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3年で「映画1000本」鑑賞して気付いたモノづくりをする上で大切なこと

3年半前から映画を浴びるように見始めたのですが、先日、ついに1000本鑑賞し終えることができました。

Filmarks


これで

本:1000冊以上
マンガ:1000冊以上
映画:1000本以上

を達成したことになるので、(数字なんてただの目安程度にしかなりませんが)やっとエンタメのスタートラインに立てた気がします。

ということで、そろそろ「映画」について語ってもいいかなと思い、約8000字で記事にすることにしました。

というのも、「映画1000本」鑑賞したおかげで、モノづくりをする上でとても大切な"あること"に気付くことができたからです。


それは、どんなジャンルのエンターテイメントでも必要不可欠な

【感情の設計】


についてです。


ただ、そこに辿り着くまでに、僕はいくつかの疑問にぶちあたることとなりました。

例えば、今からする話は物議を醸したくなるかもしれませんが、


「映画に笑いは求められていない」


かもしれない、という疑問ですーー

映画のタイトルバック風



まず、映画を1000本鑑賞して気付いたことの前に、前置きなのですが、

本とマンガの1000冊以上読破は10年近く前に達成していたんです。

なのになぜ映画だけこんなに遅れたのか?についてお話しますと、

完全に人のせいみたいになってしまうのですが、

「自分に合う映画が紹介されなかったから」

でした。


もともと本とマンガは大好きで、上京したばかりである20歳の僕は友達がほとんどいなかったこともあり、本とマンガを貪るように読んでいました。

当時、1話20分ちょいのアニメに慣れてしまっていたので映画はとても長く感じてしまい、映画はほとんど見たことがなく、

でもエンタメ好きとして映画くらいは見ておかなければと、同じサークルの映画好きの友達にオススメを聞いて見てみることにしました。


そこでまず紹介されたのが、

『ショーシャンクの空に』

でした。

もし、オススメされたのが同じ脱獄ものの『プリズンブレイク』だったら、もし、最初に見た洋画が『ダイハード』や『キングスマン』だったならば、僕はあと10年早く映画にはまっていたことでしょう。


そう、『ショーシャンクの空に』は、映画(特に洋画)が苦手だった僕にとって、

暗い、重い、長い!!!

この三拍子揃った映画だったのです。

ゆっくりと進み、最初からいきなり面白いわけではないという、映画が苦手の僕がさらに苦手になるような作品でした。

(もちろんラストのカタルシスは半端なく、10年経った今でもあの感情を揺さぶられた感覚は覚えていますし、今ではもう本当に大好きな作品なのですが)

「あぁ、俺、やっぱ映画苦手かも」

と、映画から遠退いてしまいました。

それからしばらくして、好きな子ができ、その子はとても映画好きでした。

もちろん初デートは映画館で、二回目のデートも映画館へ行きました。

好きな子の好きなものを好きになりたくて、好きな映画はなぁに?と聞くと、

『アベンジャーズ』



『きっと、うまくいく』

と言われました。


やったぜ、好きな子の好きなものを聞き出すことができた


TSUTAYAへ走りました。


当時、マーベルのことはよくわかっておらず、MCUシリーズの6作品目である『アベンジャーズ』からいきなり見てしまい、意味不明。

『きっと、うまくいく』は3時間近くある癖のつよーーーいインド映画。インド映画っていきなり躍り出すんですよ。意味不明。


映画がさらに嫌いになりました。


だって長いんだもの。

活字が苦手で、普段本を読まない人に、いきなり500ページくらいある鈍器本(大作)を渡す感じです。

「むりむり!俺、活字苦手って言ったじゃん!!!」

と。

(僕は大学生の頃、オススメの本を聞かれたら、たいてい500ページ近くある『影響力の武器』と答えてしまっていたのでとても反省しています)

