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大学レポート課題 分析的キュビスムの素描性とアナロジー

この文章は大学のレポートを加筆修正したものです。正直読みにくい悪文です。独自性を謳いつつも、現在評価されているピカソの絵画に自分なりの解釈を加えただけであり、新規性はないと思います。ですが、割と内容は好みです。

私は国立西洋美術館で開催されている「パリ ポンピドゥーセンター キュビスム展 美の革命」の展示されていたピカソ作『ギター奏者』を取り上げる。

こちらです

この作品は1910年に発表され、初期キュビスムである分析的キュビスムに分類される作品である。同時期の作品としては『パイプをくわえた男』『マ・ジョリ』等が挙げられる。分析的キュビスムの特徴は何と言っても、今までの絵画と一線を画す、対象物の幾何学的分解を推し進めたことにある。幾何学的分解とは、対象物とその周辺が描く直線、曲線を三次元的に観察し、それを最小単位に幾何学的に分解し、二次元的空間であるキャンバスや紙に再び最小単位を配置することで、絵画を制作する試みである。画面に映る様々な物理的な広がりは、その分解において輪郭を交錯、共有されるため、絵は黒、灰、深緑、茶等の落ち着いたモノトーンのものが多い。カラフルな世界の色彩をパレットの上で混ぜ合わせたように、暗く濁った色に統一されているのである。『ギター奏者』もこの手法によって描かれているため、簡単にギター奏者の存在を見出すことは難しく、様々な直線と曲線の交差によってかろうじて人物やギターの外周が捉えられる程度である。いや、それすらも難しいかもしれない。ピカソがキュビスムに入る前のいわゆる「青の時代」に描かれた『老いたギター弾き』とはまるで異なる作風に仕上がっている。これらの分析的キュビスムはセザンヌの遠近法や一方的な観察を取り払った、多角的な観察に基づく三次元的な絵画表現の手法に影響を受けている。また、ピカソの初期キュビスムの代表作である「アヴィニョンの娘たち」の顔からもわかるように、アフリカなどの部族で作られた、西洋の芸術に囚われないお面などの民芸品(これらの作品を近代において西洋はプリミティブアートという概念で扱った。プリミティブとは未開な、原始的な、という意味で、現代の文化相対主義の観点から見て不適切な表現と呼べるが、あくまでも部族的な民芸の総称であり、現代においては差別を意図するものではない。)に影響を受けている。

この『ギター奏者』が如何に優れているかということについて、その理由を様々な出版物や芸術の百科事典であるartpediaの内容を踏まえて説明すると、上記のような分析的キュビスムの美術史的な役割に依存するところが大きい。すなわち、ヤン・ファン・エイクから始まるキリスト教的世界観から見た、この世界の精緻な模倣を可能にした油絵による絵画作品の凝り固まった遠近法、自然主義の系譜から、後期印象派であるセザンヌとプリミティブアートきっかけとして、キュビスムによって完全に脱却した点が、分析的キュビスムの優れている点である。

しかし、私はこの説明にあまり満足をしていない。たしかに、『ギター奏者』を含む分析的キュビスムの果たした役割は絵画のルールを文字通りひっくり返したわけだが、それはあくまでも他の作品と時間的な比較したときの相対的なものであって、『ギター奏者』そのものの持つ良さについてではない。今回は、絵画に描かれているもの自体の持つ、優れている点について論じたいと思う。

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