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レビュー / 『あゝ、荒野 後篇』★3.8

今更ながら、メインキャストの演技力やばすぎんか。菅田将暉はさることながら、この映画で初めて知ったヤン・イクチュンが恐ろしいほどにうまくて、演技とかじゃないレベル。もはや憑依。他の作品での彼もぜひ観てみたい
女の子を追いかけるときに「ちょっごめん…」的なジェスチャーをするバリカンと、海を前にしてかもめみたいな鳴き声を上げるバリカンがツボすぎた。

ラストは全くわけもわからず理由もなく泣きました。『百円の恋』とか『茜色に焼かれる』で出てきた涙と同じタイプのやつだ。人間の命のエネルギーに反応するような涙。いつも思うけど、なんだこれ。でも、理由なんてわからなくてもいいのかもしれないな。

▼あらすじ

▼前篇のレビュー

後篇に関しては健二が主人公だった説。唯一の繋がりを感じていた母は亡くなり、母国韓国からも離され、ずっと大きな孤独を感じていた健二。そんな健二をアニキと呼んで慕う新次。健二にとって新次は、母亡き後にできた初めての友人、そして家族のような存在だったのかもしれない。でも、そんな新次は健二よりも圧倒的に強く、「弱いやつは嫌い」と言う。そこまでを踏まえると、つながりたい、愛されたいという、健二の切実な思いが身に迫ってきて、胸が張り裂けそうになる。

でも、ボクシングとも新次とも出会わずにそのまま生き続ける人生と、リングの上で散る人生なら、後者のほうが健二にとっては幸せな人生だったんじゃないかって思うよ。

「アイツ、俺と繋がろうとしていやがる。その手には乗らねえぞ」
かたや新次は、相手を憎みきって戦うスタイル。新次は、果たして健二を憎むことができたのか?新次の心理描写は殆どなかったけど、個人的には、健二との戦いにおいては新次のパンチには憎しみではなく愛があったんじゃないかと思う。愛というか、うーん、命のやりとりみたいな。それがまさに健二の言うつながり、ってやつなのかな。
というか冷静に、あんなに薄着(ほぼ裸)で激しく戦い合うボクシングというスポーツ、やばすぎる。どうなってるんや。でもこの作品を観て、リアルなボクシングを一度観てみたいなぁと思った。命を感じそう。

そんな二人の戦いに、それぞれの思いを重ねる登場人物たち。登場人物多すぎて前篇で広がった物語を全然回収しきれてない感あったけど、バックグラウンドも性格も様々な彼らがみんな一様に新次×健二戦を観て涙するほどに心打たれている様子はなんだかよかったな。映画は二人のマッチが終わるとともに終わったけど、あの人たちの人生は試合の後も続いていく。みんな色々な事情を抱えながら、それでも生きていく。きっと、あの試合がそれぞれに何らかの影響を与えていくんだろう。少なくとも、もっとちゃんと生きてやろう、と思うことだろう。健二戦を経て、新次はもっといい選手になる気がするなぁ。

裕二戦が終わったあと、「これで終わりなのかよ」と嘆いた新次、天下無双になったときのバガボンドの武蔵と重なるものがあったな。

鑑賞後はずっしりとした余韻と満足感があって、今日はこの映画を観たことで「ひと仕事終えたぞ〜」という気持ちで眠れちゃう。いい映画ってこういうことなんだと思う。

まあひと言でまとめると、ユースケ・サンタマリアが菅田将暉よりもカッコいい奇跡の映画です。

個人的には前篇のほうが好きだったかな〜
でも前後編映画っていいですね、ドラマを全然観ないからすっかり忘れていた「続きが楽しみ」という感情の尊さを思い出しました。今週はあゝ荒野後篇を観ることをモチベーションに1週間を乗り越えました、ありがとうございました。

2022年4本目

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