それ以来、そんなことがまた何度かあり、結局、映画をはまるきっかけを逃したまま、大学を卒業してしまったのでした。


さて、本題はここからです。

思い出ではなく気付きはここからです。


そんな経緯があったので、知り合いからオススメ映画を聞かれることがかなり増えた今では、まず

「どんな映画が好きか」
「好きな映画は何か」


この2つを聞くようにしています。

(もちろん当時の僕みたいにどんな映画が好きかをしっかり言語化できている人は多くはないので、その場合は「好きな映画3本」を教えてもらうことにしています)

これらを聞くようになって初めて気付いたのですが、結局のところ、お客さんが映画に求めていることはざっくり分けると「2つ」あるなと思いました。


それは

「ハラハラドキドキ」



「感動」

です。

つまり、映画は「感情的体験」を提供しているということになります。

感情的体験?

いきなりなにそれ?


と思った方もいらっしゃるはずなので、

この話を深く理解してもらうためには、まず「TSUTAYAの棚」についてお話させてください。

ここに「映画」を理解する上でとても大切なキーが眠っていました。




(もちろんNetflixなど配信サービスにはいくつも入っていますが)この3年間、毎週TSUTAYAに通っていました。

通い始めてすぐあることに気が付きました。


それは

「ジャンルによって棚の大きさが異なる」

ということでした。



これはあくまで僕の最寄りのTSUTAYAの話なりますが、映画コーナーは、

●アクション
●SF
●ホラー
●サスペンス
●コメディ
●ラブストーリー
●ドラマ

この7つのジャンルに分かれています。

しかし、それぞれ棚の広さがまったくもって違うのです。

あるジャンルはとても広く数が多く、あるジャンルは棚一つ分しかなくとても小さいです。



■それでは、ここで問題です。

アクション
SF
ホラー
サスペンス
コメディ
ラブストーリー
ドラマ

◆この中で一番小さい棚はどれでしょう?
◆また、一番大きい棚はどれでしょうか?





少しだけ考えてみてください。

答えはあなたの中にあるかもしれません。

棚が小さいとはそれだけ多くのお客さんからは求められていないということで、

読者の方が一番見ないであろうジャンルの棚が小さいはずだからです。





では、早速、答えから言ってしまいますが、TSUTAYAの棚で一番小さいジャンルは

「ホラー」

です。

これは予想通りだったと思います。

僕にとってはとても好きなジャンルではありますが、ホラーはいわずもがな好き嫌いがはっきり分かれます。というか絶対見ないという方がけっこういますよね。

僕が「ゾンビ映画が好き!」と言うと、「わかる!!!」と共感してくれる人がいる一方で、「えっ……」とわりとちゃんとひかれたりします。

それぐらい見ない人は見ませんので、TSUTAYAの棚はかなり小さくなります。


そして、ホラーの次にとても小さい棚は

「ラブストーリー」



「コメディ」

です。


今まで1000本以上映画を見てきましたが、僕が唯一ほとんど見ないジャンルがありまして、それが「ラブストーリー」なんですよね。

なので個人的にこの市場の規模感に関してはとても納得でした。

もちろん一括りにはできませんが、女性はラブストーリー好きですが、男ウケがあまり良くないですよね。

僕はディズニー・ピクサー映画が大好きで新作がでたら真っ先に見ますが、『プリンセスと魔法のキス』だけはなかなか見ようとは思えませんでした。


プリンセス?

魔法のキス?

いやーー


実際に、『プリンセスと魔法のキス』は、素晴らしい内容で高い評価を得たにも関わらず、ディズニー社が予想していたほどの収益は得られませんでした。

同社は「プリンセス」を強調しすぎていたために男子層からあまり支持を得られなかったことにあると考え、次作『塔の上のラプンツェル』の原題を『ラプンツェル』(Rapunzel)から『タングルド』(Tangled)に変更したくらいでした。

それだけタイトル(ジャンル)一つで市場が狭くなってしまうのです。


なので、ラブストーリーの棚が小さいことにはすぐに納得できたのですが、

しかし、


「なぜコメディ映画の棚はこんなにも小さいのか?」


これがすごく疑問でした。

だって僕ら世代なら一度は誰もが『ホームアローン』や『マスク』は子どもの頃に見ているはずで、みんな大好きでしょう?

