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「そっちの方に行け」って言ってくる絵の具

みなさんこんにちは。年の半分が終わろうとしていて焦ります。お変わりありませんか。

AIがごっつい綺麗なイラストを秒で作り出してくれることが日常茶飯事になってきました。
綺麗なデジタルイラストを見ると「これは、人が描いたものか?生成されたものか?」と思って、右下とかにサインみたいに書いてないかなと覗き込む自分がいます。

ぱっと見わからないのです。
というか「美しすぎたらAI」と判断しようとする自分がいます。


「分離色」という性質を持つ絵の具が売り出された時驚きました。

分離色」。
写真を拡大して見てみてください。じわりと広がる濃淡の中で、色味の違う色が分離していって定着しています。

マットに均一な絵の具の粒の付着ではなく、砂を撒いたようなざらっとした定着を見せている部分も見てとれるのではないでしょうか。

この「ざらっとした定着」をしてしまった場合、以前の自分なら「美しくない」「もっと均一であったほうが技術的に高い」と思ってました。
「絵の具をコントロールできてない」と感じてたんです。

でもあえてその「分離」が起こるように調整された絵の具が売られている。

それはなぜか。

それは世界が、AIとか操れない人間(私)に「そっちの方に行け」って言ってるから。

そっちってどっち

絵の具を触ってるとワクワクして楽しくなって、
大きな範囲に伸ばしたらどんな滲みになるだろう?
どんなテーマが似合うだろう?と考えてしまって、どこに出す予定もないのに大きな紙を引っ張り出していました。


デジタルを使えば、均一な色味もグラデーションをかけた色味も簡単に表現できるのです。

そこから先が決して楽な道じゃないことが分かりつつも、
色のはみ出しもミスの修正もできてしまうというデジタルの利点が、逆に魅力的に見えなくなる時があるのも感じていました。

コントロールの難しい絵の具と取っ組み合いたい。

そんなふうな気持ち。

「難しいなあ」
「でもすごくいい滲みができたぞ」
「紫かと思ったらオレンジが潜んでたぞ」
「乾くと全然違う色に見える」
「ひい、筆を落っことした」
「うぎぃ、コーヒーこぼした」

少し目を離した隙にとんでもないことになる「紙」「色」「水」の生々しさ。
生き物と話しているような気持ち。

蓋のミゾのところに絵の具が付いていいことは一つもないので綺麗に拭きます。


でもAIでの自動生成を楽しんで頑張ってる人も、同じように「対話」してるのかもしれないなあ。
ぜったい試行錯誤してるもん。
使う道具が違うだけで、見る人が、自分が、心地よい一枚に向かっている気持ちはきっと変わらないんだろうなあ。

指と爪の間に深い紫が入ってどうにも取れない…と、ティッシュで拭いながら思いました。

自動生成で絵を作ることは絵が必要な人の福音になるだろうし、絵のパワーを多くの人が手に入れるチャンスが広がること。

それは大変意義深いし、
絵を描く人間の幸せがそれで奪われることはないのです。
(自動生成のイラストが誰かの著作権を侵害するかも、というのはまた別の話)

でも「幸せ」に影響がなくても「仕事の量」にはきっと影響がある・・・。

これから、生活を営みながら、どれだけ一枚の絵を丁寧に描く余裕が持てるでしょうか。

去年の誕生日に25色セットで友人達がくれたwinsor&nwetonのインクは極上の可愛さ。

世界の変化と無関係ではいられないけど、新しい絵の具が私のところにやってくる。
その間は、思い切り楽しんで使わせてもらいたいのです。

「色と水と紙があったらどこにでも行ける」
ひとりぼっちで絵を描きながら感じたその気持ちは、どこにも行けないでいる自分と、心はまったく別の地平にいることを教えてくれました。

読んでくださってありがとうございます。
結局何の絵を描いたんだよう!?
という方のために、というか定額メンバーの皆さんに感謝を込めて動画を作りました。
いつか本物を出せる機会があるといいなあと思っています。

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