ヒノマルソウル!

ヒノマルソウル観てきました!
めちゃめちゃ泣いた……!!!

※以下、ネタバレ有りの感想なので、大丈夫な方だけどうぞ。



正直オリンピックイヤーに合わせた、オリンピック賞賛の映画なのかなと思っていた。でも実際は全然違った。

冒頭のリレハンメルオリンピックのシーンでは記者会見で原田選手が執拗に責められるし、西方の実家では親や地域の人たちが「やっぱり金じゃなくちゃねぇ」とあからさまにがっかりする。
ジュリー(審判団のことだそうです)は危険な天候の中でテストジャンプをさせる決定をするし、スキー連盟の偉い人たちもそれに反対しない。
テストジャンパー達が選手のために一生懸命ジャンプをしていても、それを知らない観客は「いつまでテストジャンプなんてやってるの?」と苛立っている。

ただ取材に来ただけ、ただ見ているだけの人たちの、なんと身勝手なことか。
オリンピックの栄光の影で、裏方がいかに無理な要求を突きつけられているか。

アスリートの目線で描かれる、こうした雑音や軽視に主人公と一緒に辟易していたので、田中圭さん演じる西方仁也の
「俺たちはモルモットじゃない!」
というセリフに、その通りだ!と震えたし、古田新太さん演じる神崎コーチがスキー連盟の偉い人たちに向かってきちんとお断りをしたところもめちゃくちゃかっこよかった。

でも同じテストジャンパーである、小坂菜緒さん演じる小林賀子は「飛びたいです」と言った。
その気持ちもわかる。
メダルのかかった局面で、テストジャンプ次第で競技中止か継続かを決めるなんてことを聞いてしまったら、断ったとしてもジャンプを失敗したとしても一生後悔するだろう。
この場面、ジュリーが本来すべき判断をテストジャンパー達に丸投げしているように見えて、やり方が汚い……!と腹が立った。

でもその印象を変えたのも、小林だった。
「わたしは、わたしのために飛びます」
国のためでも、金メダルのためでも、スキー連盟のためでもなく、自分のために飛びたい。

長野オリンピックの頃にはまだ、女子のジャンプ競技がなかった。
男子選手たちが出場枠を争ったり順位を競ったりしている中、小林はずっと一人で、もっと手前のところで戦っていたんだ。

小林の言葉を受けて次々と手が上がり、結局全員がテストジャンプをすることになる。
どういう順番で飛ぶのがベストであるか円になって相談する姿は、まるで団体戦の選手たちだ。
できあがった輪に西方は入れずにいるけれど、仲間たちは「アンカーは西方さん以外いない」「僕たちが道を作ります」と言葉をかけてくれる。
西方は円陣にも参加せず、かと言って断りもせず、テストジャンプが始まる。

怪我の経験から飛ぶことが怖くなってしまった眞栄田郷敦さん演じる南川、張り切りすぎて一度転落している小林、聴覚障害があるけれどいつも楽しそうに飛ぶ山田裕貴さん演じる高橋。
みんなそれぞれに物語があって、それぞれの想いを抱えて飛ぶ。

西方は自分の気持ちは一旦傍に置いて、飛ぶ直前の彼ら一人ひとりに声をかける。
みんなすっきりとした顔をして、応えてくれる。

ヒノマルソウルでいきますよ!と組んだ円陣に西方は参加しなかったけれど、誰も彼をのけ者にしたりはしない。
それはこれまで西方が、自分の問題が片付いていないにもかかわらず、後輩たちの相談を親身になって聞いていたからだ。
モヤモヤを抱えたままジャンプ台に登った西方は、飛んでいく仲間たちを送り出し、コーチと対話して、やっと飛ぶ理由を見つける。

予告にある「俺が日本に金を取らせます」なんてセリフは出てこない。
西方は、友人でありかつてのチームメイトである、原田選手のために飛んだのだ。
誰に命じられたわけでもなく、自分で出した答え。

観客の声援はない。
でもそのかわり、仲間たちが待っている。
非難轟々の観客席の前で、歓声をあげて大喜びするテストジャンパーたち、ガッツポーズをする西方。最高だ!

そして原田選手もまた、西方や、代表入りしたものの団体戦に選ばれなかった落合モトキさん演じる葛西選手のことを想いながら飛んでいた。
テストジャンパーが飛んでいるとき、団体戦の選手たちがみんな窓際に集まって見守っていたのが印象的で、団体戦とテストジャンパーの二つのチームもまた仲間なのだなと感じた。

結果は史実の通り。
でもこの舞台裏の物語を知ると、あの有名な原田選手のインタビューが全く違って聞こえる。


この作品はオリンピックや、国のために頑張ることを称賛する映画ではない。
外野のうるささに負けずに自分たちのために戦った、表舞台の歴史からは見えない一人ひとりの物語だ。

テストジャンパーだけでなく、土屋太鳳さん演じる西方の妻、幸枝や息子の慎護くん、そして西方のリハビリを懸命に支えていたトレーナー……
目立たないところで頑張っている人々が、尊敬の眼差しをもって映されていた。

とにかく登場する人たちがみんな魅力的だ。
西方の面倒見のよさがわたしの中の田中圭さんのイメージにぴったりで、悩みながらも誰かの相談に乗って、自分の答えも出していくところがすごくかっこよかった。
山田裕貴さんの演技もとてもチャーミングで、重くなりがちな空気をほぐしてくれた。ウイスキーのくだりはもう全部最高!
チャラそうに見えて実は恐怖を抱えている眞栄田郷敦さんの目の演技が素敵だったし、小坂菜緒さんの小林にも心を打たれた。
神崎コーチのスパルタも、幸枝さんのしなやかな強さも、慎護くんの「マグロ…」も。みんな好きだったなぁ。


舞台裏の英雄は、オリンピックに限らず今もあちこちにいて、いろんなことを支えている。
これからの生活の中でも、そのことを忘れずにいたいなぁ。そしてできることなら、わたしも誰かの舞台裏の英雄になりたい。
スタッフロールを見ながらそんなことを考えた。