と。



これに関して、友人に映画をオススメしていくうちに、僕の中にひとつ仮説が生まれまして、それが「3年で『映画1000本』鑑賞して気付いたモノづくりをする上で大切なこと」に密接に関わってきます。


とても重要なことなので後述しますが、

まずは先に「TSUTAYAの棚」の大きさについて見ていきましょう。

ホラー→ラブストーリー、コメディーときて、


次に棚が大きいのは、「サスペンス」と「SF」です。

ここからはもうかなり棚が大きくなりますね。

どのTSUTAYAでも誰もが知っているような名作がずらーーーーっと並んでいると思います。

サスペンスなら『バタフライ・エフェクト』や『セブン』、SFなら『ハリー・ポッター』や『ターミネーター』などなど。



そして、TSUTAYAで最も大きい棚を誇るジャンル栄えある1位は同率で、


「ドラマ」



「アクション」


でした。


棚が広いとは需要があるということで、それだけこの2つのジャンルにはファンが多く、お客さんから求められているということです。

僕自身、一番見ているジャンルはぶっちぎりで「アクション映画」でした。



整理すると、

ホラー<ラブストーリー・コメディ<<<サスペンス<SF<ドラマ・アクション

ということになります。



それでは、先程の「なぜコメディ映画の棚はこんなにも小さいのか?」に対する僕の回答としまして、

少し誤解をまねくような極端な表現になってしまいますが、それは


「映画に笑いは求められていないから」


だと考えました。

なぜこの結論に辿り着いたかと言いますと……


映画を浴びるように見始めたこの3年間で、「映画館には一人で行くことにしている」という方と何度も出会っていまして、なぜ?と聞くと、

「映画館には泣きに行くから」

とみんな答えていたんです。

号泣しているのを知り合いに見られたくないので、一人で行くようにしていると答えていました。


それでピンと来ました。

まず【映画館】という場所は「感動」が求められているのだと。

映画館には泣きにいくんです。


さらにそこで僕はハッとしました。

「今日は笑うぞー!」という気持ちで映画館へ行く人を見たことがなかったからです。

僕は大のお笑い好きですが、そんな僕でも「今日は笑うぞー!」と思って映画館へ行ったことは一度もありませんでした。

もちろん「気分的に大笑いしたい!」という日はよくあり、そういうときは、決まってTSUTAYAのお笑い番組のコーナー(またはルミネtheよしもと)へ足を運んでいました。

笑いたかったら、コメディ映画よりテレビのお笑い番組を見た方が笑えるからです。


わざわざ笑いたくて映画を見る人は、僕の知る限りほとんどいなかった。


これが「映画に笑いはあまり求められてない」という意味です。

(※もちろん日本だと福田雄一監督などが作るコメディ映画のファンもたくさんいると思います。昨年の『新解釈・三國志』の出来はさておき、興行収入40億円という点からもヒットしないジャンルというわけでは決してありません。

そもそも人々は「笑い」を求めています。ただそれは映画監督よりお笑い芸人に求められるもの(期待されるもの)であり、映画に笑いがうまくまぶしてあれば、お客さんは美味しく召し上がってくれるということです)


ところで、僕はこの「泣きにいく」という感覚はわかるけどわからなくてですね、というかこれを言っているのはほぼ女性なんですよ。

おそらく泣くことでカタルシスを得られやすいのが女性で、

じゃあ男である僕は何のために映画館に行っているかというと、これはもう明確に理由がありまして、それは


「ハラハラドキドキさせられたいから」


です。

ヒリヒリとした緊迫感やスリルを味わいたいんですよ。

だから映画館で見るジャンルはアクション映画かスリラー(サスペンス)映画に限ります。

(個人的にホラー映画は夜中に一人で家で見るのが一番怖いですが)、あのハラハラドキドキによる圧倒的な「没入感」は映画館でしか得られません。


以上のことから、【映画館】には「感動とハラハラドキドキ」がより求められていると僕は考えました。


(もちろん名作映画はハラハラドキドキと感動の両方が入っていて、またジャンルの混合は多々見受けられます。

例えば、『マスク』はコメディでありラブストーリーです。昨年流行った『フリー・ガイ』はアクションでありコメディでありアドベンチャーでもあります)

