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ただの酒好きが日本酒造りを初体験 その感想と気づき

大学入学後早々にお酒を好きになり、ネカフェバイト中に読んだ「神の雫」でワインに興味を持って酒屋へ就職。そこでもらった日本酒サンプルから日本酒にはまり、その知識は転職した営業時代に接待などで役にたった。そしてライターとなった現在、運良く再び日本酒の世界に関わることができている。

蔵見学や書籍などを通じて日本酒の造り方はざっくりと理解していたが、実際の作業に携わったことはない。造りのシーズンに蔵へ入ったこともない状態だった。

そんないち消費者が先日、「酒蔵体験実習」として1泊2日の造りに参加。「百聞は一見にしかず」を肌で実感することになったので、忘れないためにも簡単にまとめておく。


酒蔵体験はFBO(利酒師を認定する団体)を主催として全国各地の蔵で実施されている。今回私が参加したのは兵庫県姫路市に蔵を構える「本田商店」。「龍力」という銘柄で有名な酒蔵だ。1番家から近いという単純な理由で選んだが、とても良かったと感じている。

実施する蔵によって体験できる作業が異なり、本田商店では特A地区産山田錦を使用した大吟醸造りが目玉。13時に集合し、蔵元からの説明を受けてから実際の作業に関わる事になった。

10キロ以上のお米を発酵タンクまで運ぶ!

お米って家でも重量を感じる食品。酒蔵ではそれを数百キロ単位で扱うので、重労働になって当たり前だ。

お米を洗って→蒸して→冷やして→運ぶという一連の作業に参加したが、「運ぶ」がとにかくエグかった。

蒸したてのお米
冷却器で冷やす
この網に付いたお米を取る作業も大変
冷やされた蒸米がひたすら出てくる
パチンコの大当たりのよう
タライ経由でタンクに投入する
万が一タンクに落ちると大事故になってしまう
単純なようで気を使う作業だった

冷却器から延々と出てくる蒸米を手分けしてタンクまで運ぶ。蔵の構造によって異なるが、今回参加した本田商店では冷却器からタンクまで50m?くらいの距離があった。タンクも大きいので、最後は階段という仕様は大体どこの蔵も同じ。

体験者ということで量は優遇してもらった感もあるが、それでも軽くはない。10キロくらい?の蒸米を何度も運ぶ。

仕込みによって異なるが、その時は300〜400キロ程度を蒸したと言っていたので、単純計算で10キロだと30〜40往復しないといけない。これも6人くらいでやり、確かに合計でそのくらい移動したように感じる。

蔵見学ではよく「ここからお米を運ぶんですよ」と聞く。これまでは「へ〜」だったが、「めちゃくちゃ大変ですね…」に変わった。今後はタンクまでの距離、導線も見るようになるだろう。

麹室での作業は想像以上に大変

日本酒造りは「一麹、二酛、三造り」と言われるように「麹」造りが重要と言われている。

麹菌と呼ばれるカビの一種を蒸米に繁殖させるため、作業する場所は高温多湿。人間ではなく麹にとって心地よい環境で作業を進めることになるのだ。

この中は麹のための空間

教科書的に温度は32〜38度程度といわれている。今回体験させてもらった麹室の温度計は38度を指していた。ほぼマックス。そこで麹の世話をするわけだが、これが想像以上に過酷だった。

100kg近いお米が広がっており、そこに麹菌を振りかける。その後にお米全体に胞子を混ぜ合わせる「床もみ」をするわけだが、これが超大変。作業と温度でめちゃくちゃ暑い。そして量多いので結構時間かかる。体験者4人と蔵人の6名程度でやったが10分以上かかったのではないか(体感)?

杜氏さんいわく、「一人でやる」時もあるそう。なんてこった。

そこからいろいろな作業があり、夜7時半に「仕舞仕事」と呼ばれる1日の締め作業に参加。そこから夜通しで麹の温度管理を交代制で行うらしい。これを毎日。半年間。すごすぎる。

麹造りの工程、順番は覚えるのに苦労したが、今回の体験で深く記憶に残ることになった。丁寧にしなければいけない作業なのに、暑い室内でおこなわれるという過酷さ。「暑くて大変らしい」というぼんやりとしたイメージから、「めちゃくちゃ大変な作業。心から感謝」に変わった。

これは「全自動製麹装置」
機械を使った麹造りも決して楽ではなかった

日本酒はお米を使った伝統工芸だ!

蒸したての米の感触、限定吸水、さばけの良い麹米の手触り、香り、味など他にもたくさん印象に残った作業はあるが、1番衝撃だったのは上記の通り「蒸米運び」と「麹作業」。体験翌日は無事、筋肉痛になった。ありがとう。

日々何気なく飲んでいる日本酒の全てがこうした作業を経て、自分の口に入ってくると思うと感動する。たくさんの人の苦労があって生み出されているんだなと実感。

本田商店の蔵元、杜氏、蔵人全員がとにかくいい人だったのも印象深い。冗談交じりに作業を教えてくれる杜氏さん達(ここには2名杜氏がいた)は親しみやすく、まさに「和醸良酒」を体現しているようだった。

また、体験に訪れたタイミングは毎年行われる「全国新酒鑑評会」へ向けた銘柄選定が終わった翌日だった。これまで鑑評会については結果を見るくらいで、個人的に大きく興味を持っていなかった。しかし、蔵の人達が鑑評会にかける想いを知り、これからはしっかりと確認しようと思えるようになった。

いい意味でおちゃらけた雰囲気で話す杜氏さんが「鑑評会で金賞を取れると涙がでる。苦労が報われたような気持ち」と言っていた姿が忘れられない。

こんな作業を大昔から、しかも全て手作業でやっていたと思うと驚愕する。日本酒は米を使った伝統工芸といっても差し支えないだろう。芸術品にも近いかもしれない。

お金を払って働かせてもらうという不思議体験でもあったが、かなり有意義な2日間だった。また機会があれば参加しようと思う。

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