだって……」
「へ、へぇ~」
 あまりにも定番ないずみの相談事は、あからさまに自分じゃないよ見たいな雰囲気を出しつつ、饒舌に語るいずみの姿が滑稽だった。
『いずみねぇ。それ。自分の事だよね。間違いなくいずみねぇの事だよね。』
 さすがのあやのも気が付いたものの、堂々と饒舌に話すいずみにそんなことを言えるはずもなく……
「そ、それで?」
「それでね、同じ部活にはなったんだけど、なかなか距離感がわからなくて、どう接していいかわからないんだって。」
「へぇ~。で、その子はどうしたいって?」
「好きっていう気持ちは伝えたいらしいんだけどね……なかなか踏ん切りがつかないみたい……」
「そうなんだ。」
 あくまでも他の生徒の相談と言う体で、自分の事を言っているいずみは真っ赤になりながらも、一生懸命話をしていた。
「まずは、ふたりっきりになる時間を作ることからかな。」
「そうよね、ふたりっきりの時間を作るようにしないとだね。」
「それで、どのタイミングかで、想いを伝えればいいのよ。」
「なるほど、伝えられるかなぁ~」
 いつの間にか、親友の事を相談しているはずのいずみだったが、自分の事のようにしみじみ聞いているあたりが、いずみらしさでもあった。

 その日、生徒会役員総出でプール掃除をしていた。生徒たちが快適に施設を利用してもらうためと、生徒たちの見本として率先して行う姿を見せるのが、生徒会の指針となっている。
「ここまで快晴の日にしなくても……」
「そう?気持ちいいじゃない」
 夏も近づいている時期。快晴で屋外プールの作業ほど暑いものはない。そのため、役員全員が、動きやすい服装で活動していた。
 普段の制服とはことなり、半袖に短パンと生徒会室で見る光景とは異なる格好で、あさひからすると、いろいろと目のやり場に困る。
「あの、なんで、あかねさん。へそ出しなんですか?」
「えっ?だって、暑いじゃん。これくらいいいよね。」
 副委員長のあかねは、半袖を胸下で結ぶと動きやすい恰好になっていた。その代わりとして、色白できれいな腰回りがあらわになっていた。
「そうですよ。生徒会役員なんですから、少しは慎みを……」
「まったく、いずみは固いわね。」
「いや、あかね先輩が気にしなさすぎなだけかと……」
「えぇ~みやびちゃんもなの?あさひさんはどうなの?」
「『どう?』って何がですか?」
「この格好どう思う?」
 あさひにとって、この格好はと聞かれても、返答に困るのが当たり前でただでさえ、今の状況にすら、目のやり場に困っている状況だった。
「べ、別に。いいんじゃないですか?」
「えぇ~そんな横目でいわれてもねぇ~」
「直視できるわけないじゃないですか。」
「えぇっ。あさひさんなら、別に。触られてもいいわよ。ほら。」
ぴとっ。
「なっ!」
「いっ!」
 ちょうどそばにいたあさひの手をとったあかねは、そっと自分の腰に手を当てさせた。あさひの触ったあかねの細い腰は、女性らしくスベスベした肌と柔らかな感触が手に伝わってきた。
 それを見て、当然腹を立てる人がいるわけで……
「ちょっと、あかね。なに触らせてるのよ!」
「えぇっ?いいじゃない。減るもんじゃないし……」
「それはそうですが……」
 あれやこれやと話しをしているうちに、遠くからあやのの声が聞こえてきた。
「みんな~休憩にしないか?」
「あやの?」
 休憩の時間になると、あやのが飲み物を届けてくれたのだが、なぜか水着で入ってきた。
「あやの。どうして、水着なの?」
「えっ?プール掃除が終わったら、遊ぶんでしょ?」
「えぇっ。」
 差し入れに来た段階で、遊ぶ準備万端なあやの水着の授業の時とはまた違った、露出の高い水着で来ていた。
「今日は、学園が休みなのでいいでしょうが、授業でその水着はさすがに……」
「それはそうよ。休日だからね。」
 明らかに確信犯なあやのをよそに、プール掃除も佳境に入るとお約束というか、掃除に参加したあやのが、いたずらを始める。
バシャッ!
「ちょっと~。あやの~」
「この後、どうせ濡れるんだから、いいでしょう。ほら。あさひちゃんも。えいっ!」
「わっぷ。」
「もう、あやのさん。何してるの。ほら、ふたりとも、着替えてきて。」
 あやののいたずらによって、半袖短パンのふたりはずぶ濡れになってしまったため、更衣室にある水着に着替えることにした。
「まったく、あやのには困ったもんだわ。」
「ははは。」
 いつものように更衣室でふたりで着替えていると、一足先に着替え終わったいずみがあさひの手伝いを始めた。
「あさひちゃん。手伝ってあげる。」
「あ、ありがとうございます。」
 さりげなく手伝ってもらっているあさひ。背中越しに会話するいずみはいつものように優しかった。
「あさひちゃんもだいぶこの格好に慣れてきたね。」
「まだちょっと、違和感はありますが……」
「はい。前向いて。調整するから。」
「はい。」
 後ろで調整すると、パットなどでそれなりに膨らみを作るために前からも調整が必要になってくる。そのため、自分でやることも大事だがやってもらうことで、もっとしっかりとした感じになる。
「あ、ありがとうございます。いずみさん。」
「…………」
「いずみさん?」
 水着の調整のためにあさひの体に触れていたいずみは、あさひの腰に手をまわしたまま、話す素振りを見せなかった。
 不思議な感じに想ったあさひは、のぞき込むようにしていずみの顔を見ると一言。あさひに言葉を発した。
「ねぇ。好きにならなくていいから、好きでいていいかな?」
「えっ?それって……」
 あさひの返答が終わる前に、その言葉を遮るかのようにあさひの唇を自分の唇でふさぐいずみ。
「んっ!」
 身長差からしても、あさひが小さくいずみの背が大きいことで、いずみに包まれる形になっているあさひ。
『本当に、華奢な肩。本当に男の子なの?それに、唇。やわらかい……』
 はじめはこわばっていたあさひだったが、長く感じた口づけは次第に、緊張がほぐれる。そして、ゆっくりと離れたいずみは、互いの呼吸を確認するかのように一呼吸おいて、プールサイドへと駆け足で逃げて行った。
『えっ。いずみさん。どういう……』
 あっけにとられているあさひをよそに、プールサイドへ戻ったいずみの背中を一人の女性がいずみの後ろ姿を見ていた。
『えっ!いずみねぇの好きな人って。あさひちゃんだったの!』
 更衣室で行われたふたりのキスを目撃してしまったあやの。ふたりを追いかけて目撃したその光景は、あやのにとってとても刺激的だった。
『……何なの、この感じ……』
 それまで、キスと言えばお遊び程度に姉妹とキスをしたことはあったが、いずみの真剣なキスを見てしまったあやのは、自分の唇を触りながら不思議な感覚に襲われてしまっていた。

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