(「ハラハラドキドキ」とは細かく言うと、好奇心、驚き、期待、緊張、恐怖、興奮、などの感情のことを指しています。

またここで言う感動は「泣き」以外にも「共感」「同情」「元気になれる」「幸せな気持ちになれる」などの意味合いも含んでいます。

が、ここではわかりやすく理解してもらうために、「ハラハラドキドキと感動」の2つにざっくり分けさせてもらっています)



さて、結局、何の話をしてるんだ?と思ってきたかもしれませんので、ここでまとめに入ります。

これまでTSUTAYAの棚(ジャンル)の話をしてきましたが、

例えば、BOOK・OFFで立ち読みしたことのある人ならわかると思いますが、BOOK・OFFの「漫画」は出版社別で、あいうえお順で並べられています。

なので例えば「週刊少年ジャンプ」作品はひとかたまりにされているので行けばすぐにわかります。

しかし「映画」(TSUTAYA)はそうはなっていません。


"ジャンル"で分けられているのです。


では、なぜこの映画の「ジャンル」というものが大事なのか?


それは、

これから映画を観ようという人に期待できる「感情的体感」を示唆できるものだからなのです。


コメディなら、笑わせてくれることが期待されます。ドラマなら胸に響く感動を、サスペンスなら、本能的なスリルが、緊張感溢れるプロット、ショックと驚きに満ちた捻りが期待されます。

そんな体験を求めて、僕たちは映画館へ足を運ぶのです。

ジャンルがわかれば、映画を観る前からどんな内容が期待されるかもわかります。

だから「映画館には泣きに行く」ことが可能なのです。


「映画は『感情的体験』を提供している」


という意味がだんだんと理解できてきましたでしょうか?



英語で「感情」という言葉の語源はラテン語の「心を乱す」です。

映画監督の役目は、観客の心を掻き乱すこと。

僕たちは映画館で、平穏無事な現実世界を忘れさせてもらい、違う世界に没入させてもらいたい。退屈な日常から連れ去って、無理やり撹乱させてほしい。

それこそが映画を観る人が望むことであり、映画館が提供しているものなのです。


「どんな映画が好き?」と聞くと、

●女性が活躍する
●動物のパニック映画
●ひどい環境にいる人に感情移入して自分の辛さなんてちっぽけなものって思えるような人間関係のドロドロしたやつ

など、いろいろと具体的に言われてきましたが、根本にあるのは「好奇心」「驚き」や「憧れ」「共感」「同情」などといった【感情】だったのです。


この「感情的体験」を映画という形で綺麗に包装して販売しているのが映画館の正体であり、映画館では「人間の感情」を売っているのです。


その中でも特に人気なのが「ハラハラドキドキと感動」だと僕は思いました。

なので、映画製作をしていない方でも、何かモノづくりをしている方なら、この2つの要素をいかにして自分の作品の中に取り入れるかを考えてみることが、お客さんに喜んでもらうための第一歩になるでしょう。


では、どうすれば読者の「ハラハラドキドキ」という感情を掻き立てることができるのか?

