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【今でしょ!note#69】 地方赤字ローカル線の廃線問題を学ぶ

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

日本の人口減少や地方衰退の議論において、テーマとしてよく上がる問題の1つが、地域公共交通の存続問題です。
昨年度、ある地域の高校において、地域探究学習の授業を行い、課題解決型授業の発表会に向けて伴走型で支援させていただきましたが、やはり地元ローカル線の本数の少なさに不便を感じている声が多く上がっていました。

私も高校まで地元の福井県で過ごしており、高校に通うのに電車を使っていましたが、1時間に1本、多い時間でも2本程度の電車が普通の生活で、雪が吹雪く中ひたすら電車を待ち続けた記憶があります。
(雪がひたすら吹雪く中、電車を待ち続けていた時間を使って勉強に当てられていれば、もう少し学力も上がったんじゃないか?と思うくらいです)

地方のローカル線の廃線ニュースなどを見ると、「公共性 vs 収益性」の問題で合理性を考えるとやむを得ない面もあるだろう、くらいの感想しか持てていなかったのですが、もう少し解像度上げて押さえておきたいテーマの一つだと感じたので、記事に残しておきます。

JRが開示している線区の利用状況

2022年4月に、JR西日本が「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」というレポートを一般開示しています。

このレポートを見るだけでも色々と勉強になるのですが、利用者が少ない路線でどれだけ赤字になるのか?を把握する上での一つの指標は、「輸送密度における収支率」です。

線区別の利用状況も開示されており、なかなか面白いです。主要沿線から内陸に入っていく路線や、人口減少スピードの早い山陰地方で1日あたり利用者が2,000人未満の線区が集中しているのが分かります。

上記JR西日本サイトより引用。
皆さんが馴染みのある線区の利用率はどのくらいでしょうか?

1日あたり利用者が2,000人未満の線区に対して、利用者数推移に関するデータも開示されています。
例えば、山陰線の「城崎温泉〜浜坂」間では、1987年当時は1日5,000人近く利用していた路線ですが、2019年には693人となり、当時のたった14%に過ぎない利用率となっているのが分かります。

長野の南小谷と新潟の糸魚川を結ぶ区間では、10%の利用者にまで減っています

同レポートで、岡山と広島を結ぶ芸備線の「東城~備後落合」の区間では、1987年に476人いた利用者が、2020年には9人という衝撃的な数字もありました。
1日利用者数が9人しかいない区間であれば、お客さんの顔を全員覚えてしまいそうです。

この区間に限定して見れば、100円の収入を得るためにかかる費用を示す「線区営業係数」はなんと26,906円となり、大赤字であることがわかります。
さすがにここまで来れば、コストカットや利便性改善というレベルの対策でどうにもなる問題ではなく、人口減少や車の方が便利だから、という要因にかなり依存していると言えるでしょう。

通常の事業とは異なり、交通系事業が難しいところは、鉄道はネットワーキングされた全体で収益を生み出しているため、この事業は赤字だから撤退!と簡単に部分だけ切り離せば良いという類のビジネスではないというところです。

今後も利用者増加は見込みにくい

北陸地方では、1990年比で2040年では77%の人口になるとの推計

2040年にかけての人口推計は、今後減少トレンドですから、自然体で鉄道利用者数が増加する期待は持てません。

また、下図の通り、全国の幹線道路の長さは1987年と比べて2019年時点で約2.7倍となっています。
より小回りが効き、各家庭単位での物や人の運搬とマルチユースできる自動車利用が、利便性の面から選択されています。合理的判断による結果であると言えます。

JR西日本のレポートより

一般的にローカル線の利用者は、その地域に住んでいる人が大多数を占めるはずで、とりわけ地方では、高校生の通学による利用が約8割を占めると言われています。
確かに、昨年度の授業のために地方ローカル線を利用した時にも、周囲にはほぼ高校生しかいませんでした。

たいてい彼らは、高校を卒業して大学に進学しますが、大学はより人が集まりやすいところに集中していて、それまで利用していた電車に乗らなくなるのは自然でしょう。
運転免許も取得できるようになるので、自動車利用にシフトする人も多そうです。

環境優位性の視点

別の観点で知らなかったことは、輸送手段ごとのCO2排出量比較です。

50人以上を運搬できる時には、鉄道は環境優位性がある

国交省によると、鉄道輸送は一度に多くの人が運べて、走行時のエネルギー効率が高いという特徴から、輸送人員一人当たりのCO2排出量は、自動車の8分の1だと言われています。

都市圏のような大量の人が移動する地域では環境優位性が高い乗り物となりますが、50名未満であればバスや自動車の方が環境面で優位性があります。
利用者が少ない地域では、収益性だけでなく、環境面でも問題があるということですね。さらには、供給制約面で考えると、利用者のいない線区の鉄道運転手の不足も深刻でしょう。
車の所有からシェア型への移行、都市部でも人口減少が進んでいることを考えると、都市部の収益で地域の赤字を補填する考え方にも限界があります。

自治体の視点

自治体としては、路線が廃止されてしまうことで鉄道事業者からの固定資産税を失い、駅前の地価下落により、駅周辺の土地所有者からの固定資産税も減額されるマイナス影響があります。

また、鉄道が廃止されても別の交通手段を確保するのに費用負担が発生し、マイカー利用が増えて道路整備の必要性が大きくなれば、その負担も自治体です。

行政財政、職員リソースの観点から、路線廃止問題は大きな悩みの種であるはずですが、この辺りも大きな流れを考えると諦めざるを得ない面もあるかと思います。

今後の方向性

じゃあどうなっていくの?という点ですが、やはり全体トレンドとしては、今後もローカル線廃止傾向はますます進んでいくのでしょう。
利用者側・供給者側いずれの立場においても、利用者が減っていく地域ローカル線以外の移動手段を選択していく方が明らかに合理性が高いからです。

コンパクトシティ議論と同様、やはり人は合理的な判断に基づき行動していきますから、自然な成り行きと感じます。

少なくとも「昔から生活の近くにあった路線がなくなり寂しい」みたいな感傷論で語られるべき問題ではありません。
「買い支え」の考え方で、地域に本当に残したいのであれば、地域の利用者側がしっかり使って、供給側が維持できる仕組みを考えるのが建設的です。

「路線がなくなると、駅周辺の街が衰退してしまう」主張は、私は違うと感じています。そもそも街が衰退してそこに足を運ぼうと考える人がいなくなってしまったから、路線を維持するための経済合理性が働かなくなってしまい、路線を無くさざるを得なくなっているのが実態です。

本当に「なくなると困る」のであれば、自分たちでいかに使っていくのか。組合のように、そのサービスが必要な人が出資し合い、より使われるために何ができるのか?という議論が本来は必要です。

ただ自分たちの生活が困るから維持にかかる支援を他に求めるのは、筋が通っていないと考えます。

それでは、今日もよい1日をお過ごしください。
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