ミクロとマクロのコンディショニング
選手にとって終わらない課題は山ほどあります。
そのひとつは、レースに向けた調整方法かと思います。
まれに私を、調子が安定していると評されることがあります。
ひとつ断言しましょう。
そんな人間はどこにもいません。
コンディショニングの前段階
ざっくりと年間のスケジュールを把握すると、見えてくるものがあります。
誰しも、出るレースには良い状態で挑みたいと願う一方、狙いたいレースもあるものです。
本来、プロは勝つべきレースを明確にします。
我々の昨シーズンであれば先ず、国内ツアーの総合優勝はマスト、各UCIレースのポイントは取りこぼしなく、全日本選手権は当たり前に狙う、このあたりでしょうか。
土台には、選手を根本から実力強化するという見えない狙いもあるでしょう。
これらを挙げただけで、大変な作業であることは明白です。
マクロのコンディショニング
ただシーズンインに間に合わせ、それなりのコンディションでレースを戦っていては、勝てるものも勝てません。
オフシーズンを強化期と捉え、ハイシーズン以上に追い込むことはもはや常識です。
ではレースシーズンを戦うポイントはどこにあるのでしょうか。
グラフの横軸をカレンダー、縦軸をレースのプライオリティとし、レースを入れ込んでみましょう。
これにより、大まかなピークと小さな波を可視化しようではありませんか。
実践例
昨シーズン、私の身体はツアーオブジャパンを終えて完成される予定でした。
その後、ツールド熊野をスキップし短い休養をとり、Jプロツアー那須2連戦をフレッシュな状態で追い込み全日本選手権へとむかう段取りを描いていました。
それまでのトレーニング、優勝したレースでさえ調整段階であり、一切の過不足なく進行していました。
しかし、そう思った通りにはいかないことが世の常です。
レース期間中に負ったチームメイトたちの手傷を私が代替りするには、予定より早く調子を上げて、結果を残すことです。
抑えていたものを解放する瞬間とは、いつの日も不思議なものです。
この日この瞬間だけは、誰にも負けないのだと思えるときが必ずあります。
しかし、その反動は確実に疲労として心身に蓄積されていきます。
ミクロのコンディショニング
昨年のジロ・デ・イタリア
序盤戦を圧倒したサイモン・イェーツが後半にかけて失速、調子のあがらなかったクリス・フルームの後世に語り継がれる独走による大逆転劇がありました。
3週間にわたるグランツールには『バッドデイ』があるといいますが、そもそもバッドデイとはなんでしょうか。
ひとつは、コンディションの良い状態で追い込み過ぎる疲労があるように思います。
上り調子の際、身体の動きと回復力は意のままのようです。
しかし、調子が下降線を辿るとき幾度も追い込むとどうなるでしょう。
しばらくは暗いトンネルを彷徨うことになるかも知れません。
実践例
調子が悪いときに休むことは、賢明な選択です。
しかし、状況がそうさせないこともあるでしょう。
レースがたて込んでいる場合、休み過ぎない方が吉とでるときもあります。
先に挙げたマクロの実践例で、一月ほどずれ込んで調子を落としていた私の例をあげてみましょう。
週末には全日本TT、翌週には全日本ロードが控えています。
経験から、週半ばに実戦的なトレーニングをある程度行っておくことが、精神衛生上良いかと思います。
TTの場合はレースペースで7分-3本、ワークアウト全体を2時間以内で切り上げます。
レース当日は体調云々に関わらず苦しむのみですが、その週を省みれば、トップ10に滑り込んだことは悪くない結果です。
その後、ロードへの調整を開始します。余計なことは思考から切離し、やれることをやるのみです。
調子が優れない場合、テンポ域を重点的に乗り込むことで疲れを持ち越さずに仕事量を稼ぐことができます。
4時間も乗れば十分です。レースの競技時間に無理をして合わせる必要はありません。
また、どうしても刺激をいれる場合には、通常のやり方では失速し印象を悪くさせる可能性があります。
その際は通常の半分で良いでしょう。
2分なら1分、10周なら5周などに減らします。
大事なことは、『やれることはやった』と自負することです。
全日本ロードは思った展開にはなりませんでしたが、メイングループ7番手でのフィニッシュでした。
当日まで最善を尽くす
調子が優れない日は誰にもあります。
そんな1日をレース当日に迎えないことです。
1週間、いえ、3日もあれば出来ることは必ずあります。
人の調子とはわからないものです。
そして、体調に関わらずチャンスは巡ってくるのです。
後悔したくないのであれば、やるしかありません。
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