長くなってきたのでもう詳しくは書きませんが、一つは、

「謎を提示し、少しずつ解明していく」

ですね。

僕たちは知っていることと知りたいことの間にギャップできたとき、それを埋めようと試みます。

「好奇心の隙間をつくる」のです。


この世でただひとつ、決して古びず、誰しもが理解することのでき、年齢を、貧富の差を、国境を超えていく「感情」こそが我々人間の共通言語であり、

この【感情の設計】こそがモノづくりをしているクリエイターにとって必要不可欠なことだったのです。


これが映画1000本鑑賞して僕が気付いた大切なことであり、もっと言うとこれらは映画に関わらず、

本、漫画、テレビから、またディズニーランドやUSJなどのテーマパークといったあらゆるエンターテイメントにおいても通ずることでもありました。


例えば、ディズニーランドでは、アトラクションに乗る前には、「期待」という感情がしっかりと設計されています。

例えば、各アトラクションの「待ち時間」がわかると思うのですが、実はこの待ち時間は予想される時間よりも「長め」に設定されています。

なのでよほどトラブルがない限り、待ち時間が「2時間」だった場合、2時間より早く乗れるようになっています。

このおかげでお客さんは「思ったより早く乗れた!」と満足度が上がるのです。

実際に、「ハリー・ポッター」のアトラクションができたばかりの頃、僕はUSJへ行ったのですが、

確か「5時間待ち」くらいだったんです。

長めの映画2本分です。長すぎます。

それだけにこれに乗るかどうか、そこそこ揉めたんですよ。

10人くらいで行っていたのですが、多数決をとってもちょうど半々くらいで、意見が割れに割れたんです。

ちなみに僕は乗らない方に一票入れたのですが、10分くらい話し合った末、結局、意を決して渋々並ぶことになりました。


ただ、これが驚くほど待たなかったんです。


たぶん3時間半くらいだったと思います。

「うぇえええええいいいい」

この時の僕たちのテンションの上がりようといったら。

当時は「予想される待ち時間より長めに設定されている」なんてこと知らなかったので、まんまと乗せられましたね。いろんな意味で。

ちなみに最近知って僕が一番「へぇー!!!」となった【感情の設計】の方法は、西野亮廣さんの絵本『えんとつ町のプペル』のミュージカルでの話です。

『プペル』の世界観では、空は煙に覆われていて誰も星を見たことがなく、そしてそれが当たり前の世界なので煙の向こうにある(かもしれない)星空を見に行こうとは誰も思いません。

それだけに「星空を見上げる」というとても重要なシーンが後半に出てくるのですが、

西野さんは、ここでお客さんがプペルの登場人物たちと一緒になって劇場で星空を見上げたときに「神聖な気持ち」になった方がいい、なってほしい、と考えました。


ではどうすれば、神聖な気持ち(感情)になってもらえるのか?


そこで、「そもそも屋久島など深い森に入ったとき、なぜあんなにも人は神聖な気持ちになるんだろう?」と考えたそうです。

マイナスイオンが出てるのかな?など考えた末、行き着いた答え(仮説)が、シンプルに


「温度が低い」


だったそうです。

温度が低くなった瞬間に、人はすごく神聖なものを見た、あるいは神聖な空間に来た、という感覚になることを発見しました。

だったらば、これを自分の舞台でも応用しようと、台本で「いついつのタイミングで空調の温度を下げる」という演出を加えたのです。

もちろん、どのタイミングで空調を下げ始めたら、何分後にどれぐらい寒くなるのかの計算も完璧にやった上で、です。

そのおかげで『プペル』の最も重要なシーンである「星空を見上げる」で、お客さんはより「神聖な気持ち」(感情)になることができたのでした。


自分の感情の針がバンッと揺れたとき、「なぜこの空間、または作品が面白かったのだろう?」と分解して考える。そして応用する。

これが【感情の設計】の方法です。


このように表面的な側だけではなくもっと根源的な「感情」に着目することによって、どんなジャンルのエンターテイメントからであっても、学ぶことはでき、作品をより面白くすることは可能だったのです。

(これらは自己啓発・ビジネス書であったとしても応用可能です)



「感情」は抽象度が高く、「感情的体験」についての説明だけで文字数を大幅にとられてしまったので、肝心な【感情の設計】の仕方についてあまり深く書けませんでしたが、文章を書く上でもとても大切なことなので、またいずれどこかのタイミングでしっかり書けたらなと思っていますが、

