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あり得ない日常#57

「いいかもね。ちょっと考えていい?」

 急いではいないようですが、返事は出来るだけ早く欲しいそうです。
由美さんから聞いたままを伝える。

 由美さんの活動を応援する人は少なからずいるが、その人たちの中に後継ぎがいないので事業を引き継いでくれる人はいないかという話をしている人がいた。

 長らく自治体のごみ収集事業を請け負ってきたが、自身が高齢になるにつれて誰かに譲れたらと考えてきたそうだ。

 いち従業員としての立場をあくまで出ない社員に譲るわけにもいかない。要は、混乱なく引き継いでくれる経営者を求めていた。

 その話を新たに何かを作る必要があるかもしれないと言うわたしに、ちょうどいいと話をしてくれたのだ。


「うちの会社でやるにはちょっと手続きがいるけど、二千万か。」

 譲り受けるには高いのか安いのか、わたしにはさっぱりわからないが、社長から「わかった、連絡しておくね」と返事をもらったので、そのまま由美さんに伝えておくことにする。


 ゴミの回収もドローンを使って自動で出来ればいいのに。
小さな荷物の戸別配送がようやく実現したばかりなのにそんなことをついつい考えてしまう。

 配送の仕組みは簡単で、カバンに着けられるアクリルキーホルダーのような専用電子タグを、各々届けて欲しい場所に置いておくだけだ。

 それぞれに専用の複雑なナンバーが割り当てられていて、ウェブで登録すると荷物がどんどん到着する仕組みになっている。

 さっさと届いた荷物は回収しないと上に積まれてしまったり、配送不可で持ち帰られてしまうので気をつけておく必要がある。一番良いのは、より広い場所を用意しておくとしばらくは大丈夫だろう。

 ウェブで通知先の端末を指定できるので、荷物が到着する前には連絡が入る仕組みになっている。

 マンションだとバルコニーがあれば十分かもしれない。
雨対策が施してある荷物は運んでくれるが、それ以外は天気が良くないと運んでくれない。

 安易にビニールを用いるのも気を遣う時代だ。
処分するのは簡単だが、燃やすと必ず二酸化炭素と水が発生する。

 これ以上の気候変動にさらされることを人類の誰もが恐れる世界になってしまった。


 さて、重いものは従来通り配送の人が持ってきてくれる。

 大きな要塞のような集合住宅の建設が計画されているが、そこに皆住むようになれば、そういう手間もなくなるのかもしれない。

 地球の重力は思うより強力で、ちょっと重い物を持ち上げて運ぶだけでも大変な労力が必要だ。

 だから、同じ仕組みでゴミの収集となると急に難しくなってしまう。
基本的に荷が重くなる傾向があって、重量もバラバラで事前に把握しずらく、結局は人の手で回収することになるからだ。

 まだ実験の域を出ていないらしい。そんなわけで、鉄の塊の自動車が自由に空を飛びまわるのも、まだ難しいだろう。

 気候変動のもう一つの立役者である水蒸気の塊、大きくはっきり山の上にそびえ、浮かぶ入道雲を背景に、決められた軌道を飛ぶドローンの列を見上げながら、いつも一人で入り浸っていた自分の拠点ホームに向かう。

 うわあ。これは強めの雨が降るかもしれない。


 今日は藤沢さんがいる。

 実はもう一つ社長に話してきたことがあった。
その内容を伝えることと、これからを相談をする必要がある。

 ほかの拠点と比べればそりゃ規模も小さいし、何しろ一人で何とかなるくらいだから大したことはない場所だ。


 だけど、居心地も良ければ中身もそれなりにきちんと整っているはずだ。
それだけ自信を持っているし、わたしにとっては大事な場所のひとつだ。

 今では藤沢さんに取られた気分だが、こうして代わりにきちんと作業をしてくれると考えると悪くない。

 いい人で良かったなと淡々と作業をしていた藤沢さんが、玄関から入る私を目にすると、おかえりなさいと返事をもらった。


 この話は由美さんにも協力してもらったら、早いかもしれない。

 人は何らかのストーリーを好むらしい。
もちろんそうじゃない人もいるだろう。

 紙の本がすっかり貴重なものになってしまった今、子供も含めてすっかり電子端末に当たり前に慣れてしまった。

 小説やライトノベルは昔からあるし、ノベルゲームもおそらくたくさんあるだろう。

 もっとボリュームを持たせたらどうなるんだろう。 

 シナリオを読み進めていくうえでそれぞれで選択してきた結果に応じた、とんでもなく分厚っいストーリーをひたすら楽しめるようなものがあっても面白いのではないか。

 藤沢さんに一緒に考えてもらうか。


※この物語はフィクションです。実在する人物や団体とは一切関係がありません。架空の創作物語です。

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