【今でしょ!note#55】 高校普通科の危機 (1/2)
いかがお過ごしでしょうか。林でございます。
今日は、昨年末に公表された教育関連のいくつかのレポートを見ていて感じたことについて、記事にまとめておこうと思います。
日本の義務教育レベルは世界トップクラス
義務教育修了段階の15歳の生徒が持っている知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測る調査として、PISA調査というのがあります。
文部科学省 国立教育政策研究所が公表している「PISA2022のポイント」というレポートが2023年12月5日に公表されました。
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2022/01_point_2.pdf
「数学的リテラシー」「読解力」「科学的リテラシー」の3分野で、2000年以降大体3年おきに実施されている調査で、直近の2022年調査では、81カ国・地域から約69万人が参加しています。
日本からは、全国の高等学校や高専などの1年生のうち183校、約6000人が参加しました。
測定対象の3分野の定義をざっくり解釈すると、次のようになります。
調査結果(表1)を見ると、OECD加盟国37カ国中、「数学的リテラシー1位」「読解力2位」「科学的リテラシー1位」と、先進国と呼ばれている国の中でもトップレベルであることが分かります。
全参加国における比較(表2)を見ても、「数学的リテラシー5位」「読解力3位」「科学的リテラシー2位」と、どの分野でもトップ5にランクインしています。
他の上位国(地域)としては、シンガポール、マカオ、台湾、香港、韓国など、東アジアのレベルが高い傾向にあることが分かります。
大学ランキングではあまり目立ってこない日本の大学
一方で、イギリスの高等教育専門誌である「Times Higher Education」が毎年発表している「世界大学ランキング」によると、日本の大学のランキングは、上位にいないことが分かります。
「教育」「研究」「被引用論文」「国際性」「産業界からの収入」の5分野・13指標で各大学のスコアを算出しているので、評価基準が異なる要素があるのは事実ですが、義務教育では、広い範囲で一定の教育水準にまで持ってくる教育制度が充実しているが、その後、各専門分野での勝負となってきたところで尻すぼみする傾向があると考えます。
日本の大学では最も順位の高い東京大学は39位にとどまり、京都大学68位、東北大学201-250位、大阪大学251-300位・・・とあまりパッとしない印象です。
色々考え方はあるかと思いますが、「子どもが小さな頃から高い塾に通わせて、日本のいい大学に行かせる」というのが、本当に投資対効果がよいのだろうか・・?と考えさせられます。
仮に、小学校4年生から塾に通わせて大学まで行かせたとして、子どもへの投資額はいくらくらいでしょうか。
小学校の塾代は月1.5万円、中学校・高校が月2.5万円の前提とし、小学校4年生から高校3年生まで通わせたとするとトータル234万円で、模試や夏期講習などのその他費用を入れると一人あたり+300万円くらい。
私立大学に進学して4年間での授業代を400万円とすると、教育にかかる費用だけで700万円程度となります。
大卒の平均年収は、以下リンクにある通り「令和4年賃金構造基本統計調査」から手取りベースで割り出すと男性433万円、女性340万円となっています。
もちろん、大学により平均年収も違ってくると思いますし、大学といっても結局は個人差が大きいですが、通常の教育費に追加して高い塾に通わせることに見合う将来リターンがあるのか?というところは冷静に見ておきたいところです。
また、金銭面だけでなく、時間も貴重な資源であり、日中に学校で勉強して、終わってからもまた学校の勉強だけ・・では、仕事をし始めてから他と差別化要素とできるスキルを身につけるための時間が取れません。
一昔前ならまだしも、大企業であれ全く安泰とは言えず、賃金も世界的に見て高くないですから、出口戦略を考えた時に「いい大学に行かせれば安心」というのは、とっくに崩壊していると考えています。
出口となる社会の労働生産性も低い
公共財団法人 日本生産性本部が2023年12月22日に公表した以下レポートによると、日本の労働生産性はOECD加盟国中38カ国中30位で平均以下の水準となっています。
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/summary2023.pdf
1位のアイルランドが時間あたり生産性154.1ドルなのに対し、日本は52.3ドルにとどまっています。つまり、アイルランドの人が1時間かけて生み出した価値と同じ価値を生み出すには、日本では3時間かけないといけないということです。
上図は、これまでの話の流れから、私の解釈を示してみたものです。
せっかく中学卒業くらいのところまでは、世界的にもトップレベルで、基礎教育を広く遍く実現できています。
しかし、社会の労働シーンで必要となる高生産性の仕事を生み出すとか、仕事で必要となる課題解決能力のトレーニング機会が不足しており、高校・大学を出たタイミングで、他国に逆転されてしまう構造に陥っているのではないか?と考えています。
高等教育の普通科が危ない
そのように考えていくと、高等教育の中でも、商業高校や工業高校、農業高校といった、職業との関連が深く実践的な教育を行う専門学科では、早いタイミングで社会と接続した専門性を身につけることができるので、強いと考えています。
実際、地方の知り合いから聞くと、地元企業では4年制大学の文系卒よりも工業高校卒の方が採用が難しいようです。
採用が難しいということは、企業視点では、高い賃金を払ってでも専門性の高い人材に来てもらいたいということですから、労働市場での価値も上がります。
一方で、高等教育の普通科では、やはり大学進学を前提とした授業が中心となっており、学校の授業で専門性や課題解決能力を高める機会を持つことは難しいです。
そうなると、先ほど述べたように、大学卒業時に専門性のないジェネラリストとなり、そこで初めて就職活動という形で社会と接続する機会を持ちますが、これといった専門性がないことからどうしても採用側優位の構造に陥りやすく、個人視点での主体的な(優位な)キャリア形成が難しくなってくると考えています。
では、中学校を卒業して、社会に出ていくまでの過程で、どのような機会を作っていけると良いのか。
私なりに考えることについて、次回の記事で紹介していきます。
それでは、今日もよい1日をお過ごしください。
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