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語り継ぐもの〜パワスポ小説(小樽ストーンサークル)

結構前のことだ。
大陸でウィルス性の病が流行ったため、その国にある長い城壁を見に行けなくなった観光客たちが、その代わりに日本の北海道の片隅にある、小さな縄文遺跡を見るために、小樽に来ているらしいとニュースで見た。
小学生の頃、課外学習で担任に連れられて行ったその遺跡が懐かしくて、私は数十年ぶりに見に行った。

その縄文遺跡は3000年以上前からそこにあった。
東日本で一番大きいと言われている、平地にある広がるストーンサークルを見たあと、もうひとつの小さな丘の上にある遺跡を見に行った。

粘土質ですべりやすい赤茶けた山道を登り、どんぐりをたくさん踏んづけながらてっぺんまで行くと、背の高い木々がストーンサークルを覆い隠すように囲んでいた。

こんな小さな看板しかない山
この奥にそのストーンサークルはあります

頂上に立った。懐かしい感情が浮かんでくる。
子どもの頃に一度来たからじゃない。それよりももっと遠い昔に、ここを知っているような気がした。

薄緑色のやさしい風が吹いた。
私たちを歓迎するように穏やかに梢が揺れていた。
山頂は狭く、石もそれほどたくさんない。見るものが少なかったため、一緒に来た子どもたちは飽きてしまい、さっさと山を下り始める。それを追うように山を降り始めた瞬間だった。

「語り続くものよ」
突然誰かにそう呼びかけられた気がした。
立ち止まり振り返ったが誰もいない。不思議なぞわぞわする気配がして高い梢を見上げた私の目に、シャボン玉を細長くしたような白い光の塊が見えた。いいえ、見えた気がした。
目を凝らしてみても、現実の目にそれは映っていなかった。
けれど私の瞳の裏側にありありと、真っ白な光に包まれ、大きな羽の生えた女神のような存在が見えた。
天使とはまた違う。アニメで見るような、別の星から来た未来の何かみたいだった。

妄想なのかどうかはわからない。だが、私の瞳の奥の中で、木の上に女神が立っていた。女神かどうかはわからないが、白い光に包まれて、女神みたいな存在としか言いようがない姿だった。

女神の意識のようなものが私の中に入り込んでくる。

それは一瞬の出来事だった。宇宙の星が瞬く刹那に、私の中に誰かの人生の全ての記憶が入ってきた。
いや、それは、入ってきたのでは無い。もともと私の中にあったのだ。けれど封印されていたかのように、閉ざされた箱の中に入っていた。その箱の扉が突然開いた。
それくらい当たり前に、突然に自分の記憶になっていた。

正確に言うと、自分の記憶ではない。それは、現在生きている私の体験ではなかったから。時代も役割も全く違う。生きる環境も全然違っていた。

彼女は、いいえ、私はかつてこの場所で生きていた。
遠いはるか昔、私はこの地で生まれ、巫女となるよう定められた。
運命の夜に女神と出会い、一気に能力が開花した。

巫女として生きた時も女神から言葉を授かった。

「もうすぐこの地に海の向こうから、誰の物でもない大地に勝手に線を引き、自分のものだと所有しようとする者達が押し寄せてるでしょう。悲しきかな彼らは殺戮を好み、自分たちの進む道の邪魔になるという理由だけで、命を奪うこともいとわない、そんな存在なのです。今すぐにそのことを村の人々に伝え、この場所を守るのです」
というものだった。

けれど私に力がなかったのか。人々は聞き入れてくれなかった。

殺戮を好む者が来る前に、私の話を信じてくれた人たちと共に、長い旅に出た。女神の伝えた場所に行くと、海に白と黒の大きな生き物がいて、わたしたちの進むべき道を教えてくれた。
山や森を超え、海を渡り、長い旅路の果てに私たちはある場所にたどり着いた。
私たちはそこにとどまり、小さな集落を作り、寿命を全うした。
そこは、この国ではなく、もっと北にある、違う民族が暮す場所だった。
かつて生きた場所に実際に殺戮を好む者が海の向こうからやってきたのかどうかは、彼女は知らないまま生涯を終えた。

それから何千年もの時が流れ、かつて巫女として生きた少女が暮した場所に再び生まれた。
少女が儀式を行っていた特別な山に行くことで、私は大地に埋め込まれた鍵穴に足を踏み入れてしまったごとく、すべての記憶の扉が開いた。

巫女として生きただけではない。
時には自由を完全に奪われ、何も希望を見いだせないまま死んだ奴隷だった。
また時には高い岩山を超えて飛んでいくイーグルを見て、自由になりたいと願う、居留地のインディアンだった。
不思議なことに、なぜか自由を奪われている人生が多かった。

そういえば、今だって自由なんてなかったな。
そんな風に困惑する私に、最後に女神はこう言った。

『閉じ込められた肉体の中で、これからもあなたの魂は多くの経験をしていくことでしょう。行きたい場所にいけず、望まぬ場所に留まらなければいけない理由がわからず、苦しむ日もあるでしょう。
ですがその呪縛から解き放たれる日は必ず来るのです。
強い風が吹く時代、あなたの魂は自由となり、やがて世界を駆け巡るのです。
その日が来るまであなたは、苦しい中でも見ることを諦めず、痛みの中でも感じることを忘れず、虐げられても語ることをいとわず生きていくのです。

語り継ぐものよ。
この星が生まれた時からの記憶を全てその中に止め、世界を駆け巡り語り継ぐのです。
この星がなぜ生まれたのか。
この星をつくった神々がどのような思いでいたのか。
神々がどれほどあなたたちを愛しているのか。
その全てを語り継ぐのです。

語り継ぐものよ。
その足で立ち、その目で全て見てくるのです。
そして、次の人たちへと語り続けるのです。

さあ、安心してあなたの人生を生きなさい。
わたしたちはいつもあなたを見守っているのですから』

そんな大げさな台詞を伝えて女神は消えた。

あれは幻だったのか。
それとも、いにしえの時代を実際に生きていた古代の人たちの記憶の断片だったのか。
真実はわからない。

だけどわたしはわたしの人生を歩いていく。
そして見たこと感じたことを、確かに語り継いでいく。
それで十分だ。

そう微笑んだ時、山を守るように茂る木々の梢が再び優しく揺れた。

小樽のとある場所にある、実際に存在する手宮洞窟の壁画のレプリカ

2005年のサーズが流行っていた頃に小樽のストーンサークルに行きまして。
その時に一瞬見えた妄想を元に描いた小説があるのですが。
(この下にその縄文ファンタジー小説のリンク貼っておきます)
こちらは、その縄文小説を書いた現代人の視点で書いた、ファンタジー風のモノローグです。



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