最後に、「なぜ感情が重要なのか?」という問いに簡潔に答えておきますと、


「人々を行動へと駆り立てる力があるから」


です。


どんなジャンルのエンターテイメントでも目的は煎じ詰めれば一つだけだと思います。

それは

「人の心を動かす」

です。


退屈で平凡な日常を忘れさせてくれるくらいのハラハラドキドキとした没入感を、または、つまらない現実に夢と希望を与える体験を提供することこそがエンターテイメントの役割です。


しかし、人の心は数字や統計では動きません。

エビデンスを提示すれば説得できる、納得してもらえると勘違いしている人がいますが、それはまったくもって違います。

人は「感情」で動くのです。

エビデンスではなくエピソード(物語)が求められている、と言い換えることもできるでしょう。

感情(物語)には人々を行動へと駆り立てる力がある。

そのために、コンテンツを消費する側ではないクリエイターには【感情の設計】が求められるのです。

これこそがお客さんの満足度を上げるために最も重要なことであり、教養・ビジネス書を読むだけでは気付けなかった、映画1000本鑑賞して、僕が一番勉強になった大切なことでした。



 
 
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📖ここからは〝森井書店〟のお時間です📖

✏記事の内容に合った「10年後もあなたの本棚に残る名著」を愛情たっぷり込めて紹介するコーナーです✏(vol.6)

今回のテーマは「感情の設計」ということで、紹介する名著はこちら!

『アイデアのちから』(チップ・ハース+ダン・ハース)です!

今回この記事を書くにあたって、参考文献として数年ぶりに読み返してみたのですが、あらためて良い本だなぁと思いました。

出版当時、業界内でかなり話題になっていたのですが、2008年に出た本でして、一周回ってもう若い人は知らないかも?と思ったので、こちらをチョイスしてみました。

前回、この"森井書店"でもマルコム・グラッドウェルさんの話をさせてもらいましたが、グラッドウェル本が好きな方ははまること間違いなしです。


本書曰く、記憶に粘りつく(記憶に残る)アイデアには「6つの原則」があると言います。

それらがたっぷりの事例とともに解説されているのですが、概略が載っている「はじめに」の40ページを読むだけでも買う価値はあります。

その6つの原則の一つが

●感情に訴える

です。

感情に訴えるとは何なのか?
具体的にどうすればいいのか?

そこの詳細な説明は本書に譲りますが、今回の記事でさんざん【感情の設計】が大事だと書いてきましたが、

一般の方がいきなり「感情の設計をせよ」と言われても実践が難しいと思うので、僭越ながら僕から言えることは、

まずは

「自分の感情に自覚的になる」

です。


これが基本にして最重要なことであり、

「自分の感情の針が『バンッ!』と振り切れたところをメモする」

ことをオススメします。

(そして「なぜ自分の感情が揺れ動いたのか」を考え、要素分解をし、「自分の作っているものに応用する」のです)



ちなみに僕のネタ帳は

●感動した話
●驚いた話
●すべらない話
●ビジネスで使える話(その他もろもろ)

ざっくりこの4つに分類してまして、自分の感情の針が揺れ動く度にこのどこかにメモするようにしています。

(詳しく書くと「驚いた話」の中に、驚き以外に、怖さ、サスペンス、狼狽などに分かれていて、「感動した話」の方には、感動以外に嬉しさや楽しみなどに分かれています)

僕はこれを大学生の頃から続けていまして、いつも文章のネタはここから生まれています。



余談ですが、

先ほど、【感情の設計】は映画以外のあらゆるエンターテイメントで必要不可欠なことだと書きましたが、

これは「人間関係におけるコミュニケーション」でさえも同じことが言えます。


学生の頃、女の子とろくに話すこともできなかったコミュ障だった僕が、

女子と仲良くなれるようになり、先輩から可愛がられ、後輩からは慕われるようになるために、

いわゆる"コミュ力"を上げるために、

最も効果的だった方法は、


「相手にされて感動したことを、ちょっと自分の色を加えて、そのままやる」


でした。


例えば、大学1年生の頃に、サークルの飲み会で一瞬話しただけなのに3年生の幹部の方が僕の名前を覚えてくれていまして、それが当時の僕にとってとても嬉しかったんです。

だから上級生になったら絶対同じことをしようと、

「人の顔と名前は一度で覚える」

を徹底しました。

すると、僕の学年の引退式の日に、1年生の後輩から「入ったばかりの頃、森井さんから一度で名前を覚えてもらえてすごく嬉しかったことを今でもよく覚えています」とメッセージをもらうことができました。ちゃんと伝わっていたのです。

恩送りではないですが、感動したことは感動したまま終わらせずに、違う人にぜひやってみてください。

(ちなみに記憶に粘りつくコンテンツ「6つの原則」のもう一つは【意外性がある】です。これは感情で言うと「驚きと関心」であり、いわゆる人間関係における"サプライズ"にあたります)


さて、「自分の感情に自覚的になる」に話を戻しますが、

じゃあもっと具体的に、最近、僕は何をメモしたかと言いますと、例として不適切かもしれませんが、


彼女の白トップスの

「下着透け防止が透けてる」


です。

先月のGWに彼女とララポートへ行ったんです。そこでたまたま下着屋の前を通ったので、少し見て行きました。

恥ずかしい話ですが、僕はこういう派手めなのが好きだと伝えると、

「私は基本的にキャミソールもいつも黒で、透けたりブラ紐が肩から見えたりしたら嫌だから派手な赤とかは絶対買わないの!」

と力説された矢先、

ちらっと服に目をやると、彼女が着ていた白いトップスには胸の部分に下着透け防止がしっかりと付いていまして、

ただそれが、

めっちゃ透けてた



んです。


「いやいやいや、そんなこと言うてるけど、まず下着透け防止が透けてるやん」って話になりまして、

これなんか笑っちゃったんですよ。


しかもちょっと遠目から見ると、ブラジャーが透けてるように見えるんです。

本末転倒もいいとこですよね。

力説どこいってんと。



これは、いわゆる

「『こうすれば必ず売れる!』と書かれたマーケティング本がまったく売れていない」

「ダイエット本の著者が現役のむっちゃデブ」

みたいな話だなぁと思いました。


なんせ、この服を作った人は

「透けないを目指した先が透ける」



に辿り着いたわけですからね。

『プロフェッショナル 仕事の流儀』に取り上げられた職人さんが「透けないを目指して今まで20年やってきましたが、結局、透けない先には透けが待っていました」って語ってそうですよね。これが真理だ、的な文脈で。

「透けない先は透け」て。



だんだん「一寸先は闇」みたいなことわざのように思えてきて、それが無性におかしくて二人で笑っちゃったんですよ。

だからGWのデート終わり、帰りの電車で最初にメモした話がこれだったんです。

じゃあこの話が何の役に立つんだと思うかもしれませんが、

それはもう本当にその通りで、「お前は変態か、なんでこんなことメモってるんだ」と言われたら、完全にぐうの音も出ないのですが、

ただ、

それでもここで思わず書きたくなってしまった話は、役に立つ話でも、ハーバード大学のえらい教授が実験した話でもなく、この


ララポートにある下着屋・PEACH JOHNの前で見つけた彼女の白トップスの

「下着透け防止が透けてる話」

だったんです。




もっと言うと、この記事を読み終えた時、あなたの頭の中に残っているのは

「感情の設計」

ではなく

「下着透け防止が透けてる話」

だと思うんですよ。




なぜ思わず話したくなってしまったのか?

なぜ記憶にこびりついて離れないのか?




その理由は本書を読めばきっとわかるはずです。



■関連記事

なぜ映画が苦手でほとんど見たことのなかった僕が映画を浴びるように見始めたかについては、ここで詳しく書きました。

自分でハードル上げるようで大変恐縮ですが、こちらの映画記事はかなり評判が良いです。この記事以来、約1年ぶりに「映画」について書いたのですが、正直、去年を超えられませんでした(笑)

良かったらこちらもどうぞ!
 
 
 
■参考文献
『「感情」から書く脚本術』(カール・イグレシアス)

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